初めての化粧
とうとう今日から大学生。化粧品は昨日買って、今から初めての化粧をする。
だけど、今までそういう着飾ることに興味がなかったから、何も分からない。
「お母さん、化粧教えて」
「うん、分かってる」
ということで、お母さんに化粧を教えてもらうことに。ちなみに、薬局で化粧品選んだのもお母さん。そこに私の意思はない。別にいいけど。
さて、化粧をすることに。
お母さんはまずボトル(?)に入った液体を自らの手のひらに垂らして、私の顔に塗りたくった。たぶん、化粧水。化粧水が何か分かんないが。
「何のために塗るの?」
「保湿のため」
うん、よく分かんない。
次に小さなチューブから肌色のクリームを出して、これまた顔に塗りたくる。
……しばらくして、お母さんの手が離れた。小さな鏡を手渡される。
「おお!」
何ということだろう! イチゴ鼻じゃなくなっている! 密かなコンプレックスだったから、嬉しくてたまらない。
あと、頬の毛穴も見えなくなっている! これは素晴らしい!
次にこれまた肌色の……なんて言えば良いのだろう? 粉が固まったものだろうか? あ、だけど道具は分かる。パフだ。確か、そう。
もしかしたらこれが、よく聞く『ファンデーション』とやらではないだろうか?
とりあえずパフを固形の肌色に擦りつけ、顔中につけていく。
……終わった後に鏡を見せられたのだが、違いが分からない。意味あるのだろうか?
「変わらないね」
どうやらお母さんもそう思うらしい。これは本格的に意味ないのでは?
さて、次はピンクと薄ピンクの、これまたたぶん粉が固まったもの。二つある。ここが大事。
お母さんはまずピンクの方の上に、あの国民栄誉賞を取ったサッカー女子代表が記念品として受け取っていたブラシ(もちろんそんなに高級なものではない。ただの化粧品のケースの付属品だ)を当て、くるくると回す。そして今度は私の右頬の上でくるくると回した。その後もう一度つけ直して左頬。
次に薄ピンクの方でも同じ様にくるくると回して、今度は先程よりも大きな円を描く。
両頬が終わって、また鏡を見た。……うん、変わらない。
「あんまりつかなかったね」
やはりか。これもする意味あるのだろうか?
最後に口紅。これは自分でやらせてもらった。昨日どの口紅がいいのか試すとき、お母さんが私の口に塗ってたから、やり方は分かる。
しかし──
「……どうやって出すの?」
完全に盲点だった。昨日は口紅を出すところは見ていなかった。
「ここを回せば出るよ」
そう言って、お母さんは銀色のところを回した。おお、本当に出てきた! ……もしや、口紅のキャップがあんなに大きいのは、持ち運びの時にくるくると回ってしまい、口紅が出てしまうのを防ぐためかも。
私は右手に口紅、左手に小さな鏡を持って、慎重に口紅を塗り始めた。
……一通り塗って唇全体を見る。少し、上の方に塗り残しが。ほんの少しだけど、A型の私には許せない。
塗ると、少しズレた。
「あーあ」
私はかなりの不器用だから、ある意味仕方ないかも。折り紙だって1ミリの誤差も許せないが、結局誤差ができてしまい、イラついてパパーと適当に折る。そして酷いものができあがるのだ。
ティッシュで口紅がはみ出したところを拭く。これでだいたい大丈夫。
「これで大丈夫?」
お母さんに最終確認。
「大丈夫じゃない?」
よし、じゃあ大学へ行こう。幸いにも、電車の時間には間に合いそうだ。
私はのんびりと片付けをして、化粧ポーチをリュックにしまう。
リュックを背負って、玄関で靴紐を結ぶ。いつものように言おうとして……
「……行ってきます」
何となく気恥ずかしくて、ぽつり、と小さく呟くようになった。聞こえなかったのか、返事はない。
私はドアを開けて、新たな世界へ踏み出した。