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その少女、殺人犯につき

「歩さんは招待されたんだよ」と彼女達は笑った。

 どうやら、私のことを知っているらしい。彼女達が、大きな目を私に向けている。


 ——どういうこと?


 混乱する頭を整理する。

 有栖川夜を殺して、意識が途切れて。目覚めたら、病室にいた。それから、十字架を持つ少女が襲いかかってきた。


 怖かった。殺されるかと思った。冷えた汗が制服のブラウスを、じとりと湿らせていた。でも、不思議ともう、さっきの少女の存在は感じられなかった。


 ——ここは、どこ?


 見渡した辺りに覚えはない。背後に、病院の建物がそびえていて、周りには住宅が立ち並んでいる。ただ、異様なのは、人の気配がしないことだった。生活感が全くない。何かしら音がしてもいいはずなのに。静まり返っている。


「ねえ。お名前、教えてくれる?」と、私は少女達に聞いてみた。冷静にならないといけない。


「私がメア」と黒いドレスを着た少女が答える。

「私がリア」と白いドレスを着た少女が答えた。


 頭がおかしくなりそうだった。2人には、服装以外の差異がない。同じ金髪で、同じエメラルドグリーンの瞳で、同じ背丈。


「メアちゃんと、リアちゃんだね」と。ドレスを取り替えられたら、わからなくなるのに。私は確認する。


「うん」と2人とも頷いて、無邪気な笑みを浮かべていた。


 ——私に、敵意は持っていないみたい。


 安堵の溜め息をついて、何気なく見上げた空を、茜色の雲が流れていった。


 有栖川夜を殺してから、どのくらいの時間が経っているのだろう。時間の感覚が全くつかめない。ベッドの上で目覚めた時は、鮮明に思い出したのに。今は、すごく遠い日のことのように思えていた。


 気がつけば。少女たちが、じっと私を見ている。


「どうしたの?」と。私は目線を合わせるために、膝を曲げた。



 地獄を守る底無し穴の霊。

 蛇を纏う黒き猟犬。

 ネメアの谷に巣くう獰猛な獅子。

 灼熱を放つ怪物。

 この共通点ってなあーんだ?



 突然、2人が声をそろえて言った。


 ——なぞなぞ、かな?


「うーん、わからないな」と私が考え込んでいると、2人はキラキラと目を輝かせた。


「ヒントはね、ギリシャ神話だよ」と、笑う。声がそっくりだから、どちらが言ったのかはわからない。


「ギリシャ神話なんて、よく知ってるね。すごいなあ」と、私はおだてた。少女達が、本当に嬉しそうな得意顔をしたところで、聞いてみる。


「わからないなー。答え、教えてくれる?」


 すると、あっさり。答えを教えてくれた。


「みんなのお母さんがね、エキドナなの」


 どうやら、知識の問題だったようだ。これは考えてもわからないな、と私は苦笑した。


「ねえ、歩さん?」


 改めて。2人に声をかけられた。少女達と目を合わせる。


「なあに?」


「なんで、殺したの?」


 2人はにっこりと笑いながら、首を傾げる。私は動揺を隠せずに、目を見開いた。


「みんな、知ってるよ?」


 2人の笑顔が不気味だった。私は初めて。彼女達から悪意を感じた。


 人殺し、と小さな2つの影がざわめいた。

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