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作者、『死刑よりも残酷な』を振り返る。

 ——また、1話分を書き終えてしまった。


 達成感と共に抱くのは、一握りの恐怖心。

 書き手の私vs.読み手の私。熾烈な戦いの火蓋が切られる。


 5年のブランクを経た後は、読み手の私よりも書き手の私の方が劣勢だった。どうやら、批評力が衰えるスピードよりも、文章力が衰えるスピードの方が早いようだ。


 今回も。読み手の私は、書き手の私を痛烈に批評した。


 ——お前、それでいいのか。


 まず、読み手の私が問題にしたのは、リデルの「純潔の血」という表現について、だった。


 ——お前、処女の血より非処女の血の方が汚いとでも言うつもりなのか? 処女の身体を切り裂いて、純潔の血? 笑わせんじゃねぇよ。リデルの言う「純潔の血」は、どう考えても破瓜の血のことだろうが。


 ズケズケとした物言い。思っても誰も口にしないことを言うのが、読み手の私。しかも、書き手の私より、横柄で口が悪い。書き手の私が、どんどん縮こまっていく。


 ——それに、メアとリアが切り取るのは、やっぱり耳じゃないだろ。乳房にしておくべきだったな。夜の、女への否定は重要なファクターだった。シーンが生きていない。


 書き手の私の手がわなわなと震えていた。手の中にある、小さな筆は今にも折られてしまいそうだった。見かねた本体の私が止めに入る。


「もう、やめてあげて! 書き手の私のHPは限りなくゼロよ!」


 すると。読み手の私は、なんと本体の私にまで口を出してきた。


 ——お前が甘ちゃんだから、汚ったねぇ言葉並んだ汚ったねぇ小説が書けねぇんだよ。綺麗な言葉だけ並べて綺麗なだけの小説書いてればいいってもんじゃねぇだろ。


 たかだか、読み手の私のくせに。なんと、本体の私にまで口を出す! 沸々と怒りが込み上げてきた私は、読み手の私に言い放つ。


「正しさを振りかざすと、嫌われますよ。あなたは、批評することにかまけて、物語に寄り添うことを忘れてしまったのです」


 読み手の私がやっと、黙った。本体の私は、すっかり小さくなった書き手の私に駆け寄る。


「あなたは、やればできる子! ほら、最後まで頑張って」


 本体の私は書き手の私を励ましながら、なんだこの戦いは、と思っていた。


 ——これは、私にだけ起きる現象なの?


 最近は読み手の私が調子に乗っていた。が、かつては書き手の私が調子に乗っていることもあった。俺の文章かっけえ! 状態の書き手の私はウザくて、読み手の私の痛烈な批評にスカッとした覚えがある。


 何事もバランスが大事なのに。夜通し小説を書いて疲れた私は、休みの日の朝から贅沢にもゆっくり眠ることにした。

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