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国に戻るためには、隣国との間を流れる川を渡る必要がある。
だが、川を渡るには、両国の王都にある河港から船で渡るしか手段がない。
まずは隣国の王都を目指すため、二人は川沿いの道を進んだ。
「もう少し行けば、村があるはずだ。そこで必要なものを調達しよう」
ジェラルドは隣国の地理を知っているのか、最初にいた川岸の周辺を調べると、冷静に道を判断して進んだ。
「殿下は隣国にお詳しいのですか……?」
「ああ。以前、留学していた」
言葉の通り、しばらくすると川沿いの村が見えてきた。
ジェラルドはその手前で足を止めた。
「この服では目立つ。村に行って適当な服を買ってきて欲しい」
ジェラルドは普段は騎士団に在籍しているので、今着ている服も動きやすい軽装ではあるが、それでも仕立ての良いものだった。
確かに質の良い服を着ていれば、素性を怪しまるかもしれない。
「分かりました、殿下」
返事をしたエセルに、ジェラルドが視線を向ける。
「この先は、殿下という呼び方は控えてくれ。誰かに聞かれては面倒だ」
「では、どうお呼びすれば……」
「ジェラルドだ」
「かしこまりました、ジェラルド様」
エセルはジェラルドの名前を心の中でも繰り返して練習した。
国に戻れば呼ぶ機会はないだろうが、それまでは間違えないようにしなければならない。
「君は、名前は?」
「エセルと申します」
ジェラルドもエセルの名前を一言口にすると、懐から取り出したお金を渡した。
「今日はこのまま森を通って野宿になるだろう。夏とはいえ夜は冷えるから君も上着と、あとは食糧を頼む」
「はい」
エセルはそれを大事にしまうと、村へ下りて服を買い求めた。
王族が着るにはあまりに質素なものだったが、素性を隠すにはむしろその方が良いだろう。
エセルは自分の上着も買っていいものか躊躇したが、ジェラルドがああ言ったので、購入することにした。
食べ物も購入して、急いでジェラルドのところへと戻る。
「あの、お手伝いは……」
「必要ない。私は騎士団で生活をしているから、身の回りのことは自分でできる」
ジェラルドは服を受け取って着替えた。
王族は自分で身の回りのことをやらないものだが、ジェラルドはそうではないらしい。
こんな状況で城のような生活を求められても応えられないだろうから、エセルは少しほっとした。
エセルがジェラルドについて知っていること言えば、国王の年の離れた異母弟で、騎士団に所属していることくらいだ。
これは公式な情報で、城で働く者ならば誰もが知っている。
それ以外には、真面目で自分にも他人にも厳しい性格と聞いたことがある。
騎士団では王族のお飾り職ではなくて、実力で在籍しているらしい。
行動を共にしてまだ僅かだが、無表情しか見たことがなく、確かに厳しそうな方だとエセルは心の中で思った。
「先を進もう。なるべく早く進みたい」
少し休んだ後、二人は再び歩みを進めた。
その後も黙々と歩き続け、日が暮れると森の中で火を焚いて野宿となった。
一日中歩き続けていたこともあってか、エセルは木に寄りかかってすぐに眠りについた。