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国王は臣下の手で死んだという。
正気を失い乱心した国王を、臣下達は抑えて自ら剣を上げたと。
主を失った王座を巡り王位継承権を主張する王族たちがそれぞれ対立し、国王を手にかけた改革派と、国王は弑逆されたと主張する一派に別れて内乱状態らしい。
様々な思惑が対立して、国中が不安定に揺れた――。
全てが憶測のようなのは、これらが聞かされたものだからだ。
あれから、自国は周辺国との交流を断絶している。
あの日以来、川に船の姿はない。
自国へ渡る手立てはなかった。
そのため正確な情報も入ってこない。
ただ、ジェラルドは生きており、王位争いには加わらず国の安定化に奔走しているらしい。
エセルにそれを教えてくれたのは、隣国の王太子だった。
ジェラルドの手で船に乗せられた後、エセルは一人で隣国の河港に戻された。
そしてジェラルドに言われた通り、隣国の城へ向かい王家の紋章の入ったペンダントを見せると、すぐさま隣国の王太子に出迎えられた。
ジェラルドが隣国に留学していたころに共に学んだ仲らしく、王太子は王家のしるしを託されたエセルを手厚く保護した。
王太子はそれまでの二人の経緯を聞き、もっと早く連絡をくれたら国へ戻ることに手を貸せたのにと嘆いた。
けれど、ジェラルドが自分を頼らなかったのは、兄王に裏切りと誤解されないためだったのだろうとエセルに言った。
それでもエセルにペンダントを託したのは、乱心した兄王よりもエセルの安全を優先したのだと。
王太子はジェラルドのその願いを聞き届けた。
そうして、エセルは一人で隣国の地で冬を迎えた。
薄暗い空から、ひらひらと白いかけらが舞う。
エセルは羽織を引き寄せながら、冷える窓の側に近づいた。
「雪が……」
見上げた灰色の空は、次第に白く染まっていく。
この国で雪が降っているということは、自国も同じように雪だろうか。
国には家族がいる。
内乱で街も混乱しているという話だが、家族は無事だろうか。
両親と兄の姿を思い浮かべる。
そして、もう一人の姿を思った。
「ジェラルド様……」
あの日、ジェラルドがエセルを船に押し戻した意味が今は理解できる。
国が乱れることを予想していたから、危険から遠ざけるために隣国へと戻したのだと。
けれど、こうして隣国から一人で国を思うのは寂しい。
この雪で寒くないだろうか。
ケガはしていないだろうか。
そんな不安ばかりが募る。
国へ戻るために歩き進んでいた時は一日中一緒にいたのに、今はこんなにも遠い。
あの日々が懐かしい。
船でジェラルドが言ってくれたことと同じように、エセルもジェラルドの側は居心地が良かった。
それを思い出すと、側に行きたい思いで胸が押しつぶされそうだった。
エセルは服の中から紐を手繰り寄せた。
あの日、ジェラルドに持たされたペンダント。
王族のみが持つ大事なものを、ジェラルドはエセルに託してくれた。
常に肌身離さず大切に持っている。
今のエセルにとって、これが唯一のジェラルドとの繋がりだった。
両手で包み込み、そっと唇を寄せる。
「どうかご無事で……」
忘れたことのないその姿を思い浮かべて願った。




