表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚行の果て  作者: Taq
1/1

元気でねって言わなきゃ良かった。

序章 プロローグ

嬉しかった。素直に。

74という数字が、生徒玄関に貼られた紙に当たり前のように記してあった。

「この高校で自分は頑張るんだ。」って思っていた。

ケータイを使って母親に結果を言うとき、改めてケータイの便利さを感じながら文字を打つ。受験期間は親にケータイを預けていたから久しぶりに触るケータイの感触が新鮮だった。

父親には電話で報告した。2人とも声が震えていたのは可笑しかった。

通っていた塾の先生、家庭教師の先生、英会話教室の先生に報告を済ませ、1番最初にLINEを送った相手がそう、僕の前の彼女である。



第1章 物語の始まり


日和は、僕とは違う中学に通っていた、吹奏楽部にいた女の子。


彼女を初めて見たのは中3の花火大会。

もともと自分は彼女の友達と知り合いだったから仲良くなれたのだろう。

その年の夏から友達のコネでLINEは交換していた。だけどまさかその時には、2人が交際関係に発展し、曲のストーリーに出てくるかのような終わり方をするなんてお互いに思っているはずもない。

春休みに課された高校の課題を終わらせつつ、結構な頻度で彼女とLINEをしていた。 他愛もない会話ばかりが続いていた。

彼女も希望の高校に合格していた。 僕とは違う高校だが、偏差値は同じくらいだ。

僕にある時、「日和と遊んでみたい!」という気持ちが芽生え始めた。 日和に言ってみたら、その気持ちはお互い同じであった。 日にちを決め、どこのショッピングモールに行き、お昼はどこで食べ、などの計画を立てた。 所謂「デート」と呼ばれるヤツだ。

あれは忘れもしない4月4日 電車を降り、日和と待ち合わせをする。 花火大会以来に生で日和を見た。「かわいい。」 そんな思いが頭を駆け巡って止まってくれなかった。

男という生物はバカだ。 その後の展開をすぐ想像してしまう。 こういう状況に鉢合わせると、目の前をしっかりと見ることができなくなってしまう。

駅からショッピングモールへは歩いて行った。 久しぶりに会うのもあり、最初はお互い雰囲気が硬く、とてもデートと呼べるものではなかった。

それに危機を感じた僕は、すかさず話を日和に振る。

「昨日のライアーゲーム見た?」

「うん!見たよ! 松田翔太やっぱかっこいい〜」

彼は俳優だ。もちろん知っているが、それを知りながらもなぜか悔しかった。

妬いていたのだ。 器の小さい男だ。

ショッピングモールは大きかったから、一周回るだけでも十分楽しめるのだ。 ゲーセンにも行った。 楽器屋にも行った。 彼女が好きなバンドの歌を僕がピアノで弾くと喜んでくれた。

やはり楽しいことは時間が過ぎるのが早い。 あっという間に夕方になった。 電車に乗る。 僕が降りる二駅前で彼女が降りる。家についてまずはLINEだ。今日のお礼をする。「今日はありがとう! 楽しんでくれたかな??」 5分も経たずに返信が来た。 「こちらこそありがとね〜 すごい楽しかったよ!また行きたいね!」

最後の「また行きたいね!」 これには驚いた。 いや、驚きより嬉しさが勝っていたかもしれない。「…また会えるのか!」


2週間経ち、また遊ぶことになった。学校生活が始まっていたのもあり、カフェで勉強もしようということになった。 化学の、水兵リーベ僕の船 から始まる元素記号を覚えているか聞いてみた。日和は優秀だ。 自分より覚えが早く、悔しくて負けじと自分が得意な英語の問題を出す。 それは答えられなかった。なんとも器の小さい男だ。こんなことを繰り返してお昼の時間になったのでサンドイッチを食べ、自分の家の近くの公園まで歩いて向かう。 20分くらい歩く距離だったが、ずっと話していたおかげで全く苦と思わなかった。新学期ゆえに、会話のネタが尽きることはなく、今思えばとても羨ましい状況だった。

自分がどうやって告白し、それが成功し、付き合うことになったのかを事細かに説明すると、公園のベンチに2人で座り、自分の方に彼女の方を寄せる。「これって付き合ってるっていうのかな〜…」と言うと、「んー、わかんない」と返す。 「でもやっぱりおれは日和が好きだよ」 「んー…」 反応はあまりよろしくない。 その反応によって少し焦った自分をその当時客観的に見ることはできなかった。 なんとしてでも自分のものにしたい! この気持ちが強くなっていく。 帰りの駅で彼女からこんなことを言われた。「わたしも好きですよ。 とうとう付き合うことになりますね。よろしくおねがいします。」 とても丁寧だった。 嬉しさのあまり泣きそうだった。



学校が違うということが恋愛においてかなりの障壁になるということはまだお互い気づいていなかった。 しかも高校生。自分はテニス部、日和はバスケ部。 そしてテニス部も決してガチな部活ではなく、エンジョイの割合が高い部活である。それに対しバスケ部は、毎日の練習が大変であり、毎日の学習時間を確保するだけでも大変な部活だ。 そこにはとても大きな差が生じていた。しかし平日にも関わらずLINEはかなりの頻度で続いていた。続いてたというより自分が続けていた。「部活お疲れ! 今日も大変だった?」 はたから見るとこれは相手のことを気遣っている文章だと認識できる。しかし頻度を考えずに送るとなるとそれはもはや荷物になってしまう。しかもその荷物は大変重たい。 経験者は語る。

付き合って1ヶ月の前夜、自分は動画を作っていた。なんの動画かというと、記念日の動画だ。 付き合ってから1ヶ月まで撮った写真を使い、スライドショー風に仕上げた。 そこにはテキストも追加できる。そして12時ちょうど、LINEを開き、動画を送る。

彼女も起きていたようだ。 考査が近く勉強していたからかもしれない。 いつもはこの時間帯には寝てるはずなのだ。

「なんか、泣いちゃった。」

とLINEが来て驚いた。 図に乗ってしまう。

「いや〜 まさか泣いてくれるとはね。 でも、嬉しいよありがとう。」

その日はよく寝れた。


学校が違うとこんなに会えないのか! って思っていた。 毎日の授業に身が入らず、1年第1考査では自分が得意としていた英語でさえも、9割取ることができなかった。


自分が通う学校は第1考査と第2考査の間が1ヶ月しかなかったのだ。テストが終わればまたテスト期間。 進学校に通う学生の運命なのだろうか。 しかし焦りなど当時の自分には無く、気持ちは彼女の方に行きっぱなしであった。もちろん第2考査も結果はそぐわない。 それでもまだ焦っていなかった。 というより焦るという気持ちが掻き消されていたのだ。


彼女の父は仕事で東京に行く機会が多く、帰ってくるとみんなで夕飯を食べるのが常だったらしい。 それさえも僕は捻じ曲げてしまった。


とても強い雨が降った日、「もうこれ洪水になるんじゃね?」というレベルの雨が朝からとめどなく降ってるいるのに遊ぶ約束をし、彼女の母に車で最寄駅まで送ってもらい、自分の部屋に連れて来た。 午前は勉強をした。午後は2人とも布団の中でおしゃべりしていた。いちゃついたりもしたと思う。そして夕方、雨は止み、「これなら駅まで行けそうだね」彼女が言った時、「ラーメン食べに行かない?」と僕は誘った。 彼女は「いいよ!行こ!」と言ってくれたが、彼女のお母さんからLINEが来たらしく、「今日お父さん帰って来てるけど夕飯どうするの?」 といった文面が表示されている画面を見せられた。その時僕は、彼女に判断を委ねた。「お父さん帰って来てるんだし、お家で食べたら?」とも言った。 しかし彼女は、「いや、ラーメン食べる!」と言って聞かない。 僕はその時無理矢理でもお家に帰らせた方が良かったのかもしれない。ラーメンを食べた後、また彼女からケータイ画面を見せられる。「お父さんが『あーなんだ、日和いないのか〜』ってちょっと不機嫌だったよ。」「ほら絶対帰った方が良かったじゃん…!」心の中では思ったが口には出さなかった。これはお互いに嫌な気分になっただろう。

自分の母にも言った。すると、「あんたそんなことしてると向こうの家族に嫌われるよ?」 って言われた。

「そんなことわかってるよ!まずいに決まってる!」

「それよりさ、花火大会の日の夜さ、泊めていい?」

思い切って聞いてみたのだ。 花火大会が迫っていた。2人とも部活の予定が入っていたがその合間をどうにかどうにか縫って行こうと決めていた。

「あんたバカじゃないの?ダメに決まってるじゃん!」

「どうして!」

「向こうの家族は絶対反対すると思うよ。」

「それなら聞いたよ日和に。 向こうはいいって言ってたらしいよ。」

「向こうは良くてもウチはダメ。」

まあ理由はわかっていたが、一歩も引かなかった。

母も引かなかった。

交渉に失敗した旨を彼女にも言った。

「まあ、しょうがないよ。」

「そうね、まだ高校生だしね。」

「それにあたし、その日合宿になってたんだよね。」

予想外だった。そしてショックだった。

LINEだと「あーそうだったんだ!笑 そりゃーしゃーない! 合宿頑張ってきてね」とは送ったものの、内心はショックだった。

自分の中で青春を謳歌しているという基準の1つに、彼女と花火大会に行く というのがある。 それが無くなってしまったのだから。

ますます彼女への思いは強くなる。

「次いつ遊べる? 来週の土曜は?」

「うーん、その日練習試合かな。」

「じゃあ次の週は?」

「その次の週は遠征がある。」

なかなか多忙なバスケ部だ。スケジュールがびっしり入っているのだ。休日は土日練習当たり前。 その代わり月曜日は必ず休みで、その休みで買い物に行ったり、勉強したりしているのだ。しかしその月曜日は自分が部活がある。仮に自分が部活を休んで電車で彼女に会いに行ったとしても、ろくに遊べないし、何より部活を休んで彼女と遊ぶということがよくないことだからそんなことはできなかった。なかなか会えない。

その埋め合わせでLINEをかなりの頻度で送っていたのだ。やるべきことが多い高校生。 増してや部活がとても忙しいと、どうしても彼氏のことは二の次、三の次、になってしまう。 今考えれば至極当たり前のことなのに…



そんな彼女にも、夏休みに入るとオフの日が2日か3日あった。その日を利用して、久しぶりにデートに行った。 まずはじめに水族館に行った。前から行きたいと言われていたので、真っ先に計画の中に入れた。自分も久々に熱帯魚を間近で見て、「うわー、綺麗だね」と思わず声を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ