18歳にして子どもができました。
俺の名前は滝本祐。年齢は18歳。高卒で就職して、車で死んだ。目が覚めたら地面に落ちて死にそうで、魔法使いの美少女に会って……ってなんだこれ。めちゃくちゃだな。そんで今、俺はスライムの中にいる。なんでだろう。
少しさかのぼること、五分前。
「スライ……ム?」
今、俺はスライムと思わしきものに乗っていた。その感触は心地よくて、俺はその物体の上で何度も跳ねる。現実世界にはない素晴らしい感触、なんとも表現できない。
「これは、ちょっと、癖になりそうだ。」
というか、俺が想像していたスライムと違い思ったより大きかった。俺が座っても余裕がある、例えるなら、あれだ、人を駄目にするソファーを二倍にした感じだ。もっと手のひらサイズだと思っていた。これは快適だな。このまま俺は駄目になりたい。
「あなた!何してるの!?魔物で遊んで!どいて、《火よっ!魔物を打てっ!》」
サラが降りてくると同時に何かを唱える。おそらく、詠唱だろう。音として聞こえるのだが、その音を再現しろと言われて、自分の身一つで再現できる気がしない。さらに、サラの杖から火の玉が飛び出してきた。その火の玉はそれなりのスピードで俺に向かってきた。そう、スライムにではなく、俺に。
「おいいいぃぃぃ!!あぶねぇぇぇ!!!」
俺は間一髪で火の玉をかわす。というか熱い。かわせても至近距離で火の玉が近くを通っていくのだ、ものすごく熱い。俺に当たらなかった火の玉は後ろの岩にぶつかり鎮火した。
「お前、本当は俺を殺す気だろう!このドジっ子魔法使いが!!」
「ドジっ子魔法使いって何よ!!というか、あなたが魔物で遊んでるのが悪いんでしょう。私、悪くない。」
ツン、とした態度をとるサラ。以前の俺ならかわいいで済んだのだろうが、たった今殺されかけた俺としては、納得できない。が、かわいいから許す。ツンとしたサラを見て萌えていると、俺が乗っているスライムに動きがあった。というか、俺の体が沈んだ。スライムの中に。
スライムの中には俺がちょうど入っても余裕のある空間があり、周囲を見渡せる上に音も聞こえる。さらには、呼吸までできた。よし決めた、俺はここに住もう。
「馬鹿な事考えてるんじゃないわよ!!今あんた大変な状況なのよ!?スライムに捕食されたら人間なんてひとたまりもないのよ!?」
サラが外側から騒いでいる。そんなわけないだろう。ここはこんなに快適なのに。俺にとっては外の世界こそ害悪だ。ほら、そんな太陽が照っているスライムの外に出てみろ、お肌が日焼けしちゃうじゃない。ほら、ここにはこんなに気持ちのいいクッションもあって、軽く振動してマッサージ効果もありそうな……ってこれ、スライムか?俺の想像しているスライムそのまんまだな。
「お前、スライムか?」
声をかけるが、返ってこない。それは当然だ、スライムには声帯がない。ただ、目は口よりもものをいう、ということわざがある。俺はスライムの目のような場所に目線を向ける。さらに、軽く震えている体。そして、スライムインスライム。よし、これはスライムに捕食されているスライムということでいいだろう。なぜそんなことがわかるのかって?説明しよう、ぶっちゃけると周りの壁、というかスライムの体が迫って来てます。なんだよこれ!スライムってこんなにえげつない捕食すんの!?拷問じゃん!かわいい見た目に騙されてる!なんでみんなスライムのこと愛らしいとかいうの!?ぐろいわこいつ!!
とにかく何かしないと、俺もスライムも死ぬ。さぁどうしよう、スライムの弱点なんてわからないし正直力も人並以下にしかない。そもそもスライムって作っても何ゴミで捨ていいかわからないし、嫌いなんだよ。つーか、あれって可燃ごみで正解なんか?毎回可燃ごみで捨ててたけど、間違ってたらいろんな方面に怒られちゃうよ。誰か、ネットで調べて教えてね。
「スライムは火属性の魔法が弱点よ!もう、しょうがない!!熱いでしょうけど我慢しなさい!!」
サラはそう言ってから何かしらの詠唱に入る。先ほどの詠唱よりも長めの詠唱だから、強力な魔法なのだとわかる。というか、あいつは今ここに、このスライムがいることを理解できているのだろうか。先ほどの話からして、今詠唱している魔法は火属性だろう。つまり、この手の中で震えているスライムにとっても弱点ということだ。このスライムには、なんの思い入れもない。ただ同じスライムに食べられただけ、それだけの関係だ。守ってやる理由もない。だが、俺の勘が告げている。このスライムは守らなければいけない。なぜなら、このスライムはかわいい。萌えではなく、癒し。いうならば、ゆるキャラのような存在だ。守ろう、この子を。そうだ、この子は俺の子供だ。今決めた、この子は俺の宝物だ。齢18で子供なんぞ考えたことなかったが、こんな危機的状況だから考えがおかしくなってるのかもしれないが、この子は俺の子供!!決定事項だ!!!!
「我慢しなさい!!《火よっ!火の監獄を模した渦となり魔物を燃やし尽くせっ!!》」
サラの詠唱が終わるとともに、俺たちの周りに魔法陣が展開される。
手の中のスライムの震えはさらにひどくなる。俺はそんなスライムの体を力いっぱい抱きしめる。
「大丈夫、安心しろ。俺が守ってやるからな。」
スライムにはなんのことか、わからないだろう。だが、俺の言葉を聞いてか安心してくれたように見えた。
サラの魔法は凄まじいものだった。火の渦に巻き込まれながらも、スライムを守りながら思う。とてつもない熱を背中に感じる。俺は今スライムの中にいるので、まだマシだろう。しかし、これを直に浴びている大スライムにはたまったものじゃないだろう。
パンッ!!スライムがはじける音が聞こえた。それと同時に、サラの魔法は終了し、俺の背中に元々スライムの体であったであろう、熱湯が降り注ぐ。
「っっっっっ!!」
俺はとてつもない痛みに悶える。背中の全面に火傷を負ったのだろうか。おそらく、Ⅱ度20%くらいだろうか。致死量の火傷ではないが、危険なのには間違いないだろう。とにかく、意識が遠のいてくる。
「大丈夫!?ちょっとこれ、死んじゃうんじゃ!!」
サラがこちらに近寄ってくる。しかし、おそらく何も出来ないだろう。彼女の見た目は魔法使い。回復魔法なんて、あっても使えないだろう。出来るとしたら、僧侶か賢者だろう。サラに期待できない以上もう助かる道はないだろう。俺が死ぬ前に、このスライムだけでも……
「おい、スライム。俺はここまでっぽいから頑張って生きてくれ……」
俺の腕の中からスライムを離す。スライムはそのまま、抜け出ようとせず、そのまま俺の腕の中に居続ける。
「おい、俺はそろそろ限界だから。出ないと押しつぶすぞ?」
スライムはそれでも出てこない。そろそろ、限界だと思った瞬間に、サラの声でも、俺の声でもない声が聞こえた。
「だい……じょうぶ。まもって、やる?」
すると、スライムは俺の背中に回って自分の体を伸ばして俺の背中の火傷を覆った。スライムの体はひんやりとして気持ちよかった。まぁ、今更こんなことしても遅いだろうけど……ってあれ?なんか、火傷治って来てない?マジで?スライムってこんな力あんの?マジやべぇぇぇ!!つーかこいつさっき喋ったよね。声帯とか関係なしに喋れんの?いや、無理だろ。ここが異世界だからか!?これがご都合主義なのかぁ!?なんて間に火傷は完治していた。治療を終えたスライムは俺の腕の中に戻ってきた。
「いったい何なのよ、そのスライム。」
サラがありえないものを見るような眼でこちらを見ている。やはり、異世界でもこんなスライムは珍しいのだろうか。……さすが我が子!天才なのか!?天才なんだな!?これは親バカとかじゃないはずだ、天才に違いない。俺はスライムを再び抱きしめる。
「ありがとなぁ……我が子よ……」
腕の中のスライムは嬉しそうに抱きしめられているような気がする。
「はぁ?魔物が我が子?」
サラは何を言ってんだという目を俺に向けている。いや、これは誰にも止めさせない。俺はこのスライム を我が子として引き取ると決めたんだ!!
「いや、そこまで決めてるならいいんだけど……」
我が子を大事にする心に種族なんて関係ないのさ!……って
「なんで、お前、俺の心読めてんの?やめてくんない?」
そういえば、さっきから口に出してないのにうまいこと話がかみ合うなと思っていた。心が読まれていて気持ちいいと思うほど、俺はMじゃない。
「はぁ?何言ってんの?やめるわけないじゃない。これは便利なんだもの。」
それはそうだろう。ならばやめたくなるようなものを見せてやろう。俺は今までの同人作品を頭に思い浮かべる。思い浮かべるのは主にロリもの。つまりサラと同じような年齢の女の子ばかりだ。
「な、なななな!何なのよこれ!!こんなの思い浮かべるなんて、変態っ!!」
そうだ思い出せ、あの作品の数々を。様々なジャンルのエロスを。変態王国japanの底力を!!
「やだ、ちょっと、やめるから。やめるから!!」
サラの顔から赤みが消えてゆく。本当にやめたのだろう。これでお互いに平等な立場だ。
「よし、それでいいんだ。これでお互い平等な立場だ。で、ここはどこよ。」
単純な疑問をぶつける。そもそもこの疑問が、今出てくる時点で相当濃密な時間だったな。そら、子どももできるわ。え?普通できない?関係ないよ、可愛いんだもん。
「なにが平等よ。力関係もわかってないの?」
少し呆れたような素振りをみせた、サラは少しして切り替えるように首を振ると、腰に手を当て少し胸を張り、言い放つ。
「まぁいいわ。ようこそ、エルアモールへ。」
えー、どこですかそれー。あ、スライムやわらかーい。