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とりあえず、異世界に来たっぽい……

 俺の名前は滝本祐。年齢は18歳。高校を出て、すぐに地方公務員として就職した。新社会人になり三か月が過ぎようとしているが、未だに職場の先輩や仕事に慣れずにいる。なんならまだ、自分が高校生なのではないかと錯覚するときもある。だが、それはもちろん気のせいで、日曜日の超ご長寿アニメの時間になると無意識にため息が出てしまう。

 元々、地方公務員はなりたくてなった職業でもない。高校三年の夏、進路希望調査票を白紙で出した俺は先生に呼び出され、進路を問い詰められた俺はめんどくさげに、誰にも文句を言われない職業として地方公務員という進路を保守的に選択した。もちろん、そこからは地方公務員になるための勉強を開始したが、なりたくもない職業になるために勉強をし続けられるわけもなく、すぐに勉強を放棄した。しかし、試験が終わり結果を見れば見事合格。今思えば、俺には昔からこういうところがある。小学校から続けてきたサッカーや高校受験、そのどれもがここぞという時に何かしらの力のようなものが働いて結果は自分の都合の良いように動く。よく周りからは要領がよい上に運を持っているという評価を受ける。全くその通りだし、俺は否定しない。正直、人生はなんとでもなるがモットーだ。

 そんな俺が中学校二年の時だったか、俺は同級生に勧められたあるものにドはまりした。俺がはまったあるものは、ただでさえ楽しかった当時の現実世界をさらに楽しく、夢のあるものにしてくれた。今の俺にとってはそれが唯一の楽しみであり、生きがいとも言っても過言ではない。

 今の俺の生きがいは、現実世界にはなく仮想世界。所謂、二次元の世界だけになってしまった。中学生の俺に同級生が勧めてきたのは、一冊のライトノベルだった。俺はそのライトノベルを読み、その世界のすばらしさに魅了され、そのまま現在に至るまで抜け出せないでいる。いや、抜け出せないでいるではなく、そのすばらしさに魅了され続けている。二次元は現実とは違い毎日、いや、毎時間毎分ごとに姿を変える。そんな世界に俺は憧れ、魅了され続けていた。


「はぁ、もう無理……しんどい……辞めたい。」

 ある平日の夕方、俺は誰もいない車内でそう呟いた。車内では俺の好きなポップなアニメソングがそれなりの音量で流れているが、今の俺はそのポップな曲すら暗くさせるような雰囲気を纏っている。今日の仕事が特別しんどかったわけではなく、最近の帰路の車内はいつもこんな感じなのだ。

「でも、やめられないよなぁ……どうせなら、異世界転生、出来たらなぁ。」

 これも、最近の口癖だ。どうせ出来ないことを口に出して現実逃避しているだけだ。わかっている、わかっているんだけど、やめられない。実はこれって結構マジに現実逃避になるからやってみろ。……やりすぎたら、泣きたくなるけどな。

「そういえば、あの書類のことまた田中さんに聞かないと駄目なのか……めんどくさい。」

 仕事のことを思い出して思い出死したくなる。信号待ちの間に少し軽く伸びをするが、それだけでは肩の凝りも疲れも取れない。信号が変わったので、ブレーキから足を外してアクセルを踏んで、交差点に差し掛かる。そこまでは、いつも通りの日常。しかしそこからが、いつもとは違う非日常。俺が交差点に差し掛かった時、どういうことか、右手側から車が来ていた。その車はスピードを出していて、止まれそうにない。なぜだか、運転手の焦った顔がよく見える。走馬燈なのだろうか、家族と友達、さらに今まで読んできたライトノベル内容が頭に浮かぶ。俺の車にぶつかってくる車、それをもろに受ける俺の姿が、三人称視点で俺の目に見えた気がする。ここで、「あ~あ、ゲームオーバーか……」なんてことを考えられたら、どれだけかっこいいのだろうか、俺が最後に考えていたことはそんなかっこいいことではなく、

「あれ、今って交通安全週間じゃなかったっけ……」だった。


 目が覚めると、見知らぬ天井があった。なんて典型的なものじゃない。なぜなら、目が覚めると地面に垂直落下していたのだから。いやーまさか上じゃなくて下を見て目覚めるなんて典型破りもいいとこだよな~。

 なんて、考えてる場合じゃないな!!

 今俺は地面に向か合ってものすごいスピードで、アイキャンフライっ!している。この状況で一般人の俺は何ができるのでしょうか。いいえ、何も出来ません。いいですか?これが反語です。皆さんも使ってみてください。

「なんて考えてるだけ、あんたはまだマシね。」

 急に横から声が掛けられる。今、俺はものすごいスピードで地面に向かって、アイキャンフライっ!しているのだ。そんな状態の俺にまともに話しかけられる奴がいるわけない。

「いるんだけど……」

 風圧だとかの関係でまともに言葉を話すことなんてできないのだ。そうだ、こんな流暢な日本語が話せるなんて、そんなのありえない。これは幻聴だ。幻聴なんだ!!!

「だから、いるんだって!!」

 なんでいるんだよ!!横を見てみると、そこには平然とした顔で俺と一緒のスピードで、アイキャンフライっ!している、黒髪のロングヘアーの美少女がいた年齢は14歳くらいだろうか、俺よりだいぶ若々しく見える。顔も整っているし、とてつもない美少女だ。冷静に見てみると、この子はアイキャンフライっ!という感じではなく、空を飛んでいるという感じだった。

「いや、あなた本当に冷静ね。まぁ、いいわ。あなたをこの状況から助けてあげる。今なら無償だけど、どうしたい?」

 これはあれだろうか、助けてもらってこのまま、一緒に冒険するフラグだろうか。どちらにしても、この子の力を借りないと、俺は死んでしまうだろう。ここは、この子を頼るしかない。

「いいわ、あなたを助けてあげる。この私、大魔法使いのサラ様がね!!」

 その子改めサラは、小さい杖のようなものを懐から取り出すと、詠唱のようなものを開始する。声が小さいので詠唱の内容までは聞こえないが、なんだか優秀そうな雰囲気に安心する。

「くしゅんっ!……あ、やっちゃったっ!!」

 くしゃみが聞こえてくると同時に、サラの焦った声が聞こえた。あ、これはあれだわ。俺、死んだわ。おそらく、先ほどのくしゃみで詠唱が中断されたんだろう。地面はもう目の前にあるし、これから詠唱しても間に合わないだろう。まぁ、最後にドジっ子魔法使いが見れただけでも、いい人生だった。では、ゲームと同じように地面に強く衝突してみようか。カウント、3・2・1・・・

 おかしい、いつまでたっても0のカウントがこない……もしや、助かったのだろうか。試しに体を動かしてみる。なにか、しっとりした柔らかい感触を感じた。上半身を起こし、俺が座っているものを見てみる。俺は水色の何かに軽く沈みこながら座っていた。これは、俺のイメージと違うが、あれだな。

「スライ……ム?」



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