女が嫌いになった瞬間
仕事が終わったので帰ろうと廊下を歩いていたところでで高い声に一緒に引き止められた。
「河井さーん!!」
大きく手を振って俺の元に来た女性。なかなかの美人だが、俺はこの人がどこの誰か知らない。本当なら無視しておきたいが、名前呼ばれたしなぁ。
「・・・・・・・・・なんでしょうか」
「あ! ちゃんと返事してくれた~」
名前呼ばれたら返事くらいするだろ。俺は会社の人にどう思われているんだ。
「それで、用件は?」
「いやね、ちょっと付き合ってほしいなーと。あ、男子もいますよ! ほら、河井さんて仕事するだけして終わったらすぐ帰っちゃうじゃないですか」
そりゃあ、仕事しに来てるからな。
「それに河井さん、最近雰囲気がよくなったから・・・・・・その、やっぱだめですか?」
だんだんとモジモジしてプラス、最終的にうるうる目で言ってくるこの人。今思い出した、佐々木奈絵だ。ってそんなことはどうでもよくて。
「すみません。今日はちょっと・・・・・・あ、あの・・・・・・?」
「お願いします! 大丈夫です! 男子もいますから!」
それってつまり合コンみたいのじゃ・・・・・・
しつこいこの人になんて断ろうかと考えていると、さっきまで静かだった廊下が騒がしくなってきた。周りを見渡すと、どこから来たのか社員達がこちらを見ながらこそこそ話している。
佐々木さんを見ると彼女もこっちを見て笑っていた。その笑顔には圧力を感じる。
「行ってくれますよね? 河井さん」
今ここで「行きます」と言わなければ俺の印象が悪くなって会社にいるのがつらくなると言っているのか、よくはわからないが俺にとってよくないことが起こるのは目に見えている。
「・・・・・・はい、行きます」
「ありがとうございます! じゃあ行きましょう!」
今までとは別の意味で女が嫌いになった瞬間だった。
指定の場所に来るともうほとんどの人が飲んでいた。
「さぁ、今日はみんなで飲みまくろうぜ!」
「こんなに集まったの久しぶりですよね!」
「何飲む~?」
「もー聞いてくださいよ! 今日ひどかったんですよ!」
「あ! 河井くんが来たー!」
「え! まじ?」
そう言ってみんながこっちを見る。
「あ、あの今日はよろしくお願いします」
「そんな堅苦しくすんなよ! もっと肩の力をぬけ!」
「は、はい」
もうすでにかなり飲んでいるらしい人が肩を組んできた。
・・・・・・この人、俺と会ったことあったっか?
気のせいだろうか。覚悟はしていたものの、よく見ると会社ですれ違ったことすらないような感じの人がほとんどだった。
「・・・・・・はぁ」
俺は他の人に聞こえないように小さくため息をついた。