久々の病室
「ふー、終わったー」
パソコンをたたんで背中を伸ばす。隣は休むことなく、鞄を取っている。それを横目で見ながら俺も準備をする。俺の席の前にある時計を見るとあと20分しかなかった。やばい、どうしよう。これから戸締まりの確認など、最後にやらなければいけないことがいくつか残っている。思わず鞄の中に入れるその動作ががさつになってしまう。すると帰る準備をしていた彼女がチラッと俺のことを見た後、
「最後の仕事は私がやっておきますよ」
と言った。俺はがさつに動かしていた手を止める。その行動とは逆に口では否定する。
「い、いや、でも、悪いですし大丈夫です」
「気にしなくていいですよ。出張の時はお世話になったそのお礼だと思ってくれれば」
何でここまでしてくれるんだろう。少し警戒してしまう。
「・・・・・・じゃあ、お願いします」
「はい。任せて下さい!」
走りながら腕時計を見る。あと15分。電車に乗って一駅だし、病院は駅のすぐ近くだ。
「はぁ、はぁ、」
ドアが閉まる直前の電車に乗り込む。チラッとまた腕時計を見る。あと10分ちょっと。ぎりぎりだな。そこからも走って病院に向かった。
病室に入るといつものにおいと音がする。定期的な電子音と病院独特のにおい。時間がないから電気はつけないでおく。
「奈緒、久しぶり」
俺はそう言って奈緒の頭を優しくなでる。そこからなでていた手を奈緒の顔に滑らせていき、自分の頭を奈緒の顔にゆっくりと近づけ、チュッと短いキスをする。
・・・・・・たくさん話したいことがあったけれど今日はもう無理だな。
「これから仕事が忙しくなるから、あまりここに来られないんだ。次来た時は今日話せなかった分も含めて話すからな」
奈緒の前髪をあげておでこにキスをする。
「・・・・・・じゃあな」
そう言って俺は病室のドアを閉めた。
「あ、芹沢さんに明日お礼しなきゃな」