主張前は
ピッ、ピッ、ピッ
規則的な電子音が聞こえる。真っ暗な個室。独特な消毒の匂い。
そう、俺は今奈緒の病室にいる。そして窓の外を見る。
「今日は月が綺麗だな」
そういえば、あの事故の時も月が綺麗だった気がする。庇われた時にふと見た、あの時の月に似ている。
明日から3日間の出張だ。だから、今日はここで寝る。待ち合わせ場所から少し遠いが仕方ない。少しでも奈緒の近くに居たい。それだけだ。
割と主張の多い俺はいつもこうやって朝を迎える。どんな時でも奈緒のことを忘れないように、頭の中にこびりつける。
「いい加減、未練がましいよな。こんなの依存にちかいよな」
そんなことを言ってみる。言ったところでどうとなるわけではない。
頭の中ではちゃんと分かってるんだ。だけど、気持ちはそう上手く割り切れない。だってあんなに好きで好きで、そんなやつが突然植物状態になったら、しかも俺をかばった所為だとしたら、忘れるなんてことはできない。少なくとも俺はできない。
そんなことを考えていたら、奈緒と過ごした日々がよみがえった。楽しかった時。喧嘩した時。そして事故の時。一つ一つを昨日のことのように思い出す。
暫く思い出してから俺は眠りについた。