笑う
話しましょうということにはなったが、どんなことを話せばいいのかわからない。そう思っていると芹沢さんが話しかけてきた。
「えっと、ちょっと知りたい・・・というか気になるだけので、答えたくなかったら無理に答えようとしなくていいです」
「わかりました」
彼女はなぜか軽く深呼吸をしてから聞いてきた。
「芹沢さんって女嫌いなんですか? それも極度の」
「え、い、いや・・・・・・・・・・・・そうなのかもしれません」
「でも私とは普通に話せてますよね?」
何でだろう。それは俺自身にもわからない。
「なんででしょう? よくわかりません。さっきもそう言われて考えてみましたが、だめです。全くわかりません」
「そうですか。・・・あ、もしかすると私は河井さんに異性として見られてないのかもしれませんね」
芹沢さんは少しいたずらっ子みたいな顔をした。
考えるまでもない。その顔で彼女の考えていることがわかった。だから俺もあえてそれに乗る。
「なるほど。そう考えるとしっくりくるかも」
ムッとしたらしい。失礼だ、と顔に書いてある。
「冗談で言ったのに本気にしたんですか!」
「い、いや、俺だって冗談で言ったんですよ!」
「わざわざ私の冗談に乗らなくてもいいんですよ。というか、一応私も女性なんですから冗談でも失礼ですよ。それにちょっとショックだったんですから」
彼女のあまりの圧力付きの説教に「確かに」と思ってしまい、
「ご、ごめんなさい」
と言ってしまった。
こんなんじゃ、全部俺が悪いみたいじゃないか。
「で、でも、芹沢さんが先に冗談を言い始めたんですよ」
「だから?」
「だ、だから、俺が全部悪い訳じゃないですよね?」
俺がそう言うと芹沢さんは少し気まずそうな顔をする。
「ぅ、た、確かにそうですね。・・・・・・失礼なことを言われた側としてはこんなことあまり言いたくはありませんが・・・」
コホン、と空咳をしてから、
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
と言った。少し悔しそうに、照れながら。
「あ、今の仕草と表情は完璧女性ですね」
「いや、見た目も女性ですからね」
それから一瞬二人とも黙ってから二人同時に、
「ふ、あははは」
「あはははは」
と笑い出した。それからしばらく笑った。
「あーあ、久しぶりに笑った。あ、初めて私の前で笑いましたね」
思いついたように言う芹沢さん。
慌てて口を押さえる。
あの日に決めたじゃないか、もう本気で笑わないって。俺には笑う資格なんてないって。そう思って今までだって笑わずにしてきたのに。こんな簡単に破ってしまうなんて。
混乱して芹沢さんに返す言葉がうまく出てこない。やっと出てきたものは情けないぐらい小さい声と一緒だった。