最後の時
ここはどこだろう。
真っ暗な底、何故だかわからないけれど物凄く息が苦しい。
それとは別に、誰かが私のことを呼んでいるような気がする。その「誰か」の声は次第に大きくなってくる。
「………お……お……なお! 奈緒っ!」
うっすら目を開けると男の人が私のことを抱えながら泣いていた。
ああ、私、こいつをかばって車に跳ねられたんだった。じゃあ、私このまま死んじゃうのかな。嫌だな。まだ死にたくない。
「あ、あきよし、な、泣かないで。私は死なない、よ?」
「何で、何で今名前で呼ぶんだよ! さっきまであっきーって呼んでくれたじゃないか! 」
そう言って泣き叫ぶあっきーに私はいつもの笑顔でこう言った。
「何を言ってんの? あんただっていつも私のことをお前って呼んでる癖に。大丈夫。心配しなくても死んだりなんてしないから。あ、いして……」
遠くの方で私を呼ぶ声が聞こえたけれど、体は言うことを聞いてくれず、そのまま意識を手放した。
最後にちゃんと笑えただろうか。最後にちゃんと自分の気持ちを言えただろうか。ああ、一つだけ言えてなかった。それは………
あなたと恋人になれてよかった。