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プロローグ

『怠惰な聖職者』ウィリアム=クレストフォードの朝は遅い。

むしろ、朝と呼ばれる時間に起きることはほぼない。

そんなウィリアムを早朝に起こすのは、彼の使魔にとっても難仕事である。

しかし、ご主人さま以上に敵にまわしてはいけない存在があることを、使魔であるビッキーはよく理解していた。


「ぐっもーにんぐ、ご主人さま。お客様ですわん。」

「‥‥」


「ご主人さま。起きないと後悔いたしますわん。お客様ですわん。」

「‥‥」


「リリアーナ様がいらっしゃってますわん。」

「‥?!」


小さな窓しかない、暗くて狭い寝室で惰眠を貪っていたパジャマ姿の若い男がその一言で飛び起きた。

寝癖のついた漆黒の髪に、ダルそうで半分しか開いてないが色だけは鮮やかな翠の目。長身に細身だが筋肉のついた外見は好みは別れるだろうが10人中8人はイケメンに分類するだろう。


「あと5分で支度して出てこないと実力行使するって、5分ほど前におっしゃってましたわん。」

「‥時間切れじゃないか‥それ‥詰んだ‥」




ドォォォォォォォォン!!



響き渡る轟音にウィリアムはリビングの天井がなくなったことを確信した。












「ねぇウィル。わたくしを待たせるとは貴方はいつからそんなに偉くなったのかしら?」


天井は無事だったが南方向の壁がスッキリとなくなったリビングには、煌めく銀の髪を複雑に結い上げた紫の瞳の絶世の美女がいた。その体を包むのは無粋な魔術師のローブだが、そんなことでは彼女の美貌は欠片も損なわれない。


ウィリアムとは数百年の付き合いになる親友‥と書いて悪友と読みそうな美女は、優雅に紅茶を飲んでいた。

妖狐の使魔であるビッキーとウィリアムしかいないこの家でお茶なんて出るわけがないので、アイテムボックスから取り出した自前の品だろう。



「これはこれは‥『煉獄の魔導師』リリアーナ=レストラーナ様。こんな辺境まで、お忙しいあなた様にお越しいただけるなんて非常に光栄です‥なんて言うと思ったかこの45点め!!

何の用だよ。どんな内容でもめんどくさいからやだよ。おやすみなさい。」


「このボロ家、もう少し風通しよくしてあげましょうか??」


氷のような微笑みをその美貌に浮かべながら、リリアーナが左手を突き出すと、炎が吹き出して西側の壁が吹っ飛んだ。もちろん絶妙に魔力コントロールされているため、炎の魔法なのに回りは焼けていない。



「ちょ‥言う前に実力行使良くない‥。どうもすみませんでした。」


「ご主人さまがリリアーナさまに勝てるわけないのですわん。もう百年単位で負け続けてますものん。諦めてお話しを聞いた方がよろしいですわん。」


ウィリアムもリリアーナも人族だが、迷宮探索で見つけた『永久の雫』という不老長寿になるアイテムを飲んでいるため、外見は二十代前半のまま500年ほど生きている。

果てしない腐れ縁である。




リリアーナは完璧に整った美しい眉を盛大にしかめながら大きな包みをアイテムボックスから取り出す。


「とりあえず、帝都にいるロジーから受け取ってきた荷物を渡すわ。感謝なさい。」


「おおっ!!ついに完成したか!!美脚くん8号!!165センチモデルの黄金比に、魔導具として温かさまで追加した究極の一品っっっ!!!」


ウィリアムは包みを奪い取り包装を破ると、中から取り出されたリアルスケールの脚を、普段半分しか開いてない翠の目を全開にして見つめる。


「こ‥このふくらはぎのライン!!そして足首!ロジー!!なんていい仕事をしてくれるんだ!!ああっ‥最高‥‥。」


「相変わらず気持ち悪いわね。」

「ご主人さまの美脚フェチはもう病気ですわん。全ての聖職者系職業を極めた世界最高の聖職者で、地位も名誉も金もいくらでも手に入れられるし、顔だって悪くないのに全くモテない原因そのものですわん。」




美女と一匹は作り物の脚(リアルスケールで太ももから下が全てあるのでかなり大きくて気持ち悪い)に頬擦りして、ハァハァする男を気持ち悪いものを見る目で見つめる。(実際かなり気持ち悪い)



「‥‥どうしてアレに惚れちゃったのかしら‥‥。」

そんな美女の小さな呟きは、作り物のふくらはぎを撫で回してハァハァしている男には聞こえない。




「いい加減本題入ってもいいかしら‥?脚フェチ変態男。」

「‥‥ハァハァ」


「ねぇ。時間あんまり無いの。」

「‥‥ハァハァ」


「‥‥(イラッ)」


リリアーナが指を鳴らすと美脚君8号(右脚)が炎に包まれる‥‥ハァハァ抱きついているウィリアムごと‥。


「うぉおっ。あっちぃ。焼ける焼ける!!」

「こんがりロースト聖職者ですわん。ご主人さま。」

「リリー!!消火ぁぁぁ‥。」



リリアーナが再び指を鳴らして水をぶっかけて消火すると、焦げたパジャマ姿のウィリアムと炭になった美脚君8号(右脚)があった。



「あぁあ‥!!美脚君8号ぉぉぉ!!リリーのバカ!!ひどすぎるぅ‥。自分の脚が45点だからってぇぇぇ‥。女の嫉妬は醜いぞぉ‥。今夜のオカズがぁあ‥。」


「本当に気持ち悪いわね。炭なんて投げ捨てて自分の火傷治しなさいな。脚フェチ変態男でも世界随一の聖職者でしょう。」


リリアーナは、ずぶ濡れの焦げたパジャマに全身火傷(ただし軽症)のウィリアムを容赦なく蹴り飛ばす。


「ぅぅ‥45点に蹴られても全然ご褒美じゃないっ‥。うぅ‥。ロジーに依頼してから今日まで3ヶ月、毎日楽しみにしてたのに‥ひどい‥ぅぅ‥。この制作費のためだけに氷霊山の古代竜倒してきたのに‥うぅ‥。」

「ご主人さま、まさに能力のムダ使い♪」


「相変わらず後衛であるはずの聖職者の定義を無視した変態ですわね‥

もう、まともに説明する気も失せましたわ。時間もないことですし。ウィル、抗魔の指輪を外しなさい。そうしないともう1つ預かってる美脚君8号(左脚)も燃やすわよ。」


「うぅ‥。それはご勘弁ください女王さま‥。」


おとなしくウィリアムは抗魔の指輪を外してアイテムボックスに投げ入れる。全ての状態異常耐性を付与された神宝とも言うべき指輪を外すのは、どうせリリアーナの魔法実験に付き合わされるんだろうという諦めと、リリアーナが自分を害することはないというウィリアムの信頼のあらわれだ。


「話がはやくて素晴らしいわ。じゃあね。ウィル。」


リリアーナが指を鳴らすと、ウィリアムは深い眠りに襲われた。


「ビッキーも眠りなさい。新しい世界でもウィルを助けてあげてね。」

「リリアーナさま?!どういう‥‥」


少し寂しそうに微笑むリリアーナを見つめていたビッキーも、すぐに睡魔に襲われた。





眠りに落ちた一人と一匹を重力魔法で浮かせると、寝室に向かう。寝室についたリリアーナは今度は寝室の床を炎の魔法でぶち抜いた。もちろん繊細な魔力コントロールで周りを燃やしたりはしない。


寝室の床には、この部屋の主さえも知らない地下への階段が隠されていた。





階段を下るとそこには大きな魔方陣と、1つの石で出来た寝台。リリアーナが今日のために、部屋の主にさえ内緒で作った地下室だ。


リリアーナは寝台にウィリアムを寝かせると、そのお腹の上にビッキーを乗せる。





「ウィル‥ウィリアム。愛しているわ。

45点のわたくしじゃ、貴方は欠片も女として見てくれない重度の脚フェチで変態ってわかっているけど、それでも愛しているのよ。

みんなが褒め称える美貌も、1000年に1人と言われた魔法の才能もそんなもの貴方にとっては少しの魅力にもならないものね‥。

これから起こる世界の厄災。恐らく世界は崩壊する‥。本当は魔女として全ての魔力で厄災と戦うべきなんでしょうね。

でもわたくしは貴方のために魔力を使うわ。貴方が目覚めるときが、世界の厄災が過ぎ去った後でありますように。

‥‥未来で幸せにね。」




リリアーナは寝ていて反応のないウィリアムの少し冷たい唇にそっと口付けると、首に着けていた紫水晶のネックレスを外してウィリアムに握らせると、あらかじめ書いてきたメッセージカードを枕元に置く。



リリアーナが魔力を込めると魔方陣とは紫に輝き、そしてウィリアムとビッキーを包み込んでいった‥。

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