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ルールを説明いたします。

 全速力で走るのは久し振りだった。

 久し振り過ぎて、あっという間に息が上がる。

 ぜえはあと乱れる呼吸を繰り返し、干上がった喉に必死に水分を送ろうとする。唾を飲み込むが上手くいかず、喬士は辺りを見回した。

 自販機を探して水でも飲もうと思ったのだけれど、こういう時に限って見当たらない。


『まっゆずっみさぁ~ん!休憩ですかぁ?』

 イヤホンから、能天気な声が響く。

 耳障りではないのが自分でも不思議だった。

『あ、先程プレゼントした腕時計がですねぇ、実はGPS機能付きなんですよぉ!イヤホンにマイク機能もついてますから、わたしたち、ちゃんと会話出来ますよぉ!』

 いけしゃあしゃあというか、なんというか。

 話についていけずに黙っているうちに、どんどん進めていく彼女。

『ええとぉ、お話した通り、貴方は逃げてください。ただ、それだけです。とっても単純で簡単なオシゴトですよねぇ?』

「逃げるって、…何から?」

『“狩人(ハンター)”から、です。ネットで賞金を出すって募集したら応募が殺到ですよ!すごいですよねぇ!うふふっ』

 「うふふじゃないっ!」…と叫んでやりたかったけれど、グッと堪える。兎に角自分の状況を冷静に受け止める事に努めた。冷静さを欠いてしまっては大事な事を逃してしまう。

「要するに鬼ごっこをしろって事なのか?」

『はいぃ!』

「街中で?」

『場所は貴方の居る場所、何処でもです。狩人側にはもう貴方の画像は配布済みです。わたし、お仕事速いんです!』

「因みにどんな相手なんだ?」

『沢山の応募の中から抽選で決めましたので、どんな人達なのかはよく知りません!』

 これこそいけしゃあしゃあである。

『取り敢えず、数は20人でぇ、それぞれに目印を用意してるんです。後でお伝えしますんで、覚えて当ててください。相手が何番の狩人かを言い当てられたら、その時計で位置関係が分かるようになって有利になりますから!ね、楽しそうでしょう!』

 勝手な話だ。

 そんなゲームに巻き込まれた方の事なんか一切考えていないのだろう。

 あまりにも一方的な話に喬士は腹が立って仕方がなかった。

「お断りだ。悪いけど他を当たってくれ。それこそネットで募集すればいいじゃないか。こんな無理矢理じゃなくて」

『ダメです。黛さんが良いんです』

「…」

 あの彼女に言われたと思うと、悪い気はしない。不覚にも、ドキッとさえしてしまった。

 惑わされるな、俺。

「俺だってきちんと頼まれれば協力だって出来たかも知れないよ。だけど、こんなやり方は非常識だと思う。君…ええと」

『アヤコです』

「アヤコさんは誰かにこうするように指示されたのかもしれないけれど、」

『いいえ?これはわたしの実験ですぅ!』

「君が首謀者なのか!?…いや、それは兎も角」

 一瞬相手のペースにはまりそうになりながら、なんとか立て直して抗議を続ける。

「兎に角、別の誰かでやってくれ。今日は友人と約束もあるんだ。悪いけど、君に付き合ってあげる暇はないんだ」

『黛さんは勘違いをしています。貴方には拒否権なんかないんですよぉ?へっへっへ~!こっちには人質さんが居るんですからねぇ!』


 ジャジャン!と効果音を言いながら、イヤホンの向こうでアヤコが誰かに声を掛ける。

『ここでスペシャルゲストの登場でぇ~す!』

(――まさか…)


『黛くん…』

 蒼白になる喬士の耳に、よく知った声が届いた。

『ごめんなさい…。私、』

「前村さん!?なんで――」



 その時、



「あーーーーーーーー!!ずっこいでおっちゃん!」


 辺りのビルに反響する大声が響いた。

「っ?!!」

 驚きながら声の出所を探ると、いつの間にか背後に知らない人物が立っていた。

 今にも飛びかかりそうな体勢で。

 瞬間、喬士のからだにあの感覚が再び甦る。


 逃げなければ―――!!


 何かを考える暇もなく、


 喬士はまた、一目散に逃げ出していた。


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