レイヴンとレイカ 3
H&K HK416の派生型自動小銃Coharie Arms MP-10を小脇に抱えた全身黒ずくめのレイヴンは、向かってくるバンに照準を合わせた。
そして、ためらうことなく引き金を引いた。
――ババババババババッ!!
ヘリコプターが鳴らす高速回転モーター音みたく、発砲音が夜気にこだました。ボンネットを貫通し、バンパーが粉砕する、右前輪がパンクし、右へ左へ不安定に蛇行。
路面にブレーキ痕を残しつつ、バンはなんとか急停止をした。
「くそがぁっ!撃ち殺す――!!」
と、同時に勢いよく車中から躍り出た男共が罵声と共に銃弾を浴びせてきた。
それらはスパイラルに空気を切り裂きながら精確にレイヴンを穿つ。
一瞬にして上半身が蜂の巣となり、赤黒い血液がドピュっと放物線を描きながら噴出する。
誰もがそんな光景を思い浮かべただろう。
だが、一瞬にして目が点となり、我が目を疑った。
――弾丸が自ら避けることなどしなければ。
「な、なんだぁ!!」
罵声が途端にして奇声に変わった。
思わず自分達の銃口を疑った男共は、言葉にならない単語を発するだけで理解できなかったのだろう。
互いに顔を見合わせ、立ち尽くす。
何事もなかったかのように佇むレイブンは、大きく息を吐くと男共を頭のてっぺんから足の先までトレースするように視線を舐め回した。
その鋭い目つきが、さらに男共の足を地面に縫い付けた。
「ん?それは――」
その時、レイブンは男のズボンがずり下がっていることに目を留めた。
ベルトが外れ、ボタンも取れ、チャックも完全にずり下がっていた。
わずか数秒思案、思考回路に駆け巡ったのは、薄汚い男による可憐な少女の人さらい、無抵抗でいたいけな発展途上の体に目がくらんだ欲情。
「・・・・。」
レイブンの頭上のスロットが、カシャカシャとロール、そして3つとも同じ目を弾き出した。
その答えは――
「警戒レベル、Level 5。対象を殲滅する。」
眉間に幾重もの皺が刻み込まれ、莫大な怒りの本流が渦を巻いて体を取り囲んだ。
全身から水蒸気が昇ったかと思うと、瞬き一瞬、レイヴンは姿を消した。