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レイヴン休暇を取る

「それは、クビということですか、マスター。」

「そうじゃない。休暇を取ってはどうかと言っているんだ。」

「はぁ。休暇ですか。」

レイヴンはオウムのように繰り返した。

12階から望む歴史の浅い上海市外灘ワイタン近くのオフィス街は、日本の東京駅付近のビル群を想起させ、ここが中国であることを忘れさせてしまうほどだ。

一足伸ばせば人民広場周辺、新世界グループが経営する高級顧客をターゲットとした総合百貨店が人々に最先端の流行を発信し、また南京東路通りでは今日も観光客が物価の安さに目がくらみ消費に専念する。

ここからでもその賑わいが手に取るように分かる。

「日本から上海へ、ここ半年は休んでいないだろう。」

「マスターのシークレットサービスですから。あなたがお休みになるまで私は休みません。」

「私は休みたくても休めないんだぞ。」

「でしたら、私も休むことができませんので。」

「なるほど・・・って、あのなぁ。」

歯切れの悪い言葉を遮るようにして、デスクの電話が鳴った。

私だ。ああ、何。レイヴンなら目の前に居るが。・・・分かった。伝えておくよ。

「どうだろう。交代で休みを取るってのは。」

電話を切るや否や、初老の男はむきになったように話を続ける。

「意味が全く分かりませんが。少なくとも私の休み中に、他のシークレットサービスを雇うのでしたら、まだ分かりますが。」

「馬鹿言うな!これ以上人件費をかけてられるか。専用車にこの外灘ワイタン近くのオフィス、小姐シャオジエのお土産、こうも経費がかさむなか、これ以上無駄な人件費をかけてたまるか!」

「人件費以上に無駄な項目があり過ぎます。」

とにかくだ。

初老の男は、スーツを脱ぎチェアの背もたれにかけた。

「来週からは、休暇もとい別の仕事を与えるからな。」

「本当に言っているのですか。」

「ああ、そうだ。」

「別の仕事と言うと。」

「まぁ、なんだ。簡単な仕事だ。私の愛娘のお守りみたいなもんだ。」

さぁ、さっさと出て行きたまえ。私は忙しいんだ。

話は終わったと言わんばかりに、初老の男はしっしっと手のひらで追い払う。

問題の先送りをする時は、大抵良くないことと相場は決まっている。

レイヴンは一礼だけし、特段何も言わずに踵を返した。

「そうだ、レイヴン。」

レイヴンは頭だけをドアから覗き込ませた。

「後で、経理のシェンさんのところに寄るように。」

表情だけではてなマークを出しつつも、二つ返事で部屋を後にした。


――マスターの愛娘のお守り。


シークレットサービスはベビーシッターも請け負わなければならないのか。


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