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第2話

これを着なさいとノリノリで押し入れから出し渡されたのは、母さんが昔着ていたらしい白いレースのヒラヒラが付いたワンピースである



「こんなもの着れるか!!ジャージで良いだろ」



「ふーんそうですか、桜ちゃんは抵抗するのね?いいわこれを着ないなら今後のお小遣いはなしになるけどいいの?」



「えっ、そ、それは……」



恥ずかしいので勿論抵抗した

しかしお小遣いというまだバイトの出来ない俺にとっては重要な、唯一の収入源の廃止を持ち出され無駄に終わる

そんなもの出されたら勝てる訳がないだろ

サバゲの装備品を買おうと思っていたのに無くなるとかたまったもんじゃない

しかも母さんはそれが分かった上でニコニコしながら言いやがって、卑怯な奴め

もういい現実逃避だ戦略的撤退だ


昔の人はこう言いました「三十六計逃げるに如かず」と、要するに不利な状況なら身を守る為に逃げればいいのだ逃げれば



「あ、桜ちゃん待ちなさい!!」



追いかけてくる母さんをなんとか振り切り、2階へ上がって部屋に鍵をかけた

母さんが「開けなさい桜ちゃん!!」などとドアノブをガチャガチャ捻って叫んでいるが無視してベッドにダイブする


しかしここで問題発生、トイレに行きたくなってきた……

だが鍵を開けてしまえば母さんに捕まって着替えさせられるのは明らかだ


どうすればいいのか何か打開策はないのかと考えつつ部屋の中を見回す

するとサバゲでよく使い、お世話になっているワルサーP38と昔、縁日で当ててそのまま放置していた蜘蛛のおもちゃが視界に入った


これだ


母さんは虫や爬虫類が大嫌いである、この前2階から蛇のおもちゃを間違って落とした時に下に居たらしく、悲鳴をあげてへたりこんでいたことがあった

今回はその虫に対する恐怖心を利用し、足元に蜘蛛のおもちゃを投げてビックリしている隙に横を通りすぎ、とりあえずトイレへ逃げるという作戦を立てた

そして念のため片手にはワルサーを持っておこう

人にエアガンであろうと銃口を向けるのはダメだが自衛の為である

それに抵抗できる手段を持っておくに越したことはない


俺はトイレ籠城用にカンパン等の非常食を詰めたナップザックを用意し背負い、ドアの鍵を開けて右手で銃を、左手には蜘蛛のおもちゃを持った

そして母さんがドアを開けるのを待つ


ガチャ


「やっと開けてくれたのね桜ちゃん、さあ観念して……きゃあああ!!」



作戦成功、見事俺の投げた蜘蛛にビックリして母さんは腰を抜かしへたりこんでいる



「残念だったな母さん!俺の作戦勝ちだ」



成功したことが嬉しく、多少ハイになって高らかに叫んだ

そして横をマッハで通りすぎ、逃げようとした……が、母さんを見ると瞳には涙を溜めており今にも泣きそうな表情をしている

すると上目遣いで俺の方を見て呟いた



「私はね、桜ちゃんの今の姿に相応しくて外に出ても恥ずかしくない様な服を選んで言ってるのに……桜ちゃんはこんな風にお母さんから逃げるのね、お母さん辛いわ」



女の子座りでへたりこみ涙声になっている母さんを見ていると何故か罪悪感と可愛過ぎて襲ってしまいたいという二つの感情が湧いてくる

もしここに父さんがいれば確実に母さんをお姫様抱っこで自室に連れ込みちょめちょめするのだろう

しかしここで負けてしまっては着せ替え人形にされるのが目に見えている

さあどうする?どうするんだ俺



「母さんごめん……」



俺は涙声の母さんには勝てないらしい

ここまできて罪悪感が先行し逃げることなんて正直どうでもよくなっていた

そしてへたりこんでいる母さんに手を差しのべる、しかしそれが大きな間違いだった



「ふふふ……お母さんの名演技にまんまと騙されたわね桜ちゃん、さあワンピースにお着替えしましょうねー」



「きゃっ!」



突然腕を引っ張られ、心が男な俺としては恥ずかしい悲鳴をあげて母さんの元へダイブしてしまった

じたばたして抵抗したがやはり体力や筋力等々が衰えているらしく、軽々と運ばれて無理矢理下着含め全て女物に着せ替えられてしまう

母さんにそんな力があったとは……


しかしワンピースはすーすーして違和感しかなく、また女物の下着を着ているという事実に顔が真っ赤になりそう

マジで恥ずかしい……


そしてドレッサーの前で髪もセットされる

顔を上げて鏡を見ると、先程よりも身嗜みがきちんと整えられ綺麗になっていた



「桜ちゃん、お店には家事を済ませてからしか行かないから部屋で休んでていいわよ」



「分かった……少し寝る」



もう疲れた、とりあえず行きたかったトイレに行った後、部屋で昼寝をすることにしよう

部屋から出る時、母さんに「ジャージや他の服に着替えたらお小遣いはなしよ」と釘をさされつつ、トイレに行き、自室に戻った

そしてベッドに転がり少し寝た








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








その後、二時間くらい昼寝をした俺は母さんに起こされ、車に乗せられて遂に大型ショッピングセンター、サトーイツカドウに来てしまった


母さんは可愛い服やら下着やらを見繕ってあげるわねと言い、車を運転している間、終始ニコニコしていた

そんなに嬉しいのか

俺にとっては公開処刑も同然だ


車を立体駐車場に停めてお店に入った

母さんと二人で歩いていると時々こちらを注視する様な視線を感じる

正直気持ち悪い、とっとと失せろ



「母さんもう帰ろうか、なんか視線が……」



「そうねー桜ちゃんがあまりにも可愛らしいから皆の視線が釘付けね」



ええそうですね、そうですとも

出掛ける前にもう一度鏡を見たが、まさかこんな美少女が自分だとは信じられないくらい可愛い

でも可愛いのは見た目だけだ

心は男である、それを知らないからそういった嫌らしい視線で見れるのだろう

本当に気持ち悪い

男からの視線が嫌らしいとか気持ち悪い等と言う女の気持ちがよく分かる

もう見つめるだけで犯罪になって捕まればいいのにとさえ思ってしまう

いっそのこと視姦罪とか作ればいいんだよ

しかしそれでは冤罪を大量に産むことになりそうだしダメか



「さてと桜ちゃん、このお店でいくつか服を買ってくわよ」



そう言って母さんが立ち止まり、入っていったのはガーリーな可愛い服ばかりを扱っているお店だった

ボーイッシュな服はまだなんとか許せる

しかし今着ている様なヒラヒラの付いたガーリーな服はありえない、本当に止めて欲しい


その後、強制的に試着室に引き込まれ、無駄に良い手際で母さんが見繕ったものを何着も試着させられる

最初は嫌々だったが、もうどうでもよくなり途中で考えるのを辞めた

母さんが「似合ってるわねー綺麗ねー」と言う度に、それに合わせて「なかなかお似合いです」等と言う店員の援護射撃も辛かった



そして試着した服の半分近くを買い、袋を持たされて少し休憩しようと大きい通路から外れた場所にあるベンチに座る

母さんは、自分の服を見に行きたいからここでちょっと待っててねと言い、人混みの中へと消えていった


俺は待っている間、ゲームでもしようとスマホを取り出した時、水素やヘリウムよりも軽そうなゴミに声をかけられた



「ねぇ君、今暇?俺とデートしない?」



「え?」



これが俗に言うナンパというやつらしい

髪を茶髪に染めてピアスを付け、チャラチャラしており如何にも頭が悪く偏差値が低そうな屑だ

それに男をナンパするとかお前はホモか、朽ち果てれば良いのにと思ったが、残念ながら今の俺は美少女である

さてとどうしたものか







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