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入部:1

お久しぶりです

前に投降した二作品に続きこちらもようやく投稿を再開できそうです

(と言っても基本月一で短めの投稿ですが……)

「どうしてあんな事したんだ?」

 ズボンのポケットに手を突っ込みながら聞いたその問に対して、俺の()で歩く瑠奈は(とぼ)けた様に首を傾げた。


 つい先程、アイツと一年ぶりの再会をしたのだが、思わず騒ぎすぎてしまったのだ。危うく先生に見つかりかけたところを瑠奈の気転によって逃れてきたところだ。

 代わりに犠牲となったアイツは今頃、説教されていることだろう。先生を呼び込む原因を作った身としては多少の罪悪感を感じていない訳ではない。


 がこの際どうでもいい。別に俺の知ったことではない。俺が気になっているのは先生が乱入してくる前の瑠奈の言動だ。


「どうして、俺がアイツに『会いたがっていた』、なんて言ったんだ? 今日の目的は別の要件だと聞いたんだが」

 それを聞いて瑠奈はなーんだと呟き、振り向きながら続けた。


「そんなこと、面白そうだと思ったからに決まっているじゃない。それに、まるっきし嘘って訳でもなかったでしょ?」

 最後にいたずらっ子の様に舌を出しながら笑って見せた。相変わらず憎ったらしい綺麗な笑顔だった。これにアイツは釣られてしまったらしいが、それを納得するには十分過ぎる程に魅力的な笑顔だった。


「それに、貴方に見てもらいたかったのよ。どうかしら。彼、使えそう?」

「"前"に言ったろ、アイツはそこそこ使えるって」

「私が聞いているのは"今"の彼が使えるかということよ……貴方だって知っているでしょう。――まぁいいわ。取り敢えずこれからどうする?」

「そうだな、今日は特に見廻り(・ ・ ・)がある訳でもな……」


 そこまで言いかけたところで後方、先程までいた下城高校の方向から桜が春風に翻弄されながら、駆け抜けていった。台地の上特有の強風で、思わず体を持っていかれそうになったしまった。

 実際同じ通りにいた帰宅途中である女生徒のスカートが一斉に舞った。瑠奈だけは完全に対処していたが。


 あと隣から「残念だったわね」と聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 言った直後、瑠奈が俺から遠ざかった。そして気の抜けた声で「あーぶなーいよ」とで言った。

 それに「はぁ?」と、返しながら俺は振り返った。この時、瑠奈に向かって半歩動いていたのが項を奏した。


 あらかじめ体を動かしていたので咄嗟の回避行動が間に合った。

 近くにいた女生徒が短く悲鳴をあげた。


 春風駘蕩たる日常をぶち壊すように目の前を、俺が半秒前までいたところをソイツは猛スピードで突っ切っていった。そして十メートル程先で停止、振り返えり、夕日を背に聞き覚えのある叫び声が飛んできた。


「避けんな、この野郎!」

「……それは、無茶ってもんじゃないかな?」

 逆光で顔は見れないが間違いない。目の前には先程身代わりとした旧友、松本(まつもと)麻沙(まさ)がいた。


「逃げんな!コラアァ!」

 再び叫び、襲い掛かってきた。隣に目をやるがそこには誰もいなかった。

 

 ――瑠奈の奴、ひと悶着あると見るや逃げたな。


「てかどうやってここまで来たんだ? あの先生はどうした?」

 避けながら、取り敢えず一番最初に浮かんだ疑問を口にした。

 それに対して麻沙は

「ちゃんと保健室に送って来た! 心配すんな、今すぐお前も送ってやるぞ」

「アフターサービス万端だな、おい」

 大丈夫なのかそれ?


「生憎、間に合ってるんで。遠慮させて貰うよっっと」

 俺は身を翻し、瑠奈の向かったであろう所めがけて走り出した。


 直後、背後からは麻沙が再び一直線に飛び込んできた。その差開いて約十五メートル。殻持ちでの麻沙ならば一瞬で詰められる距離だ。――一般人を殻持ちが追いかける場合には、だ。


 俺も殻持ちなので容易く捕まりはしない。馬が馬を追いかける様なものだ。個人差や運動能力にもよるが、殻持ちを殻持ちを追いかける場合は普通の追いかけっこと何も変わらないのだ。

 これは麻沙も知っている。その上で追いかけてきたのだから、相当俺が許せないのだろう。

 殻持ちの体力は体感で、一般の倍近くまで引き上げられている気がする。

 ――のだが、数秒後に腹部を鈍い痛みが走り足の回転が落ちる。


 先程鳩尾に喰らった一撃の影響で呼吸がままならない。十五メートルのアドバンテージではすぐに追い付かれる程ではないが、このままでは目的地前に捉えられるだろう。


 焦燥感に襲われ振り返ってみると麻沙とのシルエットが見えた。が、同時に夕日で目が焼けるかと思った。

 サングラスをかけ再び振り返る。表情は逆光で見えないが距離が変わらないことは分かる。


 ――何故変わっていないのか?


 この時感じた違和感は後々分かったったことだが、結局俺達の追いかけっこは台地を降り、近くの川辺まで続いた。


 といってもこの台地は南北五キロメートルに対して東西が最も太い所で二百メートル、狭い所では二軒と通り一本――約五十メートル有るか無いか――という程に偏っているのだ。しかも川岸に降りるまでは百メートルもない。

 実際に走ったのは三百メートル程だろう。


 何故すぐに終わったかというと、俺が捕まった訳でも、麻沙が諦めた訳でもない。

 坂を下り、擁壁(ようへき)と川に沿って少ししたところで、五メートル以上上からから澄んだ声が降ってきたのでお互い足を止めたのだ。


 俺は見上げながら尋ねた。

「やっぱりココだったっか。さっきは置いてきやがって……連れて来たけど構わないよな?」


 すると、俺を置いて脱兎の如く消えていた瑠奈は満足そうに頷いた。それを確認したところで麻沙を俯瞰した。

 麻沙は俺と瑠奈の間で何度か目を動かした後、肩が上下する程大きく溜め息を吐き、問いてきた。


 至って単純に「用件はなんだ? 早く終わらせよう」と。


 相変わらず頭の回転が速い。

 これも殻持ちの特性かなと思うも公表されてないんだから、実際麻沙は頭の回転が速いんだろう。


 先週襲われた本当の理由が、今日俺が襲う為じゃないと気付いたのだろう。それがあくまでも余興で本題は瑠奈の方にあるのだと気付いたのだ。

 どうやら、早いとこ終わらして俺との――過去の自分との――関わりを消し去りたがっている様だ。


 ……残念だがそう簡単にはいない、いかせはしないのだが。


 その問いには瑠奈が答えた。と言っても答えになっていない気もするが、この際は上手く誘導しなくてはいけない。その所の駆け引きは完全に瑠奈の分野だ。

「知りたいコトは自分で見つけ、探し出すもんじゃないの? ……上がって来なさい、取引をしましょう」


 そう言い麻沙の後方を指差し、身を翻した。


 麻沙はそれを見届けた後、後方の錆びれた階段まで行ったところで振り返り、俺に指を突き出して言った。

「お前への報復はひとまず後回しだ。逃げるなよ」


 そう言い、階段を登り始めた。


 ――勘違いしてるようだが、一応伝えた方がいいよな。

「その階段、壊れ――」


 言い切る前に麻沙が数段登り、結果錆びた鉄骨の山が出来上がった。

 盛大な破壊音と膨大な金属音、断末魔の様な声が鳴り響く。


 無事だと思うが、一応駆け寄り「大丈夫か?」と声を掛けると、荒い呼吸の雑ざって禍々し声が聞こえ思わず身構えてしまった。


「……の……だ」

「え?」

「上にはどこから行けばいいんだ? って聞いてんだよぉ! コンチクショオォォォォ!!」

「そ、それならその扉の奥に梯子あるが、一旦落ち着――」


 鉄骨の山から長目の髪を貞子よろしく這い出てきた麻沙は、返答を聞くや否や、俺の制止を聞かずに階段の元あった位置の影となる場所に隠されていた扉を開けた。

 直後、金属音が聞こえた。その数――僅か三回。


 慌てて扉の前まで行くも、既に麻沙はいなかった。

 梯子を登ると、そこには瑠奈と麻沙が対峙していた。


「派手にやってくれたわね。これからその扉どうやって隠すのよ」

「それはアンタの説明不足が原因だし、まず整備不良で怪我人が出かけた時点で色々問題あるし、それより早く用件を言え」

 全身に怒りのオーラと錆びを纏っている麻沙は今にも飛び掛かりそうな勢いで問い掛けた。あの状況で怪我無しとは相変わらずでたらめな奴だ。


「取引と言ってでしょう? ちゃんとした場所まで案内するわ」

 ……その背中が震えているのに麻沙は気付かないのだろうか?


 瑠奈の向かった先には木漏れの夕日に照らされ、赤く燃え上がっている三階建てのビルがあった。


 これこそが今日のメイン会場。俺達はその背中についていった。

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