入場:5
室内から飛び出して来た何かを避け、体制を崩しながらに目を少しずつ開いた。そして横からその"何か"を見て先日、望月さんが「武装して来て」と言った理由を知った。
何故なら、目の前に、見覚えのある棒状の物が突き出されていたからだ。もし、避けていなければ顔面に直撃していた。
その"何か"を突き出している彼は、相当力を込めて突き出してきたのか、体を宙に浮かせていた。逆光で顔は分からなかったが、驚いて息を吸い込むのを感じた。
俺は一歩、体を支えると同時に後ろに飛んだ。直後、目の前を"何か"が通り過ぎた。彼は俺が着地するとほぼ同時に追撃してきた。
追撃は止まらない。上段から打ち下ろす、横に薙ぐ、捻りを加え突く、跳ね上がる様に切り上げる――。
俺は連続して避け続けていた。廊下にスキール音が鳴り響く。
5~6連撃を回避した所で上履きが床に引っかかり、足が縺れた。そこに彼は"何か"を横に薙いだ勢いを利用した蹴りを出してきた。避けるのは無理だと瞬時に思い、咄嗟に両手で掴み捕る。
――そこで妙な違和感を感じた。顔を見上げると彼もこちらを見下ろしていた。
少し角ばった輪郭に短めに揃えられた髪。形の整った太めの眉毛の下には、対照的にこちらを見下ろす細いの目。
お互いの視線が合ったところで再び妙な違和感を感じた。
しかし頭の中をいくら刺激しようが記憶の詳細は歪み思い出せない。
元々興味のないことには自他認めるほどの無関心な性格の上、最近はあの件のせいで物忘れもが酷くなっている。それでも以前に、何処かで似た様なことを――と思い出そうとしたところで思考が中断された。
彼は、掴んでいた左足を無理矢理に踏み込み、振り抜いた"何か"を右手一本で握り締め肩に担ぎ、上段から勢い良く打ち下ろす。ギリギリのところで足を掴んでいた両手を離し後方に飛ぶ。彼の打ち下ろした"何か"が目の前で床に激突する――寸前で止まり、空気を切り裂いた音が廊下に満ちた。彼が体勢を崩している間にもう一度飛んで距離をとった。彼は追って来なかった。
「――お前、誰だ?」
俺は無意識の内に口を開いていた。その問いに返事は返ってこなかった。
代わりに、彼はとある構えを取った。
――それを見ただけで、俺は必要としていた答え以上の物を彼は語った。
その構えを見て俺は彼――いや、コイツのことを思い出した。それと同時に頭の中から驚愕と戸惑いの感情が消えた。代わりに現れたのは、嫌悪と敵意の感情だった。