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入場:2

1ヶ月ぶりです。

気が付いたら夏も終わりですね

当初の予定ではもう少し早めに出すはずでしたが色々あって遅れました……

 高校に入学して二週間が経った。


 先週の様に色々問題もあったが、だいぶ学校にも慣れて来た。そんな日の放課後。俺は下城高校の特別棟四階、最上階に来ていた。

 この高校は東西に伸びた校舎が北から部室棟、本校舎、特別棟と並び、さらに西側に南北に伸びた体育館と格技場が並んでいる。


 今、俺がいるのは東側の部屋にある地学準備室前だ。

 特別棟は本校舎と違い四階まであり、さらにこの学校は台地の上に建っている。ビルの数が少ない事もあって、特別棟の屋上からはこの町、下城市のほとんどを眺めることができるのだ。

 だが肝心の町並みは至って単調で、北に住宅街。南の駅前には小さめの商店街が立ち並んでいる。


 本校舎の北側に広がる校庭で行われている部活動の活気も本校舎に遮られ、ある種の不気味な静けさに包まれている。


 なぜ俺がこんな所にいるのかと言えば、理由は至って明確で、俺の隣で目を輝かせ、笑顔を見せている望月さんの性だ。


―――――

 「望月もちづき瑠奈るなです。一年間よろしくね」


 一様クラス全体への自己紹介のはずだが、彼女は明らかに俺だけに声の意識を向けてそう言った。そう勘違いするほどに彼女の声色が脳に響いていた。


 教卓と自席を往復するだけでも分かる身のこなしと明らかに異質なオーラ。


 そして、教卓から自席に戻る途中で彼女は囁いた。それは常人なら聞き取れないほどの音量だった。

 だが、『殻持ち』である俺の鼓膜が認識するには十分だった。


『松本君、殻持ちでしょ?』と彼女は言った。




 そのままHRは続き、その日は配布物を配ったところで終了した。


 そして放課後、清掃場所から教室に戻ると既に彼女は消えていた。翌日も忙しく、彼女と会話ができたのは放課後だった。


「あの、松本君だよね? あの、その……す、少し……いいかな?」

 裾を引っ張られ振り返ると、望月さんは言いにくいことを言うように、恥ずかしがるような口調とトーンで言ってきた。


「……別に、大丈夫だけど。何か?」

 声を掛けてきた事に驚きながらも答えると。


「そう、良かったわ。ここじゃちょっと――ついて着てくれないかしら?」

と言った。

 俺は、周りに沸いたざわめきを無視しつ頷く。すると、望月さんは歩き始めた。



 しかし、一体どうしたのだろうか? 先日の言葉は俺に少なからずの動揺を与えた。そもそも、俺が『殻持ち』であることを知っているのは、家族と旧友の極々一部、あとは――――


 と、そこまで考えて思考を無理やり中断する。

 ……俺は『彼女』のことを忘れたいと思っているのに、忘れられずにいるのか。


 軽く混乱しながら付いていくと、急に望月さんが止まった。

 そこは非常に静かで、校内に馴れていない俺は、ここがどこだか解らなかった。


 すると望月さんは、その肩に掛かりかけのキレイな黒髪をなびかせながら振り返った。そのまま俺の手を握り締め、その低い背を懸命に伸ばし、その可憐な顔を目の前にまで近づけて、こう言った。

「松本君。少しだけ――」


 人の顔がここまで近づいて来る事は夏穂以来――と、そこで、またも思考を中断する。


 ……その性だろうか。後ろから忍び寄った、いつもなら気付くであろう気配に気付けなかったのは。


「――眠っていて」


「……………はい?」

 と答えた次の瞬間には、俺の両手首には心地よい金属音と共に金属の輪っか――つまり、手錠が付けられていた。


「あの、これは一体どうい――」

 そこまで言って響いた、乾いた火花のような音と同時に、俺の意識は遠のいていった。

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