表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

入場:1

高校入学で未知の出会いを期待するのは相当疲れるモノだった。

"春"


 それは出会いと別れの季節。

 新しい出会いに期待を膨らませる者がいれば、過去の別れにしがみつき後悔する者もいる。

 ……あなたはどうだろうか?


~~~~~

 入学式から二週間が経った四月下旬。日は伸びたが午後五時半にもなれば、辺りはだんだんと薄暗くなる。特に今日の様に曇天ならばなおさらだ。夕日は遮られ、空を見ても時間の感覚が分からない。そんな不気味な天気だった。


 そんな薄暗い廊下で一閃。そして甲高いスキール音の直後、再び一閃。何度も追撃してくるそれを、俺は器用にいなしていた。

 今、特別棟四階には、襲われる者と襲う者。そして、それを笑いを堪えながら眺めている者の3人がいた。


 ――何故こんな状況になっているかというと、事の始まりは二週間前に遡る。


―――――


 二千四十年四月七日。

 最寄り駅より徒歩で二十分、南北に伸びている台地の上にある、県立下城高等学校の入学式当日。

 残念な事に今年は例年になく天候が崩れていて、現に今日も午前中からぱらついていた。そして先程から体育館の屋根と壁で大音量で叩き続けている。その上、気温が冬並みと来ている。

 そんな中で俺、松本まつもと麻沙まさは凍える体で入学式恒例のお偉い方々の長話を頭半分で聞きながら、別の事を考えていた。


 俺にとっての問題は、この後のHRでの自己紹介だ。なんせ、高校生活での第一印象がそこで決まるであろうからだ。

 もう目立つことはうんざりしている。知り合いが居ないと言う理由で進学してきた、俺のことを全員が知らない。多くの好奇心の目を想像すると入試以上に腹が痛くなる試練であった。


 と、考えを巡らせていると、司会のマイクがハウリングを起した。体育館中を大音量で超高音が駆け巡り何人かが顔をしかめる。実際にはその位で済んだだろう。

 が、俺は激痛に堪らず耳を押さえかけてしまった。


 ――そんなことしているのは俺だけだった。


―――――


 入学式が終わり、各教室へと移動する。そして、始まったHRでの自己紹介。


 どうせ最初の頃なんて同じ中学の仲間で話ている奴がほとんどのはず。そんな訳で、同じ中学出身がいない俺のような人の場合、友達作りが高校の試練第一になる。だとしても、自己紹介なんて結局は皆同じ様なこと言うだけだし、そこまで集中して聞いてる人なんてそうそういないはずだ。


 そう、ほとんどの人がそこまで気にしていないはず。聞き流しているはずだ。それが入学式二時間の間考えた結果だ。


 そう、大丈夫だ、誰も俺のことなんか見ていない。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫……


「では次は……松本さんお願いします」


 気が付くと前の人が終わり、俺の番になってしまった。自分に大丈夫と言い聞かせながら教卓の前に進むがやはりこういうのはどうにも苦手だ。下手しないように気を付けなければ……


 もぅ、名前と簡単な挨拶だけでも別にいいと思うのだが。ダメか?


「松本麻沙です。これから一年、よろしくお願いします」

 ――よしもういいだろう。戻ろう。もういいだろう。


「他には何かありませんか? 趣味とか」

 が、動き出す前に先生に質問をされてしまった。


 くそー、ダメか(泣)


 そう思うと盛り上がっていた思考が段々と冷静になってきた。同時にクラスメイトの視線を感じた。

 いくら自己暗示しようが一年間同じクラスで過ごすのだ。気にならないと言えば嘘になる。おかげでこっちの頭の中は軽いパニック状態になった。


 しかし、そんな状態である一人の視線が気になった。クラスの後方、窓側にいた女子は他と同じく俺を見ていた。

 その子は雰囲気が違っていた。意識がその子に集中して、他のクラスメイトが消えていく。


 そんな俺の思考を知ってか知らずか分からないが、彼女は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ