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第41話 「第8章 4:素敵な結末の迎え方」

「そんなわけでさ、お兄ちゃんのお嫁さんになるのに邪魔だから……死んで」


 ミランダは剣を構えると、ガラハドへと向き直る。その直後、広間からミランダの姿が消失した。ミランダは──ガラハドの背後にいた。

 一瞬で間を詰めたミランダは、ガラハドがその剣を受けきるよりも速く、剣を振りぬいた。

 ガラハドの胴はたったそれだけで上下に分断され、床にごろんと転がった。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 しかし、ガラハドはそれで死んだりせず、叫び続けた。


「──!?」


 その場にいた、全てのものがその動きを追いきれず、そしてその結果に驚愕を隠しきれなかった。


「す、すごいぞミランダ……」

「えへへっ」


 鼻血から復帰したアデルが、寝転んだままミランダを褒めると、ミランダは照れたように顔を赤くする。


「小娘ぇぇぇぇっ!」


 ナビーリアは激昂して、ミランダのいた場所へ闇の炎を燃え上がらせる。だがそこにはミランダの姿はなかった。


「……せっかく、お兄ちゃんが褒めてくれたのに邪魔するなんて、空気読みなよ……」


 数歩先で嘆息したミランダが、ナビーリアを見上げる。

 その間に、ガラハドの分かたれた下半身がもぞもぞと動き始め、ガラハドの上半身に向けて素早く滑り出して、くっついた。


「がああああああああああああああああああっ!!」


 起き上がったガラハドが雄叫びを上げてミランダに向けて走り始める。


「うーん、闇の精霊の力ってやつかな? まさか死んでないなんて……面倒くさいなぁ」


 ミランダは疑問を感じながらも、ガラハドの突進を横っ飛びで回避する。目の前から目標が消えて、その場を通り抜けたガラハドが回避した方向へ転換すし、再び走りだす。

 突進してくるガラハドをいなしながら、ミランダは少しずつ体内に光の精霊の力を貯めこんでいく。

 やがて十分に光が貯めこまれたと判断したミランダは、その光をゆっくりと剣へと移した。剣が、光に包まれて輝いていく。


「──や、止めなさい!」


 その力を察して、ナビーリアが悲鳴にも近い声を上げた。ナビーリアを中心として、闇の気配が膨大に膨れ上がっていく。その力を、ナビーリアはミランダへ向けて放つ。

 咄嗟の回避が間に合わないと判断して、ミランダはその闇を剣を寝かせて受け止める。そして、闇が光を喰らい尽くしていった。


「……まったく、イヤな抵抗をするね……」

「ふふふ。その人を、殺させたりはしないわ」

「だいぶ力を使い果たしたみたいだけど、それで守りきれるのかな?」


 ミランダの言うとおり、ナビーリアは力を大きく消耗していた。闇の精霊から受け取った力は、まるごとガラハドへと渡してしまっている。残っているのは、生まれつき備えていた魔力だけであった。

 そしてナビーリアは、これまでの間に、回復が追いつかないほどに魔力を消耗しきっていた。


「……ええ、そうね。でも、それは貴方にも言えるようね」


 指摘されて、ミランダはハッとした。

 幼さゆえに最大量の少ない光の精霊の力を、今の攻撃でだいぶ消耗してしまっていたことに、気付かれてしまった。


「それでも、わたしは負けないよ。だって、お兄ちゃんがいてくれるから」

「ふうん。ところで知っているかしら? 光の精霊の力をそれだけ使ったら……すぐに光の精霊が地上に送り返そうとしてくるわよ」

「──!」


 ナビーリアの言葉に、ミランダは動きを止めた。

 魔界にいるだけで、光の精霊の力が少しずつ少しずつ流れ出ていく気がしていた。ここにいるということは、それだけで力を使い続けるということだ。

 魔王は死んでも闇の精霊が生き返らせて城へと戻される。勇者は光の精霊の力を使い果たしたタイミングで地上に送り返される。

 魔王が死ぬのは、光の精霊の力で、闇の精霊の力が及ばぬように殺された時だ。勇者が死ぬ時は、光の精霊の加護が及ぶ前に命を失う時だ。

 光の精霊の力に覚醒した際、基礎知識として、夢に出てきた光の精霊から教わっていた。

 母と幼女の戦いに、アデルは目を奪われ、そして、その結果がどう考えても不幸になる道しか見通せなかった。




 このままでは、どちらかが、死ぬまで戦いは終わらない──!?

 それは、あってはならない結末である。ほとんど思い出もない母であっても、せっかく生きていたのだから死んでは欲しくない。そしてミランダは嫁にするべき少女である。

 考えろ──考えるんだ!

 アデルは、必死にどうするべきか考えた。どうやって、この戦いの理想的な着地点はどこにあるのか。どうすればそこへたどり着けるのか。

 ガラハドとナビーリアを相手にとり、ミランダは一進一退の攻防を続けている。

 しかし戦いはすでに消耗戦へとなだれ込み、このままでは遠からず決着が着くことになるだろう。

 それまでに、アデルは自分にとって理想的な結末を想定し、そのために動かなくてはならなかった。

 だが、母の言うとおり闇の力に食われ続けることで、ミランダからは光の精霊の加護の力が削られて続けている。このままでは、ミランダが負ける未来しか訪れない。

 アデルが結末に求める最優先事項は、二人が死なないこと、だった。闇の力を纏う勇者は、アデルにとってはどうでもいい存在ではあるが、ナビーリアにとっての結末に重要なピースだ。父の生まれ変わりだと言うが、記憶にすらない父では、アデルにとってはその他大勢の一人でしかない。

 アデルにとって、その存在そのものはオマケでしかないが、母の結末のためには必須の存在である。

 そこを考慮しなくてはならない。

 アデルは、魔界がどうこうなんて、どうでもよかった。どうせ、自分には統一なんて出来そうにない。そんなもの、ミランダを嫁にするための方便だ。諦める、と言ったところで誰一人として異を唱えないだろう。

 考えるべきは、二人の求める結末、二人が納得する答えは……どこにあるのか?

 母の求める結末はガラハドが勇者としての名声を得ること、と言っていたのをアデルは思いだす。つまりそれは、勇者が魔王を倒したという実績を得ること。アデルとしては、はいそうですかと死んであげるわけにもいかない。

 倒したという実績とはなんだろうか。

 魔王を殺すことだろうか。魔王を倒した結果──その先にあることはなんだろうか。地上の平和? そんなものは魔王には関係がない。魔王が存命であれ不在であれ、一切影響を与えることはない。

 だとしたら、それは……

 次にミランダのことへとアデルは思考を切り替える。

 ミランダの求める結末は、アデルの嫁になること、で問題無いだろう。本人もそう言っていたし、アデル自身もそれを望んでいる。だがそれは、この戦いの結末そのものに影響することではない──

 ミランダは言っていた。邪魔だから、と。つまりそれは、母と勇者とが、この場──いや魔界……ひいてはアデルとミランダの間にいなければいい。

 アデルは母の言葉を思い出す。二人でのんびりと過ごすのだ、と。

 戦いが終わりさえすれば、それは達成されるのである。

 とすれば、ガラハドが魔王を倒した実績さえあれば、この戦いはこれ以上続ける必要がない、ということになる。

 そこまで考えて、アデルはハッとした。

 答えが、すぐそこにあることに気付いた。




「待った!」


 アデルはそう声を上げて、広間の中央に踊りでた。

 ガラハドとミランダが切り結ぼうという地点であり、ナビーリアが魔法を使ってミランダを貫こうとしていた場所である。

 そこにアデルは迷わずに飛び込んだ。


「お兄ちゃん!?」


 それに気付いたミランダが、振り下ろそうとしていた剣を握る手に、振り下ろす上腕に急停止を指令する。だが慣性で振り下ろされる剣はそれに抵抗してくる。腕に、全身に力を込めて、ミランダはその剣を止めようともがく。

 そして、アデルのギリギリで引き止めることに成功した。腕が膨れ上がり、必要以上の筋肉が活性化し、そして疲労が腕を包み込んでいた。

 対するガラハドは剣を止めるつもりも見せず──アデルは頭頂からすっぱりと真っ二つになった。そこにナビーリアの魔法が飛び込み、アデルは一瞬でその肉体を消滅させていた。


「アデルっ!」


 カナリアが真っ先に悲鳴を上げた。


「お兄ちゃん!?」

「アー……ちゃん……」

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 アデルが目の前で消えたことに驚くミランダ、茫然とするナビーリア、そして魔王を倒したことに歓声を上げるガラハド。


「こ、この──」


 ミランダは、自身の目の前でアデルを殺した二人に憎しみの目を向ける。許せない、目がそう訴えていた。

 だが。

 すぐさま、その場にアデルが落下してきた。闇の精霊によって肉体を復元されて復活したのである。闇の精霊がサービスで特急で仕上げてくれた。


「お、お兄ちゃん!」


 慌ててミランダが駆け寄って、アデルの体をそっと支える。一歩ばかり間に合わなかったカナリアが、憎しみのこもった目でミランダを睨み付けるが、ミランダはアデルと寄り添いながらカナリアを視界から消し去っていた。


「ミランダ、ありがとうな」


 ミランダの頭を撫でてやりながら、アデルはゆっくりと立ち上がった。足がふらふらしているのは、復活した直後の気だるさを必死に耐えているからだ。

 それを見たカナリアがすかさずアデルの背後から抱きつく。ミランダが驚きの顔をしたのを見て、カナリアが見下すように笑いかける。それからミランダを無視して、アデルの背に顔をうずめた。


「まったく、仕方のないアデルですね。私が支えていてあげないと立っていることもできないだなんて」

「だ、大丈夫だから……むしろそうされてると気分が悪くなるってば……」


 頑張って強がって、アデルはカナリアの体を引きはがした。その様子を見て鼻で笑ったミランダを、カナリアは無視することにした。


「聞いてくれ!」


 まず、アデルはそう言って全員の視線を集めた。


「この戦い、魔王アーデライト・アルタロスが預かる!」

「……」


 広間にいた全員が、アデルの言い出したことに意味が分からないという顔をしていた。


「いや、とりあえず話を聞いてくれ」


 全員が、とりあえず話を聞く態勢になったことを確認すると、アデルはゆっくりと宣言した。


「──魔王アーデライト・アルタロスは、勇者ガラハドに降伏を申し入れる」


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