ある日突然、彼女が出来た。
あーあ。正月も終わって、冬休みも終了。
新学期かぁ…
そんな気ダルイ気持ちを抑えつつ、俺は教室のドアをくぐった。
そしたら、クラスの中がいつもと違う雰囲気。
あぁ、佐藤と加藤さん…付き合いはじめたのか。
特にその2人と親しい訳ではないが、見ていれば分かる。そんな空気を放っていた。
…砂糖に加糖って・・・名前だけでも甘そうなカップルだな。
そんなふざけた事を考えていると、隣の席の柳瀬が話しかけて来た。
「ねぇ!あんた、私と付き合いなさいよ。どーせ彼女も作らずに、冬休みはモン○ンでもしてたんでしょ。」
「はぁ!?」
なんだこいつ。頭悪いのか。モン○ン、超面白いんだぞ。いや、そこじゃなくて。
失礼にもほどがあるだろう。そんな気持ちをグッと堪えて、この失礼極まりないオンナに返事をしてやった。
「お前な、新学期早々失礼だろ。なんで俺がお前と付き合わなきゃなんねーんだよ。お前、俺んこと好きだったのか?」
すると、このオンナはさらに失礼な返事をしてきた。
「はぁ?あんた、バカじゃない?私があんたなんて好きなわけないじゃない。ただ、あんた…大学も決まってヒマでしょ?どーせ彼女もいなさそうだし、私もあんたでガマンするから、あんたも私でガマンしなさいよ」
まてまてまて。仮にも女子高校生だろう。花の女子高校生なら、放課後の体育館裏とかに手紙で呼び出して、“武井クン、好きです。付き合ってください。”とか、恥じらいながら告白してみろよ。俺はそんな告白をされてみたいぞ。いや、そーじゃなくて。
まぁ、いい。どーせ俺もヒマだし。このまま彼女いない歴=年齢のまま、記録更新するよりも、とりあえず“男女交際”ってやつをしてみるのもありか。
俺の中で、誰にも言えないそんな打算的な審判が下った。
どーせこいつもそうだろう。いわば利害の一致ってやつだ。
「あーまぁ、いいよ。お前でも。暇つぶしくらいにはなるだろ。」
「はぁ?暇つぶし?失礼ね。まぁいいわ。じゃあ、次の日曜日、11時に駅前の時計台で待ち合わせね。遅刻したら…シメるから。」
まてまてまて。シメるて…俺、サバじゃないんですけど。まぁ、いい。
「はいはい。」
俺は強引な失礼オンナに、適当にそう返事をした---。
それからザワザワとクラスの奴らが登校して来て、授業が始まった。
隣の席の失礼オンナも、いつの間にか席に座って教科書を開いている。
そーいえば隣の席ってだけで、こいつの事なんてなんも知らない。話すらしたことがないんじゃないだろうか。
けれどよく見たら、こいつもなかなか可愛い部類に入るんじゃないかな とか、
今更そんなことを思った。
そうこうしてたら昼休みになった。隣の席の失礼オンナの友達が、
「ミユーお昼食べよー」
と呼びにきた。へぇ、こいつ、ミユって名前なのか。強気な口調に似合わず可愛らしい名前だな…。
俺が密かに心の中で笑っていると
「あっ行く行くー!ちょっと待ってっ」
失礼オンナはそう、パタパタと教室の外へと駆けて行った…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼休みも終わり、なんだかんだと下校時間になった。
隣の席の失礼オンナは、朝の一件以降は話しかけてもこない。
なんだ?仮にも“付き合いなさいよ”なんて強気な発言してきたクセに、その後はシカトかよ。
まぁ、いい。別にあいつの事なんか実際どーでもいいし。魔が差したとか、冗談だったとか、言われかねない。まぁ、しばらく様子をみてみるか…。
そんな風に思っていたら、親友のユウジがやって来た。
「おい、ハヤト、帰んねーの?」
「あぁ、帰る帰る。」
さっさと帰り支度をして、教室を後にした。
校門を出て、ユウジと下校する。
「なぁ、ユウジ、クラスの柳瀬って、知ってる?」
なんとなく聞いてみた。
「あ?あぁ、知ってるもなにも、クラスメイトじゃん。割と可愛らしい子だろ?たぶんそれなりに人気あるんじゃね?」
「は?あいつが?マジで?」
「なに?その返事。おまえ柳瀬となんかあったわけ?」
「いや、別に。ただ、なんか口の悪いヤツだなーと思って…」
「柳瀬って、口悪かったけ?」
そんな会話をしながら帰った。
…なんだ、あいつ、人気あるんだ。
じゃあ別に俺にあんなこと言わなくたって、彼氏くらい出来るだろうのに。
なんだ、あれか。ドッキリか。
そーか。どーせクリスマスパーティーの罰ゲームかなんかだろう。
そーいや新年の特番でも、オンナの方から迫って、男を罠にハメるようなのやってたよな…。
なんだ、ハメられたのか。いや、あれ?なんで残念がってんだ。
別にあんな…口の悪い失礼オンナ、どーでもいいだろ・・・。
そんなことを考えているうちに、どんどんと夜は更けて行った…。
次の日、いつも通りの時間に登校する。
すると柳瀬もちょうど教室に入ってきて
「おはよっ!」
「あぁ、おはよ・・・」
挨拶された。
えらく怒ったような、ぶっきらぼうな挨拶。
なんだ?あいつ、なんで怒ってるんだ?
なんとなく、心の隅でムッとしたが、気にしないことにした。
すると柳瀬は、机に鞄を置くや否や、パタパタとどこかへ走っていってしまった。
なんなんだ?あいつ・・・いや、あいつのことなんて・・・別にどうでもいいじゃないか。
別に俺はあいつのことなんか・・・好きでもなんでもないんだから。
そうこうしてたら授業が始まる。
ふと隣の席に目線を移せば、真面目に黒板の文字を写す柳瀬の横顔。
その手元には、意外にも可愛らしいペンケース。
こいつ…黙ってたら可愛いのにな…。
正直、そんなことを思った。
3時間目は体育だった。
まだ受験ラストスパートのヤツらは、自習にしろーとか言ってるヤツもいたが
「気分転換もいいだろー」と、先生は笑いながら、男子はサッカー、女子はバレーボールの試合だった。
柳瀬は髪をポニーテールにしていて、制服の時の髪を降ろしてるスタイルとはギャップがあって…
あ、ポニーテールも可愛いな、とか…そんな雑念を抱いているうちに、俺は全く活躍する事なく体育の授業が終了した。
と、その時。
事件は起きた----
授業の後も一部の男子がそのまま蹴りあっていたボールが
柳瀬に向かって飛んできたのだ。
「あぶないっっっ!!!」
そんな声が飛び交った瞬間。
ちょうど、そばにいた柳瀬をかばった俺の側頭部に・・・
それは勢いよく、ミラクルヒットしたのだった・・・
---☆ ☆ パチッ ☆ ☆----
目を覚ますと、俺は保健室のベットに横になっていた。
おい、保健室の先生とかいないのかよ。
心配する女子が、枕元に居たりとか・・・しないのかよ。
しないな。ぼっちかよ、俺。ぼっちじゃん。
頭ぶつけて、周りのヤツらが保健室に行け行けと心配するから…一応来てみたら誰もいないし。とりあえず寝てみたのだが…
時計を見れば4時間目のちょうど中頃。
授業の途中から教室に帰るのも、なんとなくカッコ悪い。
このまましばらく2度寝して、昼休みくらいに帰るか・・・。
そう思って、しばらく寝る事にした・・・
再び目を覚ます俺。うん、少し期待してたよね。寝てる間に誰か来てくれるんじゃないかって。
けれど、誰も来やしなかった。
時計を見ると昼休みも半ば。ヤバイ、寝すぎた・・・
そう思いながら、いそいそと教室に戻り、昼メシを買うために購買へと向かおうとした。
その時。
「武井くん!」
後ろから俺を呼び止める声。
誰だよ、こんな時に。
早く行かないと昼メシ売り切れんだろ。
そう思いながら振り向くと・・・
そこに居たのは 柳瀬だった。
「あ、えと。これ、あげる。お弁当持ってきてるの忘れてて、買っちゃったから…。」
「え?あぁ、ありがと。」
ラッキーとか思いながら、柳瀬からそれを受け取ると、また、柳瀬はパタパタとどこかへ走り去ってしまった。
なんなんだよ、あいつ…まぁいいや。メシ食おうっと。腹減った〜
今にもグーッと 泣きベソかきそうな腹を撫でながら、柳瀬がくれた袋の中を見てみる。
すると、そこには俺がよく買ってる爆弾弁当と、俺の好きな惣菜パン2つ、さらにいつも俺が飲んでるコーヒーが入っていた。
おい。これ。自分のために買ったとか・・・ウソだろ。
ボリュームあり過ぎの爆弾弁当に、惣菜パン2つにコーヒーて・・・女子高校生が食ってたら、ちょいとワイルド過ぎんだろ。
俺でもこんなに食べれないぞ。
ちょっと笑いつつ・・・素直じゃない柳瀬の優しさに、俺は素直に甘えることにした・・・。
腹ははち切れそうだが無事に食事も終えて、席につく。すると、机の中に紙が入っていた。
それは、俺が居なかった授業の黒板を、キレイに写したルーズリーフと手紙。
手紙には、“さっきはありがと。頭・・・だいじょうぶ?” と、可愛らしい文字で書かれていた。
いや、“頭だいじょうぶ?”って・・・ちょっと表現方法考えろよ。とか思いつつ。
名無しの手紙の主のアイツらしいなと・・・俺はまた、くすりと笑った。
次の日。そしてその次の日も、柳瀬とは特になにもなかった。
朝、一言「おはよ」と声を掛け合うだけだった。
けれど、日に日にその“おはよう”という時の表情が、お互い柔らかくなってきて、俺も柳瀬というオンナがちょっとわかってきた。
なんだよ、あいつ。口では強気なこと言ってたけど、俺のこと好きなんじゃん。
そして、なんだかんだいいながら、俺もこの数日で…すっかりあいつに惚れてんじゃん…。
俺の、自惚れと自覚。けれど
約束の日曜日。
それは確信へと変わる…。
約束の時間、約束の場所には・・・・
程よくめかし込んだ、柳瀬の姿。
俺を見つけると…
途端にパッと、赤い笑顔になった。
可愛い彼女のその表情に…
自然と俺の顔も、ほころんだーーー。
-FIN-
読んでくださりありがとうございました(^^)
この2人のその後を描いた作品
『ある日突然、彼女が出来たワケ。』
『そして俺は、彼女の髪にキスをした。』
も、よろしくお願いします(*^^*)
もしよろしければ、評価や感想などもいただけたら嬉しいです。
ー心花ー