短編 『友達』
彼が私を見ているのはわかっていた。
彼は私に優しくしてくれて、私にとって必要な人ではあったが、友達としか考えられなかった。
彼を友達以上に見ることが出来ないのに、それでも私は彼を突き放すことが出来ず、曖昧に振舞ってしまう。
彼が私を見るのが嬉しくて、私はいつまでもこのままぬるま湯のような状況が続けばと、願ってしまった。
ずっと今の気持ちのまま、彼にそばにいてほしいと、願ってしまった。
きっと全部私が悪い。私は自分のことしか考えていない、残酷な人間なのだ。
あの時彼の声が震えて、私は上を向くことができなくて、私の声も震えて……そして彼は優しい言葉を残して私の元を去った。
彼が傷つくのはわかっていた。わかっていたのに、それを避けることが出来なかった。私は勝手でわがままだ。
でも彼は最後までそんな私の弱さや甘えを、暖かく包んでくれた。
彼を思うと胸が痛む。涙が出る。
あんなにも優しい彼を私は傷つけた。
それでも私は、彼では駄目なのだ。
いまの私には泣く権利さえないように思えて、唇を噛んでこらえようとしたが、涙は止まることなくポロポロとこぼれていった。
--*--
わかっていた、こうなることは最初から。
それでも僕は彼女から目が離せずにいて、それでも伝えずにはいられなかった。
彼女の声が震えた。
僕は最後に彼女を傷つける。僕が傷つくことは彼女が傷つくことだ。
そして、僕はとても優しい言葉で彼女を苦しめる。彼女を苦しめずにすむ方法を、僕はみえているのに選ばない。
ただ僕は、彼女の心に何かを強く残したかった。
例えそれがすぐに消える罪悪感だとしても。
僕は彼女がとても好きだった。
僕は彼女を幸せにしたかった。
傷をつけることも苦しめることもなく、いつまでも彼女に優しくしたかった。
叶わぬ願いだ。僕が全部壊した。
彼女の傷も僕の傷も、いつの日か癒えるだろう。
その日を望んでいるのか恐れているのか、僕にもわからない。
彼女の傷も僕の傷も、永遠に残ればいいのに。
強い想いが、僕の願いを狂わせる。
僕は彼女の屈託のない笑顔がとても好きだった。
彼女はいつも、あの笑顔で笑っていて欲しい。
本当は今でも、それを一番に望んでいる。
どうか、この願いだけは叶いますように。