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第八話「みんなで過ごす一日のために」

 夏休みに入り、それぞれの受験を控えた夏が始まった。

 沙織さんとやよいさんは進学塾の夏季集中コースを受けている。内田君と長谷部さんは△□予備校。私と種村さん、石田君は〇×予備校。奈央ちゃんは、市民ホールの自習室に行くことにしたらしい。

 程度の差こそあれ、みんな受験に向けて頑張っている。

 

 そんな中、私はみんなの夏休みの予定を聞き、「みんなで過ごす一日」のために動き始めた。

 沙織さんとやよいさんからは、いくつかの候補日を教えてもらっているし、予備校が始まった内田君と長谷部さんからも、行けそうな日を教えてもらった。種村さんと石田君には、予備校の帰り道に聞いてみたし、奈央ちゃんは基本的に大丈夫、都合はつけるということだった。

 

 みんなの予定を合わせていくと、8月の夏休み最後の土曜日なら、全員の都合が合うことが分かった。

 グループにそれを送ったところ、みんなは賛成してくれて、その日にすることに決まった。

 何とかみんなの予定が合って、私はすごく嬉しかった。

 

 そして、次に考えなければいけないこと。それはその日に何をするかだ。

 

 まず私は奈央ちゃんに相談してみた。

(こころ)奈央ちゃん、こんばんは、今いい?

(奈央)やっほ~大丈夫

(こころ)みんなと会う日が決まったよね

(奈央)うんうん、土曜日

(こころ)その日は朝からでも大丈夫みたいだけど、なにが出来るかな?

(奈央)うーん、夏だし海かな?

(こころ)でも最後の土曜だし、もう海水浴は出来ないかも

(奈央)そっかー

(奈央)カラオケとかスポッチャとかだと、ふつー過ぎるよね

(こころ)そうだね、せっかくだからもうちょっと凝りたいかも

(奈央)たとえば?

(こころ)映画とか見てショッピングとか?

(奈央)ココロンそれじゃ、ふつーのデートじゃん

(こころ)ですよね

(奈央)せっかくだし、もう少しみんなで楽しめるものがいいかな

(こころ)それはもちろんなんだけど……

 奈央ちゃんとあれこれ考えてみたけれど、なかなかいい案は出てこなかった。

 その日は、もう少し考えてみようということで終わりにした。


 そして私は受験生だ。予備校に行って、勉強をして、家に帰る。志望校のことを考えたり、夏休みの課題を進めたりする。

 そんな中で気がつけば何日か経ってしまった。


 休憩中にスマホで検索みたり、行き帰りの電車の中で考えてみたりもした。

 でも、なかなかこれというものが思いつかないし、考えれば考えるほど、分からなくなってきた。


 ある日の夜、私は机に向かったまま、色々考えてみたけど、どうにも手詰まりになってる。

「……何かヒントが欲しいな」

 そう思ったとき、ふと江川君の顔が浮かんだ。

 江川君なら、私とは違うことを言ってくれるかもしれない。私は江川君にメッセージを送った。

(こころ)江川君こんばんは、今話せる?

 しばらくして返事が来た。

(江川)何すか?

(こころ)ちょっと相談したいんだけど

(江川)相談?俺にっすか?

(こころ)そうなの。私、二年生の時から仲良くしてる友達のグループがあるのね

(江川)前に図書室で一緒に勉強してた先輩達っすか?

(こころ)そうそう

(江川)男一人に女子三人とか、ハーレムみたいなやつ

(こころ)全然違うから、内田君は長谷部さんが彼女だし

(江川)はぁそれで、なにが聞きたいんっすか

(こころ)あの時図書室に来ていた以外にもメンバーがいて、全部で八人なんだけど

(江川)八人?

(こころ)夏休みの最後の土曜日に、みんなで一日遊びに行くことになったんだけど、

 何をするか決められなくて

(江川)決められない、ってことは小森先輩が決めるんっすか?

(こころ)そういう訳でもないけど、できれば私が提案したいかなって思って、それでね

(江川)あ、小森先輩

(こころ)なに?

(江川)文字打つの面倒なんで、通話でいいっすか?

 私が返事をする前に、呼び出しベルが鳴ったので、慌てて出た。

「あ、はい。小森です」

「すみません小森先輩、俺、文字打つの遅いんで」

「うん、大丈夫と言うか、ごめんね」

「もうここまで来たらいいすっよ、それで遊びに行くってことですよね?」

「そう、みんなが集まる日の都合をつけてくれて、一日朝から動けるの」

 私は今まで考えていたことを江川君に話した。

 

「普段でもできそうなことじゃなくて、できれば思い出に残るようなことがしたくて……。それと、あんまり混んでないところがいいかなって」

「ちょ、ちょっと先輩、贅沢すぎです」

「そうかな……」

「第一、俺、陰キャなんで、そんな陽キャのイベントなんて思いつかないっすよ」

「でも、具体的に何をするかじゃなくてもいいから。何かヒントになるようなこととか」

「ヒントっすか……」

 少し間があった。

「電車とかで、ちょっと遠くまで行くとか」

「遠く?」

「はい。普段行かないようなところ。あと、海水浴場みたいにシーズンの後半で終わりかけの場所なら、そんなに混んでないかもしれないし」

「でもそれじゃあ泳いだりできない……」

「砂浜で遊ぶだけとかなら出来るかと思うっす。あと、朝から行くなら、お昼ご飯がおいしいところとか」

「お昼ご飯……」

「それと、受験生なんだから、なんか縁起がいいところでもいいんじゃないっすか、なんかのパワースポットとか」

「縁起がいいところ……」

「まあ、思いついたのはそんな感じですけど」

「うん、ありがとう。考えてみる」

 そうして、通話を終えた。

 

 その夜に、考えがまとまることはなかったけど、江川君の言葉は頭の中に残った。

 少し遠くへ行く。シーズンの後半。お昼ご飯がおいしいところ。縁起がいいところ。

 

 それから何日か、予備校へ行く電車の中や、勉強の休憩中にも、時々そのことを考えた。

 少し遠くへ行くなら、どこがいいだろう。夏の終わりなら、まだ夏らしいところがいいし、海なら、まだ夏休みらしい。

 海水浴をするには遅いけど、砂浜で遊ぶだけでも、みんなで行けば楽しそうな気がする。

 海まで行くなら、お昼は海鮮がいい。そのあとで、縁起のいい場所。

「……神社」ふと、そう思った。海の近くにあって、合格祈願ができるところ。

 私はスマホで調べてみた。

 小洗海水浴場と小洗海鮮市場。それに小洗磯前神社。徒歩で移動できるし、場所までは電車とバスを乗り継いで行ける。朝から出れば、一日過ごせそうだった。

 少しずつ、頭の中でバラバラだったものがつながっていった。

 

 朝集合して、電車とバスで小洗海水浴場へ行く。もう海水浴はできないけれど、砂浜で遊ぶ。

 そのあと、隣の小洗海鮮市場でお昼ご飯にスペシャル海鮮丼を食べる。そして、小洗磯前神社に行って合格祈願をする。

 これなら、いいかもしれない。

 

 普段ならなかなか行かないところで、みんなで一日過ごせる。受験生だし、神社で合格祈願もできる。

 私は何度か頭の中で一日の流れを思い浮かべた。

 

 自分では、結構いいアイデアだと思う。でも、本当にみんなが楽しんでくれるかは分からない。

 私は少し迷ってから、奈央ちゃんにメッセージを送った。

 

(こころ)奈央ちゃん、今いい?

(奈央)ココロン!なーに?いいよ

(こころ)みんなで何をするかって、ちょっと考えたんだけど

(奈央)おーなんか思いついた?

(こころ)こんなのはどうかな?

 私は考えた一日の予定を送った。

 

『朝、みんなで集合して、電車とバスで小洗海水浴場に行く。海水浴はもうできないけど、砂浜で遊ぶ。そのあと、小洗海鮮市場でスペシャル海鮮丼を食べる。それから小洗磯前神社に行って、みんなで合格祈願する』

 

 送信してから、少し不安になった。変じゃないかな。みんな、楽しいと思ってくれるかな。

 

 しばらくして、奈央ちゃんから返事が来た。

(奈央)すごい!

(奈央)すごいすごい!

(こころ)え?

(奈央)めっちゃいいじゃん!

(こころ)本当?

(奈央)海で遊んで、海鮮丼食べて、最後に合格祈願でしょ?

(こころ)うん

(奈央)今の私たちにぴったりじゃん!

 その言葉を見て、少しだけ肩の力が抜けた。

(こころ)ありがとう

(奈央)こっちこそありがとうだよ!

(奈央)色々考えてくれたんだね

(こころ)みんなが一日空けてくれたから

(奈央)絶対みんな喜ぶよ!

 私はスマホの画面を見ながら、少し笑った。

 自分でも、いいアイデアだと思っていた。でも、そう言ってもらえると、やっぱり嬉しかった。

(こころ)じゃあ、みんなに提案しますね

(奈央)うん!

 それから、場所やルートを調べたり予定を立てていく。

 ルートのことで江川君にまた相談したら、特急に乗るとか、特急の座席指定券の取り方とか、目的地の路線バスの時刻表とか詳しく教えてくれた。江川君ってもしかして乗り鉄?

 奈央ちゃんとも、ああでもない、こうでもないと言いながら予定を組んでいく。

 

 みんなにも予定を送ると、反対する人はいなかった。

 敦美ちゃんからは、『楽しみだね』と返ってきた。

 石田君は、『海鮮丼、うまそう』と書いていた。

 長谷部さんは、『合格祈願まで行くんだ。なんか受験生っぽいね』と笑っていた。

 沙織さんとやよいさんからも賛成の返事が来た。内田君も大丈夫だという。

 

 これで決まった。夏休み最後の土曜日。みんなで小洗へ行く。

 

 それからの日々も、いつも通りだった。予備校へ行って、勉強して、家に帰る。受験のことを考えたり、志望校のことを調べたりする時間も増えていった。

 でも、夏休みの最後にみんなと過ごす一日が待っていると思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。



 そして、当日、待ち合わせの駅にみんなが集まった。

「おはよう!」奈央ちゃんが手を振っている。みんなが揃っていく。

 普段なら学校へ行くために乗っている電車に、今日はみんなで乗り込む。

「じゃあ、出発進行!」奈央ちゃんの声と共に、電車が動き出した。

 窓の外の景色が、少しずつ流れていく。今日は、受験のことを考えるのは少しだけ休もう。

 

 今日だけは、みんなと一緒に、楽しく過ごしたい。心躍る一日が始まる。

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