大首
本作は、TOKYO MXにて土曜朝7:30から放送されていた15分間の特撮テレビシリーズ『妖ばなし』(L4製作)の第35話「大首」として放映された映像を元に、AIの力を借りて小説形式に書き起こしたものです。
不気味な霧が立ち込める森に迷い込んでしまった、夏生、奈美、さくらの家族三人。
「家族はいつも一緒」――極限状態の中で支え合うはずの美しい絆が、生死の境を彷徨う中で、やがて最恐の呪縛へと姿を変えていきます。
特撮ドラマで視聴者を戦慄させた巨大な顔の妖怪「大首」の不気味さと、逃れられない運命の恐ろしさを文章でも表現できるよう執筆しました。
愛情が狂気へと裏返る、恐ろしくも悲しいホラー短編を、どうぞ最後までお楽しみください。
暗い空間。不気味に燃え盛る炎のような背景の中、真っ赤なパトランプが回り、けたたましい救急車のサイレンが鳴り響いている。
『皆さんは、黄泉の入り口の事を知っていますか?』
どこからともなく、誰ともしれない不思議な声が響く。
『だれでもいずれ必ずいらっしゃる場所。……もし、お時間があれば、少し覗いてみませんか?』
昼間だというのに薄暗く、不気味な霧が立ち込める深い森の中。
木々の間を、何人もの半透明の青白い人影が、まるで何かに取り憑かれたかのようにフラフラと奥へ向かって歩いている。
亡霊のような人影が通り過ぎた後、森の奥から三人の家族が歩いてきた。
父親の伊坂夏生、母親の奈美、そして十六歳の娘のさくらである。
奈美は拾った太い木の枝を杖代わりにし、苦しそうに足を引きずっていた。
「待って……。もう少しゆっくり歩いて、足が動かないの」
「ママ、大丈夫?」
さくらが心配そうに声をかける。
「少し休むか、ママ」
「ええ……」
夏生の提案に、奈美は辛そうに頷いた。
「それにしてもここは一体何処なんだろう。こんなに歩いても人っ子一人会わないなんて」
夏生が辺りを見回しながら呟く。
その横を、うつむき加減の一人の女が通り過ぎていった。しかし、三人の目にはその女の姿が全く見えていないかのように、誰も反応しない。
ドクン、ドクン……。
不気味な心拍音が森の中に響く。
女がさくらの鼻先ギリギリを通り過ぎた瞬間、さくらは得体の知れない寒気を覚えたのか、短く悲鳴を上げた。
「きゃっ」
大きくなる心拍音。
「このままじゃ、そのうち夜になっちゃうかも。それまでになんとか森を出ないと」
焦りを見せる夏生に、さくらが怯えた声で返す。
「イヤよ。こんなところで夜なんて」
「私たち、もしかしたらもう……」
「言うな!」
最悪の想像を口にしようとした奈美を、夏生が強い口調で遮った。しかし、奈美の不安は限界に達していた。
「だって、一体いつからここにいるの。何時間いるの。何日いるの。お腹すかないの? パパは、夜になるって言ってたけど、本当に夜になるの? ここにきてから、夜になった?」
「ママ、やめてよ。そんな話」
さくらが泣きそうになりながら母親をたしなめる。
「そうだよ。さくらの言う通りだよ」
夏生は努めて冷静に振る舞おうと、奈美に向かって言った。
「確かにどうしてこんな誰もいない森の中にいるのか、いつから居るのか、わからない。でも、これだけは、わかる。こんな所にいちゃダメなんだ」
「だけど私、さっきから段々体が動かなくなってきてる。私が動けなくなったら、二人だけでも、この森を出て」
「何言ってるんだ! みんな、一緒に森を出るんだ」
夏生の力強い言葉に、奈美とさくらが顔を上げる。
「夏生さん……」
「パパ……」
「俺たちは家族だ。家族はいつも一緒だ」
夏生はそう言って奈美の前にしゃがみ込み、背中を向けた。
「よし、行こうか。……辛いんだろ。おぶってやるよ」
「そんな。重いわよ」
遠慮する奈美に、夏生は優しく微笑む。
「平気さ」
「そうよママ。遠慮しないで、甘えちゃえばいいのよ」
さくらも笑顔で背中を押す。
「そうだ」
夏生は奈美を背負い、さくらと共に再び出口の見えない森を歩き始めた。
その頃、どこかの無機質な空間で。
ピッ……ピッ……ピッ……。
ひっきりなしに鳴る電子音と共に、乱れた波形を描く心電図モニターが青白く光っていた。
まるで、今にも事切れてしまいそうな弱々しい波形が、画面の上をひっそりと流れていく――。
霧が立ち込める深い森の中。今度はさくらが奈美の杖を持ち、夏生は背中に奈美をおぶって歩き続けていた。
その横を、先ほどと同じような半透明の不気味な人影がフラフラと通り過ぎていったが、三人はそれに気づく余裕などなかった。
やがて、前方遠くの深い闇の中に、小さく光るものが見えてきた。
「パパ。あれ」
さくらが希望を見出したように指差す。
「さくら、きっとあれが出口だ」
夏生が声を弾ませた。しかし、背負っている奈美からの反応がない。夏生が背中の奈美を見ると、彼女はぐったりとして動かなくなっていた。
「ママ。ママ」
夏生が焦って声をかける。
「ママ」
さくらも不安げに覗き込む。奈美はわずかに目を開け、か細い声で囁いた。
「ねえ……下ろして」
夏生は頷き、奈美を静かに地面へと下ろした。
「私もう、ダメみたい……」
「何言ってるんだ。出口を見つけたんだ。もうすぐここから出られるんだよ」
「そうだよママ。一緒にうちへ帰ろう」
「そうだよ、家族なんだから、いつも一緒だろ」
夏生が必死に励ますが、奈美は力なく首を横に振った。
「でも、わかるの。私が一緒じゃ、ここから出られない。だって……私、もうすぐ死ぬから」
「ママ。そんなことない!」
「そうだよ、一緒に帰ろう」
夏生とさくらが、冷たくなりつつある奈美の手を固く握りしめる。奈美は最期の力を振り絞るように、愛する家族を見つめた。
「さくら、ごめんね。夏生さん……ごめんなさい。今まで、ありがとう」
奈美の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。
「奈美。奈美!」
夏生が叫んだ瞬間、どこかで『ピーーーー』という心電図の停止音が鳴り響き、奈美は静かに目を閉じて完全に動かなくなった。
奈美の亡骸の横で、夏生とさくらはただ立ち尽くすしかなかった。
やがて夏生は泣きながら奈美の両腕を掴むと、彼女の身体を引きずって、無理やり光の方へ連れて行こうとし始めた。
「奈美、行くぞ! 奈美、一緒に帰ろう、こんなところにいちゃダメだ」
「パパ! パパ! やめて!」
さくらが泣き叫びながら必死に止めるが、夏生は錯乱したように奈美を引きずり続ける。
「いいから! 奈美! 奈美!森を出るんだ」
「やめて! パパ! ママがかわいそう!」
「いいから!」
狂ったように叫ぶ夏生の頬を、さくらは思い切りひっぱたいた。
「さくら……」
さくらは何度も何度も夏生を叩いた。その痛みでようやく我に返った夏生は、奈美の体から手を離し、呆然とさくらを見つめた。
夏生は乱暴に袖で涙を拭い、自らに言い聞かせるように言った。
「そうだな……パパがしっかりしなくちゃダメだよね」
「うん」
「こんなことじゃ、ママに叱られちゃうな……」
その時、さくらが森の奥の光を見て息を呑んだ。夏生もハッとして顔を上げる。彼らの唯一の希望であった出口の光が、みるみるうちに小さくなっていたのだ。
「そんな、小さくなってる」
「さくら、急ぐんだ」
二人が慌てて光の方へ駆け出そうとした、その瞬間。
突然、背後から伸びてきた青白い両手が、夏生とさくらの首を強引に掴み上げた。
「うぐっ!?」
二人はそのまま大木に激しく押し付けられ、さくらは持っていた杖を地面に落としてしまう。圧倒的な力で二人の首を締め上げているのは――先ほど息を引き取ったはずの、奈美だった。
「わ、た、し、を……置いて、行くの……」
「な、なみ……?」
「ま、ま……?」
顔を上げた奈美の表情は、もはや優しい母親のものではなかった。目をひん剥き、まるで般若の鬼のような恐ろしい形相に変わり果てていた。
「あなた、言ったでしょう……。家族はいつも一緒だって。私、死んじゃったみたい。だから二人とも、一緒に死んでくれるよね?」
とてつもない怪力で首を締め上げられ、二人の意識が遠のいていく。夏生の視界の端で、森の奥の光がさらに小さくなっていくのが見えた。
このままでは殺される。もがき苦しむ夏生は、渾身の力を振り絞って奈美の体を突き放した。弾き飛ばされた奈美が地面に倒れ込む。
「どうして……どうして私に、こんなひどいことするの……私がいけないの……?」
奈美は地に伏せたまま、甘えるような、泣きじゃくるような声を出した。
「奈美……」
戸惑いながらも夏生が近づき、その肩に手をかけようとした瞬間。奈美は獣のように跳ね起き、今度は夏生だけの首に両手をかけて押し倒した。
「一緒に死んで欲しいだけなのにぃぃっ!」
「ぐあっ……!」
「死んで! 死んで! 私と一緒に死んでちょうだい!」
薄れゆく意識の中、夏生の手が、先ほどさくらが落とした太い木の杖に触れた。
「私と死ぬの! あなたもさくらも一緒に死ぬのよ!」
「や、めろ……!」
「死ぬの! 死ぬの!」
夏生は力強く杖を握りしめると、自分に馬乗りになっている奈美を思い切り殴りつけた。
鈍い音が響き、奈美は夏生の首から手を離して後ずさった。恐怖と混乱で理性を失った夏生は、そのまま立ち上がり、追い打ちをかけるように奈美を何度も殴りつけた。
「やめろぉぉっ!」
地面に倒れ込んだ奈美を、夏生は狂ったように何度も何度も殴り続ける。動かなくなった奈美に対して、それでも夏生の杖は止まらない。
「パパ! やめて! やめてよ!」
さくらが泣き叫びながら止めに入り、夏生の腕にすがりついた。
「さくら……」
さくらの涙を見て、夏生はハッと我に返った。荒い息を吐きながらさくらを見つめる。
「パパ……」
二人は恐る恐る、足元に倒れているはずの奈美の方へ視線を向けた。
「……さくら」
しかし、そこには誰もいなかった。つい先ほどまで奈美が倒れ、夏生が何度も殴りつけていたはずの地面には、彼女の姿は跡形もなく消え去っていた。
残された夏生とさくらは、ただ呆然とその空間を見つめていた。やがて二人は顔を見合わせ、深く頷き合う。彼らの視線の先には、まだ微かに輝いている出口の光があった。
「さくら!」
「パパ!」
二人は光に向かって、一心不乱に走り出した。
『フフフフフ……。あなた……さくら……』
その時、森全体を震わせるような、奈美の巨大な笑い声が響き渡った。
驚いて二人が振り返ると、鬱蒼とした木々の奥に、空を覆うほど巨大な「奈美の顔」が浮かび上がり、ニタリと不気味な笑みを浮かべて二人を見下ろしていた。
『どこへ行くの? 私を置いて行くの……? 一緒にいてくれないの……?』
「……っ!」
あまりの光景に、二人は恐怖で言葉を失い、足がすくむ。巨大な奈美の顔――妖怪『大首』と化した彼女が、ズズズッと二人へ迫ってくる。
夏生は咄嗟にさくらの背中を押し、光の方へ力強く突き飛ばした。
「さくら、行け! 光の中に入るんだ!」
「パパ!」
「いいから行け!」
夏生は愛する娘を逃がすため、迫りくる巨大な奈美の顔の前に、一人で立ちはだかった。
『あなた……一緒に死んでくれるの……?』
「ああ……俺が悪かった。奈美を置いて行くなんて」
さくらは光の境界線の前で立ち止まり、涙を流しながら躊躇していた。
「行け、さくら! ママのことは、パパに任せるんだ!」
夏生が振り返らずに叫ぶ。そして、目の前の巨大な奈美の顔に向かって、涙を流しながら叫んだ。
「奈美……一緒にいよう。もう、一人にしないよ」
泣きながら奈美の前に佇む夏生。その決死の背中を見たさくらは、溢れる涙を拭い、決心するように眩い光の中へと飛び込んでいった。
さくらの体は温かく眩い光に包み込まれた。
深い闇の底から、意識がゆっくりと浮上していく。重い瞼を微かに開くと、ぼやけた視界に真っ白な天井が映り込んだ。消毒液の匂いと、規則正しい電子音が微かに耳に届く。
「……ん……」
ゆっくりと焦点が合ってくると、ベッドに横たわる自分の傍らで、見知らぬ男女が覗き込んでいるのが見えた。聴診器を首にかけた白衣の男と、ナース服を着た女性――医者と看護師のようだ。
「目が覚めたの? どこか痛いところはある?」
看護師が優しく尋ねる。さくらは力なく首を横に振った。
「もう大丈夫だろう。外傷はほとんどないし……あれだけの大事故だったのに、本当に運が良かったね」
医者が安堵したように息を吐く。さくらは微かな声で尋ねた。
「パパは……? ママは……?」
その問いに、医者は悲痛な表情でスッと目を伏せた。代わりに看護師が、重い口を開く。
「……ご両親だけじゃなくて、何十人も亡くなったのよ」
その言葉に、さくらは息を呑み、言葉を失った。あの森は、生と死の境界線――黄泉の入り口だったのだ。両親は自分を生かすため、自ら死の世界に残ったのだと理解した。
「もう少し休んで。少し落ち着いたら、精密検査をすることになるから」
看護師が静かに告げると、彼女だけが病室を出て行った。医者はそのまま部屋に残り、傍らで様子を見守っている。
ベッドの上で、さくらは声を殺して泣き始めた。
「パパ……ママ……」
家族を失った絶望と悲しみが、彼女を包み込む。だが、その静寂は不意に破られた。
『さくら……さくら……』
それは男女の声が重なり合った、地の底から響くような声だった。幻聴ではない。確かに病室の中に、奈美と夏生の声が響いたのだ。
さくらがハッとして顔を上げた瞬間――。
轟音と共に、ベッドの正面にあった病室の壁が、まるでガラスのように粉々に砕け散った。
剥き出しになった壁の向こう側には、あの薄暗く不気味な森が広がっていた。そして、ぽっかりと空いた巨大な穴の向こうから、部屋の中を覗き込んでいたのは。
『さくら……迎えに来たのよ』
巨大な奈美の顔と、同じく妖怪『大首』と成り果てた、巨大な夏生の顔だった。
病室に残っていた医者は、目の前に広がるこの世のものとは思えない地獄の光景を目の当たりにし、「うわああああっ!」と絶叫して腰を抜かしながら入り口から逃げ去っていく。
『さあ、死ぬんだよ』
夏生の巨大な顔が、無表情のまま冷酷に告げる。
『家族はいつも……一緒なんだから』
二つの巨大な顔が、逃れることのできない病室の中で、さくらを飲み込もうと迫りくる。
さくらは悲鳴を上げなかった。ただ、絶望に満ちた瞳で二人を見つめ返し、自分の逃れられない運命を静かに悟る。
恐怖に歪む彼女の頬を、一筋の冷たい涙がツーッと伝い落ちていった。
『皆様、いかがでしたか? 皆様のご家族は、大丈夫ですよね』
再び、どこからともなく、あの誰ともしれない声が響き渡る。
『いくら仲が良くても、死ぬ時まで一緒ということは、ありませんよね。……でも、一人だけで死ぬのも、嫌ですよね?』
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回の『大首』はいかがでしたでしょうか? 「家族はいつも一緒」という美しいはずの言葉が、生死の境で最恐の呪いへと変わっていく恐怖の展開を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
もし本作のような妖怪が登場する、恐ろしくも不思議な物語を面白いと思っていただけましたら、ぜひ映像作品もご覧になってみてください。 作者が手掛ける妖怪ドラマの集大成とも言える映画『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。』シリーズが、現在各動画配信サービスにてご覧いただけます。
◆『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。』シリーズ 配信情報
■第1作『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(仮)』
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■第2作『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』
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映像ならではの迫力や演出で、文章とはまた違った妖怪の世界を楽しんでいただけると思います。お時間のある時に、ぜひチェックしてみてください。
どうか、よろしくお願いします。




