勇者は死んでもコンテニュー④
JKにカツアゲされてる気分だ……。
ジリジリと追い詰められてビルの隙間ならぬ、木陰まで連れていかれたオレは、幹を背にして直立不動。
千来寺ミナと御三尾チイはスカートの裾を巻き込むように膝を折り、こっちを覗き込んでくる。
ていうか、陰いっぱいの顔がめっちゃ近い。思わず目を逸らしてしまうほどに。
「ま、まつげ長いっすね」
「どーも。でもこれ、まつエクだけどねー」
「作り物を褒めても無意味よ」
めんどくせぇええええ。
が、諦めてたまるか!
「話せばわかる。なっ」
「アンタの言う話ってなに? セクハラ? 猥談?」
……返す言葉もない。
「ワタシ、ああいうのは良くないと思うの」
「ぉ、仰るとおりかと」
くっそ。こんな小娘如きに詰められるなんて。
いや、調子に乗りすぎたこっちが悪いんだけども、だとしてもだ。いいだろう。オレの本気、見せてやる。
「メグルって……いいヤツだな」
「ハ?」
「当たり前のことをいまさら。それは命乞いかなにか?」
遠い目で語りはじめた話の導入を、秒でコシ折られてしまった。
あと御三尾チイ、オマエさっきからぜんぜん笑えないぞ。これってお説教じゃなかったのかよ。それがどうしてオレの生命までかかった事態にまで発展しているんだ。
「アイツがレガリアを所有したのは、オマエらを守るためなんだぞ。知ってたか?」
「「——っ」」
ぃよし! 釣れた。
「いいか、まだどんな権能を持つアイテムかは聞いていないけど、ただチカラを得るためだけの理由ではない。それくらい出会って間もないオレにもわかる。……ミナもチイも愛されてるんだな」
「「く、詳しく!」」
倉久手メグルが言ってたとおり、二人はアイツのレガリア所有を秘密にしようとはしているな。態度でバレバレだが。
「異世界人、ここでの異世界人はオマエらのこと。いいか?」
「「うんうん」」
「でだ、異世界人同士ならレガリアによる支配は効く。それが絶対服従じゃないにしても、もし権能を得た異世界人が敵になった場合、オマエらが対抗するのは難しくなる。おそらくメグルはこんな説明をしたんだろ」
なんでわかるのって顔しちゃって。こんなこと深く考えるまでもないだろ。
この世界の人間と異世界召喚された連中の力量差を、オレは詳しく知らない。
だけどコイツらには、精鋭と自称していた兵隊たちを追跡できて、個別に始末もできるほどのチカラが備わっている。これは確か。特別な訓練を受けたわけでもないであろう高校生の男女三人がだ。
しかも、聞いたところ召喚された人は他にもいるって話じゃないか。加えてソイツらは同種であり、レガリアによる支配が及ぶ。
この条件ならば、召喚主に使い倒されるにせよ叛逆するにせよ、真っ先に価値観が近くて強力な異世界人を配下にしてしまうのが安全だ。特別な理由でもない限りオレならそうする。
いいや違うか。おそらくもっと青くさい動機なんだろう。
倉久手メグルがレガリアで千来寺チナと御三尾チイを精神支配した本当のワケは……、
「——ねぇ早く!」
「アナタの説明は、まだワタシが倉久手くんに愛されている根拠に至っていないわ!」
「アンタじゃなくってミナをでしょ!」
こんなにも男女関係なんかに夢中でいられる無邪気なこの娘らの心を、理不尽な負荷から守るためなのかもしれない。
やるじゃないか、アイツ。ちょっとカッコつけすぎでムカつくので、この二人には内緒にしておこう。
「ああもうケンカすんな! ええとだな、たとえアイテムの効果だとしてもオマエらの……こ、心を他のヤツに渡したくない、みたいなことだろ。嫉妬とか独占欲的なやつじゃないか。よく知らんけど」
「「——〜っ」」
クックックッ、勝ったな。どうやら完全に信じたようだ、この恋愛脳どもめ。すべては口から出まかせだというのに。
とはいえ、もしコイツらが本人に確認したとしても否定などできないはず。
「女子にとっては不愉快かもしれないけど、男子同士すぐに仲良くなる方法っていうのはな、けっこうああいう子供じみた会話がキッカケだったりする。オレも情事について本気で聞き出そうとしたわけじゃない。だから、さっきのはただのコミュニケーションだ。いちいち目くじら立てるな」
「「…………」」
クッ、まだ疑いの眼差し。さっきよりかは汚物に向けるような軽蔑度合いは減ったが。
「どうせオマエらが構いっぱなしで、アイツには男友達の一人もいないんだろ。わかってやれよ」
「……うん。まぁメグルは元から友達いないかな」
やっぱりボッチくんか。
「ここはアナタの口車に乗ってあげるけど、あまり倉久手くんに変なことを吹き込まないでよね」
やった。乗り切ったぞ。
無事、花の群生地へ生還したオレは、すぐさまカラッカラに乾いた喉を蜜で癒す。
茎ストローを伝ってのぼってきた仄かな甘さの潤いを、ゴクゴクゴク……。ホッ、とした拍子に『生き返るぜぇ』とお決まりのセリフが出かかったが、ここは自重しておく。
死んでも生き返るって話を聞かされたからには、そのくらいの気は使うさ。
女子二人の接待は同胞ピクシーたちと戻ってきたケットシーたちにお任せして、オレは倉久手メグルからコイツらの事情を聞いてしまおう。情事についてはまた折をみて。
「待たせたな」
「ぜんぜん」
「流れからすると、つづきは召喚の話か」
「うん。あまり面白い話じゃないんだけど、聞いてほしい」
正直、聞いててけっこうキツかった。
多少の差はあれど、日本中どこにでもありそうな高校生活を送っていた倉久手メグルたちは、ある日なんの前触れもなく理不尽なファンタジー世界に召喚されてしまった。これが事の始まり。
さっきも軽く触れていたが、娯楽作品にありがちなチートなどは一切なく、しいて挙げるとすれば『死んでもコンテニュー』のみ。
では、どうしてわざわざ実力行使で抑えつけられる程度の異世界人を召喚したのかといえば、これが最大の理由なんだろう。
せっかく精鋭まで育てても死んだらそこまで。だが、コイツらなら何度でも蘇る。無茶のさせ放題だ。
おそらく、この世界の人間が相手でも対処できる点も考慮されているに違いない。むしろ皇帝とやらが人間なら、レガリアを手にした同種の方が脅威だろうからな。
詳細について倉久手メグルは言葉を濁したけど、従わない者は召喚主から苛烈な制裁を加えられるとのこと。
どういう蘇生をするのかは不明だけど、起き抜けの無防備なところを押さえられたら、実力差があっても抗いようがない。
こんなふうに矯正され逆らえなくなった彼らは、レガリアを所有した魔物——魔王の討伐を命じられ、拒むことすらできず。おっかなびっくりでも魔物に立ち向かわざるを得ない日々。
わかりやすく言ってしまえば、ゾンビアタックの強要……。
常に監視者が付くそうで、怠けることも逃げることも難しいとのこと。
「でもボクらの境遇は、そこまで重要じゃない」
こんなことを当事者が言えてしまうくらいには、コイツの心は壊れている。
ただ、死んでもコンテニュー以上に悪質な設定が、異世界人にはあった。それは『同じ異世界人ならば生き返りは無効化される』とのこと。
つまり、異世界人同士なら本当の意味で殺せるわけだ。
「まるでババ抜きだな」
「上手い喩えだね。すでにボクは何枚かババを引いたよ。耐えきれなくなった人とか、死んだら元の世界に帰れるって信じた人を……」
手にかけた、か。
「メグルのお願いっていうのは最後にババを持ったオマエをって意味か」
「なるべくそうならないように、諦めないで帰る方法を探すけどね」
もしかしたら、コイツがアイテムに頼ってまでして千来寺ミナと御三尾チイを精神支配したのは、あの二人を守ることで自己防衛するという面もあるのかも。
「だけどその前に、ボクにはやらなきゃならないことがある」
「報復か?」
「うん。たしかにチカラは必要かな。少なくとも皇帝を単独で倒せるくらいには。でもそれは過程でしかなくて、異世界召喚に関するモノをすべて消す。これがボクの本当の目的なんだ」
ハァ、これまたヘビーな話を聞かされてしまった……。




