勇者は死んでもコンテニュー③
「待て待て、ずいぶん話が飛躍したぞ。いきなりの殺人教唆とは穏やかじゃないな」
「殺人教唆……、か。やっぱりキミは転生した人なんだね」
「人間じゃなくてピクシーだけど……もうそういうことでいいや。それよりだ、こっちの理解が追いつかない。オレにとっての新設定が目白押しで、まるで現物もなしにマニュアルを音読されてる気分だ」
こういう軽口を叩いてやれば倉久手メグルも少しは落ち着くと考えたんだが、
「現物はある」
予想外の対応。リュックから穴の空いた円盤を取り出したんだ。
それはただならぬ雰囲気を醸していて、プラ製でも七色の光沢を放つわけでもなく、オレには材質不明の七インチレコード——ドーナツ盤っぽく見えた。
「レガリアの一つ『鑑定の皿』」
やっぱり。話の流れからしてそうくると思った。
「オレの方から質問していってもいいか? まずはレガリアについて」
「ぜんぶは知らない。たぶん知らされてないこともあるけど」
「承知のうえだ」
「だったら……」
と、倉久手メグルはレガリアとはなにかを語っていく。
「ぜんぶで三六個あるって聞いた」
そんなにあるのか。せいぜい七個か、多くても十二個が収まりのいい数だろ、普通。
「三種の神器が三セット、属性が対となる石板が四組、七つの聖遺物と十二の至宝」
「合わせて三六個、と」
「計算早いね」
うるさい。というか前世の年齢だけでもオマエより歳上なんだぞ。ぽっちゃりピクシーな外見でオレを幼児扱いしていいのは、キレイなお姉さんだけだ。
ここでそれを言ってしまうと話の腰を折るので黙っておくが。
「レガリアはただ装備すればいいわけじゃない」
「このドーナツ盤をどうやって装備しろと?」
「これは変わってるけど、もっと道具らしい道具もあるんだ。ごめん、いったん話を『レガリアの持ち主になる方法』に戻すね」
おい、それだとこっちが話を脱線させたみたいじゃないか。
「物理的に所持して概念的にも所有を宣言する。これだけ。だいたい持ち主がいるから、その場合は放棄か譲渡を宣言させる、もしくは消す」
……誰もが一番手っ取り早い方法を選んでそうで、イヤだなぁ。
若輩なりにオレの憂いを察したのか、倉久手メグルは誤魔化すような苦い表情を一つ挟んだ。
「レガリアの権能だけど、一つ一つ固有のチカラがある。キミがドーナツ盤と呼ぶ『鑑定の皿』には、その名のとおりステータスを調べられるんだ。せっかくだからあとでやってよう」
それって……。
「オレに手の内を晒せと言ってるのか?」
「キミになにか隠し球でもあるの?」
質問に質問で返されてしまったが、ご指摘のとおりだ。オレなんかのステータスを見ても塩っぱいザコだと証明されるだけ。しょんぼり。
「ひ、秘められたチカラを調べられるレガリアもあるらしいから、手に入れたら持ってくるよ」
気を使わせてしまったようだ。自己評価高めなピクシーでごめんね。
「つづけてくれ」
「うん。それぞれの権能もあるんだけど、共通する部分もあって、強く出た所有者に対して同種族は畏敬の念を覚えてしまうんだ」
「それは絶対的なやつか?」
「少し違うかな。レガリアの所持は隠そうと思えば隠せる。こちらの命令に対して本能的に従いたくなると言ったらいいのかな、とにかく精神的な影響が及んで逆らいづらくなるんだ」
ということは……、
「レガリアを持っている相手でも、他種族なら反抗できるってことか」
「うん」
なるほど。この話が本当だとしたら、コイツらを召喚した理由も想像がつく。皇帝と呼んでいた為政者に、倉久手メグルたちが今もなお反抗的な考えを抱いたままでいられるワケも。対現地人用の戦力にされたワケも。
「お察しのとおり、ボクらにはレガリアによる支配は効かない。あと、所有者がいると他の人には鉛のように重くなって持ち上げられないんだ。これはボクらも対象になる」
「それだと、こっそり盗んだりはムリなのか。この世界では盗賊キャラは役立たずなんだな」
「アハハッ、そうなるね」
個々の特徴についてを置いておけば、キーアイテムのだいたいのところはわかった。
同種族を支配できるというのも凄まじいが、鑑定の皿、これにしたって直接的なチカラはないに等しくても知恵のある者が持ったなら……。
ふと、思いついた疑問が口を突く。
これは気づかないフリをしておいた方がいいことで、なんとなく答えがわかっているイジワルな質問——
「オマエ、内緒でレガリアを所有してるだろ」
「……なんで? ボクらは獲得したレガリアを皇帝に献上しなくちゃいけない。ちょろまかすなんて」
余程慌てたのか穴だらけの出まかせを。すでにコイツはちょろまかした証拠をオレに見せてしまっているのに。
クフフッ、オレはなぁんて性格が悪いんだ。
「ホントにその言い訳でいいのか? だとすると、このあとの話に矛盾が生じてしまうぞ」
「……ハァ」
倉久手メグル、本日二度目の降参。こんどこそ正真正銘オレの勝利だ。
「また誤解されたくないから、ちゃんと弁明させてほしい」
「もちろんだとも。せいぜい必死こいて言い訳してくれたまえ。でないとメグルは、チートアイテムを利用して女子を二人も誑かしたインチキハーレム野郎になってしまうからな。ウワッハッハッハ」
精神的に支配できるのは同種族だけで、この世界から見ての異世界人——倉久手メグルたちには効かない。つまり異世界人はこの世界の人間と同種族じゃないって理屈が通る。
さらに飛躍させると、異世界人同士ならレガリアによる影響が及んでも不思議じゃない、となるわけだ。
「一番イヤな誤解から解くけど、あの二人と関係を持ったのはこっちに召喚されてすぐのことで、時系列からして違うから」
それもそれで羨まけしからん、と、かつての感性が猛烈抗議してくる。
「二人に下した命令は『ボクのレガリアの所有については秘密』だけだ。権能で無理やり関係を迫ったりしてないからね」
そうであってもらわないと、まともにコイツの話を聞いていられない。まだ完全に信用したわけじゃないけど、そこまでのゲス野郎ではないはず。
しかしだ、ここで素直に受け入れてしまってはイタズラ大好きピクシーの名折れ。
「ええ〜関係ってぇ?」
「……に、肉体関係」
「んん〜? オレってば無垢な妖精さんだから詳しく言ってもらわないとわからないなぁ。ねぇねぇ、女子二人との肉体の関係ってどういうことなんだ〜い? どんなシチュエーションでどんなちょめちょめしたのか詳しく聞かせておくれよ——」
ふごッッ⁉︎ 背後からものすごい殺気‼︎
「「…………」」
コ、コイツらいつの間に戻ってきたんだ。恐ろしくて振り向けないぞ。
「サイッテー。アンタの中身ってさ、絶対エロいオジサンでしょ」
「ミナ。何事も決めつけるのは良くないことよ。ということで確認のため、このピクシーを引っぺがしてみましょう」
怖ぇよ。ついさっき兵士を始末してきたばかりだから余計に怖い。
というか引っぺがすってなにをだ。こっちは葉っぱ一枚しか身につけてない——ま、まさか皮をとか言い出さないよな。冗談キツいぞ。
「「……こっち来て」」
倉久手メグルは冷や汗ダラダラで、めちゃくちゃ焦ってるだけ。いいから助けろっての!
つうか権能とかで精神支配してるんじゃなかったのか? レガリア、さっさと仕事しろよ。
「残念だけど絶対服従ってわけじゃないんだ。自由意思で抗うこともできる。だから『逆らいづらい』って言った。ボクも強い意思を持って命じれば、なんとかなるかもしれないけど……」
「メグル‼︎ 意思を強く持て。オ、オォオレを見捨てるなーッ!」
「……ごめん。二人を怒らせると、あとが怖い」
「メ、メグルゥゥゥゥゥ——」
そしてオレは捕えられた宇宙人の如く、森の深くへズルズルと女子二人に引きずられていくのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
以下に、作中で明らかになったレガリアの設定をまとめました。
◯総数と分類(全36個)
三種の神器:3セット
属性の石板:4組(対となるもの)
聖遺物:7つ
至宝:12個
◯所有の条件とルール
・成立条件:物理的な所持に加え、概念的な『所有の宣言』が必要。
・所有権の移動:前所有者による『放棄』か『譲渡』の宣言、あるいは所有者の殺害(消去)によってのみ移る。
・盗難防止:所有者がいる場合、他者が触れると『鉛のような重さ』になり持ち上げることすら不可能。
○共通の権能(精神支配)
・効果:所有者と同種族の者に対し、本能的な『畏敬の念』を抱かせて命令に逆らいづらくさせる。
・制限:絶対服従ではなく、強い意志があれば抗うことも可能。また、他種族には効果を及ぼさない。よって、召喚された勇者(異世界人)は現地人と別種族扱いのため、レガリアによる支配を受けない。
○個別の固有権能
・個々に異なる特殊能力を持ち、作中に登場した『鑑定の皿』は対象のステータス情報を知ることができる。




