勇者は死んでもコンテニュー②
「隠したいのなら、さっきこそ『なんの話だ』と聞き返しておくべきだった。タイテーニア、オーベロン、パック、これらはぜんぶこの世界ではあまり一般的ではない固有名詞。なのにどうしてキミが知っているのかな」
ゾクリとさせられた。
この悪寒は、オレが葉っぱ一枚だからでも痛いところを突かれたからでもなく、倉久手メグルの目つきが原因だ。
こちらの詰みを確信したのにも関わらず、まったく欲が見えない。なににも期待していない、そんな諦めにも似た暗さが不気味だった。
どうする、ここは惚けておくか?
いいやダメだ。コイツら、友好的に振る舞ってはいるが、未だオレらの生殺与奪権は握られたまま。さっきまで態度ですら危ういギリギリのライン。
これ以上は、こちらによほどの利用価値がない限り、いつ短慮を起こさてもおかしくはない。
……などと冷静ぶってるオレだけど、内心はビビりまくりで心臓バクバク。おかげで返事すらままならなず。
たぶん唇プルプルしてて青くなってる。
「え、ちょ、泣かないで。ねぇメグル、また誤解されてるっぽくない」
「え、ウソ?」
「本当よ。ワタシは、前世の知識がある魔物なんて早いところ処分してしまった方がいいと思うわ。恐ろしいもの。でも、倉久手くんは彼に協力をお願いしたいんでしょう」
恐ろしいのはサラッと『処分』とか言い出すオマエの方だ、御三尾チイ。
しかし誤解だと⁇ 聞き逃せない言葉だ。オレはいったいなにを取り違えた?
この疑問はすぐに氷解することに。
「いや〜、さっきは助かったぜーい。ひん剥いたやつ、ホントにオイラたちが貰っちまってもいいのか?」
もう帰ってこないと思っていたケットシーたちがホクホク顔で戻ってきたんだ。装備品やら背嚢やら戦利品を両手いっぱいに抱えて。
「そんなのいらなし、メグル、あげちゃってもいいよね?」
「うん」
「たしかに。このコたちに持たせていた方が、帝国へのカモフラージュには都合がいいかもしれないわ」
「二ャハッ。オマエらイイ人間だニャー」
おいおい、最後のはイイ人間の発言じゃないぞ。
「ちゃんと埋めてきてくれたんだよね?」
こう千来寺ミナに確認されると、
「「「あっ」」」
「こうしちゃいらんニャい!」
ケットシーたちは慌てて元来た場所へ引き返していった。
「どうやらオレの誤解だったららしい。悪かったな」
「いいや、囮にしたのは本当だ。ボクは帝国兵三人がバラバラになるのを待っていたんだから」
「……そうか」
まだ引っかかるところもあるけど、だとしても犠牲が少なく済んだのはコイツらのおかげ。こう感情に区切りをつけるしかない、か。
「それで、さっきの協力っていうのは?」
「あくまでお願い。イヤなら断ってもいいから」
これを言葉どおりに受け取っていいものか。
「そんなつもりはないよ。ただ、無理強いをしたくないだけだ。そんなことをしたら、ボクは、ボクらを召喚した皇帝と同じになってしまう」
朧げながら事情が窺える。
しかし話のつづきは、
「わかるぅ。そういうメグルの真っ直ぐなところ、ミナは——」
「ジミナはところ構わず発情期なのね。いやらしい」
「また言った、もう許さないんだから! っていうか、先にメグルに手を出したのはアンタじゃん。いつもは清楚ぶってるくせにさ、いやらしいのはむしろそっち。このビッチー、清楚ビッチ!」
キャットファイトの第二ラウンドによって遮られてしまう。おいおいまたかよ。頼むから他所でやってくれ。
だが、おかげで張り詰めた緊張感からは解放された。
「オマエも大変なんだな」
「アハハ……」
コイツの置かれた境遇、かつてのオレなら絶対に許さなかっただろう。だって異世界転移でハーレムパーティーのうえ、既に可愛いJK二人とゲフンゲフン、なんだもんな。
未だにギャーギャー取っ組み合う女子二人を、愛すべき我が同胞たちはキャイキャイ煽るばかり。
……もうコイツらは放っておいてもいいや。
「さっきは時間がないふうに言っていたけど、オレが協力する気になるくらいの身の上話は聞かせてもらえるのか?」
なんなら具体的なところさえ、まだだ。
「うん。でもその前に」
断りを入れた倉久手メグルは、昏倒したままの兵隊の首元に手を当て、
「千来寺さん、御三尾さん。ここでは迷惑だろうから少し離れたところで」
と。
二人はピタリとケンカをやめるなり軽く頷き、それから意識のない兵隊を物みたいに引きずっていった。
なにをしようとしてるのか想像はつく。イヤなものだな。コイツら異世界ナイズされすぎだろ。
「そんなふうに割り切れるほど酷い目に遭ったってことか」
「……まぁね」
「メグルたち今いくつ?」
「見たままの年齢ではないよ。こんなゲームみたいな世界に呼び出されてから、もう何年も経ってるから」
しかし見た目は変わらない、と。ではコイツらの精神年齢は成人としておこう。
「となると永遠の若さか。あらゆる権力者が最後に望むモノだな」
「少し違うよ。終わらない命だ」
「——えっ、オマエら不死身なの⁉︎」
「いいやボクらも死ぬ。でも生き返る。指定された場所でコンテニューさ。ハハッ、ゲームみたいにお約束の小言まで言われるんだよ。すごく怖い思いをしたのに、文字通り必死で戦ったのに『死んでしまうとは情けない』って……。笑えるよね」
ちっとも笑えない。
以降も倉久手メグルの経緯を聞いていく。
それは、よくある異世界モノのような展開だった。ある日突然この地に召喚され、勇者として魔王を討つ使命を与えられたんだそうだ。
元の世界への帰還方法はないこと、微々たる支度金のみで送り出されたこと、他にも似たような境遇の者がいること、冒険が彼らの意思ではないこと、などなど。
しかし大きく想定を外したのは、
「実力行使はムリなんだ。皇帝は、いまのボクらでは倒せない」
という点。
なぜなら——
「この世界はさ、権力の構造がおかしいんだ。なにせ皇帝が一番強い」
「こんなファンタジーな世界なら、そこまであり得ない設定でもないだろ」
「いいや、すべては『レガリア』の所持数で決まるんだよ」
「レガリア?」
三種の神器とか、王冠とかの、あれ? それとも聖遺物的ななにか?
「権威の象徴でも貨幣鋳造などの特権でもなく、レガリアは純然たるチカラ。手にした者を絶対とするアイテムなんだ」
「ふむ。となると、オマエらはそれを使って命令を聞かされてるのか」
「そうじゃない」
ドヤッと理解を示してみたのに、ぜんぜん違った。
はじめは冷静に話していた倉久手メグルだったが、いつの間にか苛立ちが順序立てを無視させたらしく——
「お願いだ! ボクらが目的を果たしたら、そのときはキミにボクを殺してもらいたい」
突然、暗い感情を曝けだした。




