息つく間もなく第二ステージ④
もう王都は襲撃されて陥落してしまった。この前提で、オレは指示をしていく。
「砕いた炭はもちろん、おが屑も鉄粉も、乾いた粉末はなんでも詰め込んでくれ」
「樹の皮でも固めの葉っぱでも、包めればなんでもいいんだったっけねぇ?」
「ああ。着弾する前に破けなければ」
「あいさっ」
レペゼン・コロポックルに粗方を伝えたら、次は、捜索活動を切り上げたフェアリーズとピクシー四天王に、
「炊き出しの手伝いを頼む」
「アタシ料理なんてできなーい」
「「「アタシもー」」」
「水や食材を運ぶだけでも重労働だろ。村長夫人に聞いて、できることをやってくれ」
焼け野原に屯する連中は、もう丸一日近くなにも口にしていない。
さんざん暴れて逃げてしたあとだからな、早く食事を摂らせないと不調を訴える者が出てくらだろう。
「コボルトたちはー?」
「アイツらは最前線で身体張ったんだぞ。寝かせておいてやれよ」
「そっかぁ。んじゃいってくる〜」
とは言ったが、一休みしたあとには食糧確保に森へ向かってもらう予定だ。
五〇〇〇の逃走兵がすべて戻ってくるとは思っていないけど、十分の一だとしても今ある備蓄で足りそうにない。
もしかしたらアンデッド対策より、こっちの方が差し迫った課題かも。
粗方の行動選択は済ませたから、いったんはターンエンドか。一巡するまでに次を考えないと……。
そこらに落ちていた枝を拾い、地面をキャンバスにしてカリカリと地図を描く。といっても、オレは妖精の森から王都までの道のりしか知らないので、本当にザックリとしたものだ。
その横には、配置可能な戦力などをメモ。
いくらでも余白はあるのに、チマチマ細かく。
そしてパッと思い浮かぶものが尽きると、端をツンツン突っつく。カーソルが点滅して次の入力を急かすみたいに。
「疲れてるみたいだねぇ。ぽっちゃりピクシーも休んだ方がいいんでないかい?」
オレだってできればそうしたい。しかし今しているのは労働ではなく、生存戦略だ。それも森の妖精たちすべての命運がかかった……。
「コロポックルたちだって働きっぱなしだろ。オレだけ怠けてたら示しがつかないじゃないか」
「なんも気にしないけどねぇ。まぁいいや。だったらこれでも飲んでよ」
手渡されたカップには、琥珀色のメープルシロップ。これはありがたい。
さっそくマイ茎ストローを取り出してっと——チュチュ〜〜ッ、プハァアァ……。
ふわわっ、濃密な甘さが曇った頭をカッと冴えさせた! ような気がした。
と同時に、強烈な眠気に襲われる。
「も、盛ったな……」
通じやしないお約束だとわかってはいても、言ってみたいから口にした。どうやら相当オレは疲れているらしい。
「なんかあったら起こすんで、いまは寝ときなぁ」
こう言われたかどうかは定かじゃないが、とにかくなにかしらの声をかけられたところで、オレの意識は途切れた。
◇
「ぽっちゃりピクシー。おいコラ起きやがれ!」
ぽっこり腹を揺すられての目覚め。
その直後に聞かされた内容は、
「嘗めてんのかテメェ」
からはじまるブチとミケらケットシーたちの文句につづく——王都陥落の報。
「待て待て、待ってくれ。オレはそんなに寝てたのか?」
妖精の森からは徒歩で三泊四日の距離だったはず。いくらケットシーの移動が早くても、そんな長距離を走り続けられるわけがない。
「おうおう、オイラたちを疑ってんのかコラ? こちとらこの耳で、ちゃぁんと聞いたんでい! ニャあミケ」
「おうよ」
なるほど。そういうことか。
「アンデッドから逃げてきた人間と遭遇して、事情を聞いたと」
「察しやがれ」
よくもまぁそのコミュニケーション能力で、避難民と話ができたものだな。
だいたいわかった。王都への襲撃がはじまったのは、奇しくも森に王国軍が押し寄せたのと、ほぼ同時。
偵察に出たケットシーたちが王都から逃げてきた者と出会い、話を聞いてから森まで往復するのに要した時間。これは戦後処理とオレの睡眠の合計とイコール。
「となると……、最短で三日後くらいか」
冥王リクドーラが、蹂躙した都を住まいに腰を落ち着けるのか、それとも周辺へも魔の手を伸ばすのかはわからない。
だが、後者の場合の猶予はこの程度。
「抜かりはニャいぜ。ちゃーんと子分たちを残してきたからニャ」
「ニャんかあったら知らせに戻る手筈にニャってるぜい」
驚いた。ミケもブチも、こんなに賢かったか?
「ニャんでいニャんでい。そのツラぁ」
「ちょいと賢いからって調子こくニャよ」
たしかにコイツらの言うとおりだ。
「報告に戻るなら、どっちかでよかっただろ。なんだオマエら、実は寂しがり屋さんなのか?」
「「——ニャんだとテメェ!」」
実際、片方が残って現場指揮を執るべき。
ぜひ次からはそうして欲しかいので、イジっておいた。
「一日で往復できる場所に見張りを立ててくれ。交代を立てて、夜も欠かさずに頼む」
「ん? 王都を見張ってニャくてもいいのか?」
このミケの疑問に、
「まぁたニャんぞ悪どいこと考えてるんだろ。いちいち聞くまでもニャいぜ」
ブチが思考放棄な回答を。
というより、これはさっきの意趣返しか。
そっちがそう来るなら、
「そういうつもりじゃなかったんだけどな。でもせっかくの申し出だ。どうしてもと言うんなら、片道三日半の王都を見張ってもらってもいいんだぞ。その場合、どうローテーションを組んでも、休みなく駆けっぱなしの往復がつづくが——」
「「ニャしニャし、さっきのニャーし‼︎」」
というのは冗談として。
今回最も損耗が激しかったケットシーたちには、直接的な戦力としてではなく、偵察などの裏方をこなしてもらう。
これはケットシーの個体数を減らしすぎないためでもあるし、もしアンデッド戦が月を跨ぐほど長引いた場合の布石でもある。
「オマエらの目が頼りだ。頼んだぞ」
「「ガッテンでい!」」
ハァ……。一瞬でも数字で仲間を考えなきゃならなかったことに、モヤッとさせられる。
この鬱憤を晴らすべく、いまは策を走らせることに専念しなくては。




