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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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息つく間もなく第二ステージ③


 騒々しい夜が明け、白みはじめた空へ煙が細い筋となり立ち昇っていく。

 焼け野原の一角には、広く深い穴が掘られていて、そのすぐ側には送風孔に用いる横穴が。このように、火葬をしたあとそのまま埋められる設計となっている。

 火先が覗く穴の近くには台座を配し、気持ちばかりの供物を並べた。

 そして、純白とは言えないが生成りの白い衣を纏ったエルラーレは、膝をつき、両手を胸許で合わせて黙祷を捧げるのだ。


 とぼとぼと戻ってきた脱走兵たちが最初に目にしたのは、こんな光景だった。

 どれもこれも急拵えなのは認めよう。だがだ、憔悴しきった彼らには、冥福を祈る少女の姿が安らぎと映ったに違いない。

 その証拠に、どの兵士からも怯えや諦めなどのネガティブさが抜け落ち、心洗われたような表情を浮かべていた。


 悪気があってしたことではないけど、この効果を想像できてしまうだけに、心中には言い知れぬシコリが残る。

 でも、これはオレ個人のちっぽけな感情の問題だ……。



 陽が傾くころになると、煙は尽き、村人とコロポックルたちが火床だった場所へ土を被せはじめた。

 すると遠巻きに見ているだけだった雑兵たちは、おずおずと誰ともなく手伝いを申し出てくるんだ。自分たちにもやらせてくれと。

 オレには話しかけづらいらしく、エルラーレに近寄る。

 しかし祈りをつづける様子に躊躇いが勝ったのか、彼らは戸惑うも、しばらくして聖女の近くに控えるアーマイロに声をかけた。

 それを受けてアーは、


「エルラーレ様」


 と。

 ゆっくりと目を開けたエルラーレは、


「……うん」


 非常にわかりやすい表情を向けた。

 笑みとは言えない笑み。それは慈しみとも呼べなくもない、村娘の等身大な無力感に満ちていた。

 でも、それが胸に響いたのだろう。雑兵たちは丁寧に目を伏せて、手伝いを受け入れてくれた感謝を示す。


 ここまで脚本はゼロ。というか、エルラーレには自分の言葉で語らせた方がいい。昨晩そう悟った。

 もしかしたらオレは、聖女ではなくとんでもない化け物を生み出してしまったのかもしれない。一つ方向づけを間違えたら、こちらが呑まれかねないほどの。

 しかし危惧とは裏腹に、微かに期待を抱かずにいられないジレンマもあった。


 あとからあとからフェアリーズに誘導されて、兵士たちがやって来つづけた。

 なかには、拘束済みの王国正規兵もいた。とはいえ多くは無理やり兵役に駆り出された者だ。

 皆が皆、ほとんど言葉は交わさず。

 雰囲気を察して手伝う者、静かに膝を抱える者、負傷者の手当てをはじめる者、それぞれだが、身の置き場に苦労している様子だけは共通していた。


 そんななか——


「エルラ⁉︎」


 葬ったなかにそれらしい人物はいなかったので、無事だとは思っていた。


「……お父ちゃん!」

「エルラーレ!」


 ここだけを切り抜けば『よかった』と言ってもいいのかな。

 すっかり役目を忘れて父親の元へも駆け寄る少女。

 こんな姿を見てさえ素直に祝福できないオレは、やはり心の底まで魔物なのだろう。


 父娘が一頻り再開を喜ぶあいだは、イコール他の雑兵たちが己の状況を忘れていられる時間だ。

 しかし、それが過ぎてしまえば、目の前の幸福は我がことではないと自覚させられる……。


 どこまでいっても物事は相対的。

 あらゆる娯楽に囲まれ、清潔で治安も良く、食うに困らない生活を疑うことない人生であっても、派手な暮らしぶりを目にすれば『私は恵まれていない』と錯覚してしまう。かつてはオレもそう感じていた一人だった。

 逆も然り。他者の豊かさを知らずにいたら『私は幸福です』と、自分の見えている世界だけですべてを判断する。

 べつに、どっちが善い悪いの話をしてるわけじゃない。


 ただ、そういったやりきれない空気感が伝播していく。

 すると自ずとエルラーレも聖女役であったことを思い出し、呟くんだ。

 

「……ごめんなさい」


 と。

 年端もいかない少女にこんな気の遣われ方をしてしまった大人たちは、


「「「…………」」」


 文字どおり返す言葉もない。


 さて、そろそろか。いい加減こちらの都合も聞いてもらなくてはならいからな。


「エルラーレ、詫びたということは諦めたのか?」

「えっと……」


 どういう意図かを問う目には、彼女なりの不確かな罪悪感が滲んでいた。

 どうやら謝る以外に贖う(すべ)を持たない彼女は、オレから返事に、見通しのない期待をしているようだ。ククッ、諦めてはいないらしい。


 ここでオレは、固唾を飲んで事態の推移を見守る傍観者の方へと向き直る。そしてつづけた。


「所有しろ。この国も……、土地も家族も、住まいや暮らしも家屋も田畑も家畜も、あらゆるモノはすべてオマエらのモノだ」


 突然なにかを言い放たれた面々の反応はまちまち。

 意味が変わらずポカンとする者もいれば、なにかを悟って俯く者もいる。

 しかし多くは、反論が口を突く寸前の者ばかり。


「どうした? 小さな妖精には口答えできても、大きな権力には逆らえないのか? おおっと失礼。ククッ、オマエらは目の前にいるピクシーにすら言い返せていなかったな」

「ぽっちゃりピクシーさん!」


 おいおいエルラーレ、そう咎めるような声をあげてくれるなよ。

 ここにいる雑兵——大人たちはちぁゃんと弁えているぞ。

 我ら森の妖精たちが強大なカレックス国王を倒したことも、凄腕冒険者であるヴェ・ネフィカという名の魔女を撃退したことも承知のうえで沈黙を選んだ。

 しかしエルラーレは、オレが話の通じるヤツだと知ってか知らずか、臆面もなく物申した。なんの武力も持たない村娘がだ。


「ぜひオマエらにも、こういう蛮勇を見習ってもらいたいものだな。で、エルラーレ。ここでオレに対して強く出るということの意味はわかっているのか」

「わかんないよっ。でも、いまがガンバリどきってことでしょ? みんなでガンバレば、みんなもお家に帰れるってことでしょ?」


 花丸だ。文句なしの百点満点。

 聖女が民衆に見せるべきは、明日への希望。断じて憤りではない。


「オマエら次第だがな。しかし利害が一致している以上、我ら森の妖精としては人間に協力(・・)してやるのも吝かではない」

「素直に助けてあげるって言えばいいのにぃ」


 それはできない相談だ。なぜなら主体はオマエら王国の民でなくてはならない。

 もっと突き詰めると、聖女エルラーレが率いるカタチでの介入、解決が望ましい。


「では、大前提となる『みんな』になったところをみせてくれ。話はそれからだ」


 まぁ、ここまでお膳立してやったんだから、旗頭はエルラーレで決まりだろう。

 村娘には荷が勝ちすぎるかもしれないが、側でアーとベーが支え、再開できた父親が拠り所となる。それに母親の村長代行もいる。これでもかってほどのサポート体制だ。


「追って村の者たちも向かわせる。去るも残るも自由。我ら妖精に対して危害を加えない限りは敵対もしない。どうするのかを決めたら、知らせてくれ」


 人間のことは人間たちに任せ、オレはアンデッド対策を進めるためコロポックルの集落へと向かった。


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