勇者は死んでもコンテニュー①
見ず知らずの人間相手に懐かしさを感じてしまう理由は、その顔立ちと服装だ。
思わず『日本人?』と喉まで出かかった。もちろん飲み込んだけど。
高校生だろうか⁇
今日日珍しい……とファンタジー世界で言うのも妙だけど、学ラン男子が一名。後ろにはセーラー服、チェックスカートの女子が各一名。
全員が全員、ゴテゴテした弓を持ち、腰にゴツめの短杖と刀らしき物を吊るしている。
さっき兵隊が言ってた『あの異世界人のガキども』っていうのは、たぶんコイツらのこと。
しかしなんとも学生服と不釣り合い。あまりに世界観がチグハグ。
ということは同郷か。おおかた転移とか召喚とか、そういう経緯なんだろう。オレがぽっちゃりピクシーに転生して妖精さんやってるくらいだ、あり得ない話じゃない。
だとしても、コイツらの人となりが不明なうちは気をつけておかなくては。
「お礼くらい言ってたら」
後ろにいたチェックスカートの方が、ポツリと。
金髪ボブの毛先にまばらな赤と青の染色が覗いている。某アメコミの悪ヒロインみたいな派手さ。しかしメイクはほどほど。
「やめなよ」
と、止めたのはセーラー服の方だった。
一見すると黒髪ロングの清楚系ではあるけど、なんだかやたらと目つきが大人びている。どうにも経験豊富っぽい感じを醸していて……いいや、これ以上はゲフンゲフンとしておこう。
「このコたちは怖い目にあったばかりで、それどころじゃないのよ。そのくらいジミナにも——」
「ジミナって呼ぶな! 前も言ったよね、次そう呼んだら殺すって。忘れちゃった? ねぇビッチー」
「いまなんて言ったのかしら。ジライ、ジミナちゃん」
「このビッチィ!」
なんだなんだなんだぁ。ぜんぜん地味じゃないジミナと清楚キャラっぽいビッチーによるキャットファイト開幕か?
オマエら、たったいま猫っぽい妖精のケットシーを救ったばっかりなんだろ。ああもう頭がこんがらがる!
「千来寺さんも御三尾さんも、落ち着こう」
と、学ランが静かに諌めたら、
「……メグルがそう言うんなら、ミナはそれでいいけどさ」
「ワタシも大人げなかったわ。倉久手くん、ごめんなさい」
二人は途端にしおらしく。
ふーん。なんとなく人間関係は見えた気がするぞ。
「いろいろお互いの事情を話したいところだけど、自己紹介からでいいかな」
おい学ラン、勝手に話を進めるな。
「悪いがオレに名前はない。他のピクシーたちもだ」
「そうなんだ。でも名乗らせて」
頼んでもいないのに、それぞれ苗字の漢字まで教えてきた。
平凡を絵に描いたような学ランくんは——倉久手メグル。
派手めな金髪ボブのチェックスカートちゃんは——千来寺ミナ。
黒髪清楚系なのにどことなく大人な雰囲気を醸すセーラー服ちゃんは——御三尾チイ。
ついでに、女子二人の蔑称の由来もなんとく察しがついた。
ハァ……。まったく、嘗められたものだな。そんな単純なトラップに引っかかるもんか。
「長い。オマエがメグルで、そっちの連れはジミナとビッチーだな。覚えたぞ」
「「——ッ!」」
そう怒るなって。ちょっとした意趣返しのつもりなんだから。責めるんなら先に仕掛けた倉久手メグルにしてくれ。
「まぁまぁ二人とも。みんな珍しい苗字だからね、しかたがないよ」
尤もらしいことを。白々しい。
どうせ『漢字がわかるかどうか』を試したんだろ。でもなければ、葉っぱ一枚の妖精に苗字の書き方までは伝えないからな。
「もしかしてボクら、あまり信用してもらえてない?」
ズバリきたな。ならばこちらも。
「オマエら、オレたちを囮にしただろ」
「なに言ってんの? ミナたち助けてあげたんだけど。ねぇメグル」
「そうよ。倉久手くんが助けてあげようって——」
オレは御三尾チイの声を遮り、
「ならどうして兵隊たちがバラける前に始末しなかった?」
疑問を投げかけてやる。
あまりにタイミングがよすぎる登場を疑わないほど、オレは愚かじゃない。
助けたという割にケットシーたちを伴っていないことも、出会って早々にブラフを仕掛けてくることも怪しい限り。
「初対面は、ちょっとくらい驚いてみせるべきだったな。近くの村に住むヤツだってオレを見て驚くんだぞ」
たぶんコイツらはオレのことを知っていた。少なくとも『妖精の森にヘンテコなピクシーが現れるようになった』程度の情報は得ていたはず。
だったとして、いったいなにが目的だ?
捕らえて売ろうという魂胆なら、すでにそうしているだろう。それだけの戦力差があるのは明らか。
「長居もできないし、なるべく正直に話すよ。今回の件とは別に、以前からボクらはこの森に住むタイテーニアに興味があったんだ」
「ん、このコって男の子だよね。ならオーベロンじゃない?」
「そうかしら。ワタシはパックだと思うわ」
「で?」
オレは単純につづきを促した。多くは答えないし理解も示さない。
「……。実はボクらには隠したいことがあってね、それが彼らにバレてしまい」
倉久手メグルは転がったままの兜へ目をやる。
「口封じしなきゃって追いかけてたら、この森まで逃げ込まれちゃったわけ」
「だから今回のことと、アナタを知っていたことは無関係よ」
それで終わりじゃないだろ。
「……で」
「でって言われても……」
コイツは肝心なことに答えていない。
他二人の女子は疑問にも思っていない、か、べつに妖精の被害なんかどうでもいいと考えているのか。
「なぁんだ。正直に話すと言ったのは嘘かよ」
「だからミナたち嘘なんか——」
「ああそうだな。オマエらは嘘はついてない。ただ、こちらの質問に答えていないだけ」
もしくは重要ななにかを隠しているかだ。
意図的に兵隊らをここに追い込んだかは定かじゃない。だから『オレを知っていたという話とは別』との主張、いちおうの筋は通っている。だが……。
「もっとあからさまに言ってやろうか。オマエらは狩られていくケットシーたちを見殺しにした。兵隊たちを確実に始末できる機会を狙って」
ここまで言ってやると、ようやく倉久手メグルは「認めるよ」と両手を挙げた。
しかし、結果はオレの論破などではなかった——
「やはりキミは、魔物に転生した現代人だったんだね」
「なんの話だ」
「隠したいのなら、さっきこそ『なんの話だ』と聞き返しておくべきだった。タイテーニア、オーベロン、パック、これらはぜんぶこの世界ではあまり一般的ではない固有名詞。なのにどうしてキミが知っているのかな」




