ボスウェーブ④
「妖精の森へようこそ、人間」
「「「————ッ」」」
「何者だ!」
お付きの者が王とオレのあいだを遮った。だが、当のカレックス国王はまるで無関心。こちらに目も向けない。
「見てわからないのか? どこからどう見ても可愛いピクシーだろうに」
「ふざけたことを! 貴様のようなデブがピクシーだと‼︎」
そこキレるところ?
なんでかオレの体型に文句をつけてきた。では、ここはせっかくなのでお約束の——
「デブって言うなぁあああーッ‼︎」
自ら静電気を起こして髪を逆立て、遺憾の意を表明。調子に乗ったピクシー四天王も同じく、髪をブワッとさせて怒髪天ヘアに。
「余をバカにしておるのか」
ようやく口を開いて、それか。
カレックス国王はまるでこっちを警戒していない。不気味なほど興味のない目つきで一瞥くれるのみ。
「そのつもりだが。オマエは、バカにされたかを確認しないとわからないほどのバカなのか?」
つづけざま、口許を手で押さえ『ぷぷぅ』と嘲笑うポーズ。
もちろんピクシー四天王たちも悪ノリ。つつじとれんげは指を指してケタケタ笑い、すみれとあやめはお気の毒さまと囁き合うフリを。
こうも余裕ぶっていられるのは、敵からの手が届かない距離だから。
身の安全のためにというのは説明するまでもないが、相手からすると違う。自分を見下す位置にいると映るはず。
だというのに、
「羽虫如きが喚くな。じきに全軍をもって、森ごと妖精も叛逆者も焼き払ってくれるわ」
こうだ。
いまオレがやるべきは、時間稼ぎ。次点で凄腕冒険者とやらの存在を確かめること。そのための挑発だ。ムカついたからと文句を言いにきたわけじゃない。
「なんだよ、ただの臆病者か。やたらと大勢でくるものだから寂しがり屋の王様かと思ったのだがな。ククッ」
家臣の前で侮辱されて、それを気にするかしないか。これはある種の賭け。
「フンッ。羽虫の戯言など捨ておけ。葉っぱ一枚の野蛮な虫ケラの言葉なぞ、聞く価値もない」
うるさい。オマエらが突然くるから、こっちは衣装を用意する暇がなかったんだよ。本当はめちゃんこハッタリ利く格好を考えてたのに、台無しだっ。
「羽虫よ、余よりの慈悲だ。戻って戦の支度を致せ。貴様は最後の最後に潰してやるゆえ、せいぜい絶望するがよい」
チッ。わかりやすくキレ散らかしておけばいいものを。どうもコイツは、余程オレらを下等な位置付けで見ているらしい。
さっそく当てが外れてしまったな……と、どうやって未だに姿を見せない凄腕冒険者を引っぱり出すか頭を捻っていたら——
「陛下。妖精さんの挑発くらい乗っておあげなさいなぁ」
「ヴェ・ネフィカよ、余に異を申すつもりか?」
「滅相もありません。けれど陛下、私は冒険者、忠誠は皇帝陛下に捧げておりますから」
「ゆえに余の命令には従わぬと」
「フフフッ」
どこからともなくご本人自ら登場。
しかし気になる会話だ。ヴェ・ネフィカはいちおうの敬意は払っているが……。
カレックス国王の精神支配が利いていないのか? より強く皇帝に従っているから? それとも本人の意思によるところが影響を拒んでいる?
こんなふうに頭のなかをグルグル巡る疑問は、
「あなたのお望みは一騎打ち?」
不意にかけられた言葉で遮られてしまう。
倉久手メグルは凄腕冒険者のことを『お婆さん』と言っていたが、とんでもない。美魔女だ。どういう歳の取り方をしたらこうなるのか不思議なくらい妖艶な。
これからパーティーへ行く、こう言われた方がしっくりくる赤と黒のレースで編まれた透け透けドレス。ほつれ毛一本見当たらない夜会巻き。口許には真っ赤なルージュがひかれていて、まつ毛は輪郭からはみ出るんじゃないかというほど長く、
「まぁ、そんなに熱い視線を送られても困ってしまうわ」
との蠱惑的な声色とは裏腹に、こちらへ寄越した眼差しは冷たい。
二つの意味でゴクリと生唾を呑み込みそうになったが、堪えて、応えた。
「一騎打ちだと? ヴェ・ネフィカだったか、そりゃあアンタの希望だろ。可愛い妖精さんにボコられた不甲斐ない弟子たちの汚名を払拭するためにな」
「言われてみれば、そうねぇ。私ひとりで、妖精さん全員をお相手してあげてもいいのよ。いかが?」
「ヴェ・ネフィカ。勝手を申すでない」
「勝手などと。契約には、陛下の指揮下に入るとはありませんよ。妖精の駆除に同行すると、ただそれのみ」
「これだから冒険者は……」
まるで、元請けの言うことを聞かないスキルの高い外注先だな。
とにかく、こっちとしては仲間割れは大歓迎。
しかしぃ……あれだな。やはり、カレックス国王のレガリアによる支配はヴェ・ネフィカに利いていないようだ。
ほぼ結論に近い『おそらく』だが、もし異なるレガリアの所有から命令があった場合、どちらか片方のみしか影響を及ぼさない、となるのでは? でないと説明がつかない。
こういう前提で加わったことで、作戦展開に少し変更が必要になった。
問題は、精神支配の優劣がなにをもって決まるのか? この一点に尽きる。レガリアをいくつ所有しているのかという数の要素は気にしなくてもよくて、いま考えるべきは——
「羽虫よ。いまは見逃してやるゆえ、往ね」
いつでもオレらを始末できると疑わない不遜な王。コイツとエルラーレの、どちらの命令を雑兵たちが受け入れるか。これだ。
とりあえずの時間稼ぎは成功ということで、
「では、また明日」
オレはピクシー四天王と共に上空へと帰っていった。
雑兵たちにメシくらいは、いや、せめて休息くらいは与えてやってほしいなと願いつつ。




