森の妖精たち⑤
「で、こんどは?」
「ニャんでいニャんでい。つれねぇニャあ」
あざとさマックスな猫型妖精のケットシー。もれなくコイツも直立二足歩行で、あらゆるパーツが丸っこくて和猫みたいな顔つき。
「いいのか、のんびり話してて。大変なんだろ」
「おっといけねぇ。てーへんニャんでい」
だから早くそれを話せと。
「また迷子——」
ではないか。だったらフェアリーが知らせにきそうなもの。となると……。
「人数と装備は?」
「めちゃくちゃ強そうな兵隊が三人でぇ、あとはわかんニャい!」
兵隊?
情報不足にも程がある、とは言えないな。寝込みを襲われるよりは遥かにマシ。怪しい侵入者を知らせてくれただけもありがたい。
「どうせまた妖精狩りだろ」
「ニャら、またひん剥くのか?」
「ああ。さんざん追いかけさせて汗だくになったところを、ビリビリっとな」
「ガッテンでい。みんニャに知らせてくる!」
「オレらも隠れておく。上手いこと賊どもをヘロヘロにしてからここまで誘導してくれよ」
これは前も使った策。
「一方的にカタをつけるぞ」
「「「ぴー!」」」
フッフッフッ、我が同胞たちには細かく伝えるまでもないらしい。
◇
なぁんて余裕ぶっこいて待ち伏せしてたのに——
おいおい、おかしいだろ! どうして人間どもは元気いっぱいのまま花の群生地まできてるんだよ。ケットシーたちはなにしてた。なんで囲んで立ちはだかってる⁇
てっきり侵入者の目的はオレらを捕らえて売り払うことだと思っていた。
「チッ、邪魔くさい魔物め」
「——ンギャャー!」
だが違った。人間どもは妖精たちを平気で斬り捨てていく。
でもって喋り方からもお察しのとおり、ケットシーはめちゃくちゃ短気。仲間をやられたことに怒り、
「「「フシャー!」」」
爪を剥き出しに徹底抗戦の構え。
やめろ、オマエらが敵うわけないだろ。全滅させられるだけだ。
「ケットシー、待て‼︎」
「ニャんで!」
「人間と少し話をする」
「コイツら、オイラの仲間をやりやがった。おめおめ引き下がれるかってんでい」
気持ちはわかる。
でも、オレが立てた作戦は『妖精を捕らえにきている』という大前提があってだ。しかし連中はそんなものに興味なさげ。遠慮なしに反撃されたら一溜りもないぞ。
「いいから手を出すな! 頼むから」
ここまで言ってようやくケットシーたちは威嚇に留めてくれた。が、一触即発は変わらず。
侵入者は三名か……。
「口が利けるとはな。しかし無駄足だったか。どうやら魔王の目撃情報はガセのようだ。ここでの裏付けは切りあげる。手早く済ますぞ」
「だな。だいぶ引き離せたとは思うが、目立つ戦闘の痕跡を残せば辿られてしまう。各々留意するように」
「了解だ。あの異世界人のガキどもめ、面倒なことこの上ないぜ」
——魔王⁇ ——異世界人⁉︎
いますぐにでも詳しく聞きたいところけど、いったん頭の隅だ。そんなこと気にしてる場合じゃない。
見たところ、あっちは妖精たちをまるで脅威と見做してない様子。だからって隙だらけなわけではなく、こちらに動きがあれば即座に対処されるだろう。そういう危うい空気感がピリピリつたわってくる。
少しくらいオレらの愛らしい姿に油断すればいいものを。
だが、いくつかわかったこともある。
「オマエら兵隊さんか?」
「だったらなんだよ」
やっぱりだ。お揃いの兜と鎖帷子と短槍、腰には剣を差していて、見るからにって格好だもんな。
さっきの会話内容からして、ほぼ間違いなくコイツらは追われている。追っ手は『異世界人のガキども』か?
とにかく、着の身着のまま逃げてきた脱走兵などと軽く見ない方がよさそうだ。
どうしてこんな森まで入り込んだのかはわからないが、少しも安心していない様子から考えるに、いまもまだ逃走中なんだろう。
となると、かなりマズイ。オレらが話せるのを知ったうえで会話を聞かれても構わないという態度、それ則ち——
「みんな散れ! ここに人間がいるぞーって叫びながら逃げろッ‼︎」
このあとオレらを消すってことだ。目撃証言なんて残すはずがない。
「このデブピクシーが‼︎」
痛ッ。髪を掴むなよ。
どっからどう見ても眉を顰めそうな絵面なのに、他の兵隊らは同僚のオイタに呆れただけで、つづきの行動を話していく。
「では、お前はここのピクシーを全滅させておけ。妖精は殺せば消えるが気をつけろ、争った跡を残すなよ。俺らは猫型を始末する」
「いいや、速度重視でここからは別行動だ。対処を済ませた者から皇帝陛下に報告へ向かうこと。いいな!」
おそらくコイツらはなんらかの重要な情報を掴み、それを上に伝えに向かうのがの任務。でもって今も追跡されている、と。
だいたいそっちの事情はわかった。
けどな、そんなもんこっちの知ったことか。そもそもオレらには関係のないこと。
多少のチョッカイをかけたのは認める。しかし、先に妖精の森に侵入してきたのはオマエらの方だ。
「どうやら羽虫で喋れるのはお前だけみたいだな」
オレの髪を掴み、顔の前まで持ち上げるコイツの余裕っぷりに腹が立つ。
同胞たちは「ぴーぴー!」と、その手を放せとばかりにチョップやキックを繰り返すが、まるで効いてない。
「チビ羽虫はあとだ。まずは、手間を増やしてくれたお前に躾をしてやろう」
「飼われた覚えなんかないぞ、人間め!」
オレは隠し持っていた針を指にズブリ——突き刺す。コロポックルからパンツの修繕用に貰ったやつをだ。
「クッ、フッハハハハハ。毒でも塗っておくべきだったな。所詮は魔物のオツムか。帝国の精鋭であるこの俺が、手をチクリとやられたくらいで放すわけないだろ」
ああ。でないとこっちが困る。
オマエは気にもしてないんだろうがな、こっちも針を掴んだままなんだよ。銅の縫い針をだぞ。それがなにを意味するか、間抜けめ、食らうがいい。
「——やれぇえええ!」
「「「ぴーッ‼︎」」」
オレの腕に集った数多のピクシーたちが、一斉放電。束ねられた電気は針へと集約されて——
「グぁあァアァアだァアゔァア‼︎ ——ッ……」
兵士を感電させた。
泡吹いて倒れてろってんだ。
尻餅は、羽と腕をパタパタさせて回避。
ストンと降り立つと、オレは直ちにケットシーたちの救援策を練る。じっくり考えてる暇はない。
同じ手は他の兵士には……、たぶん通じないだろうな。白目を剥いて気絶しているコイツよりは油断ない雰囲気だったし。
「ぴー」
「うん。急がないと」
めちゃくちゃ焦っている。わかってる。だが、イイ手が思い浮かばないんだ。
ままならない苛立ちからか、オレは地面の踏み躙られた花から目を離せないでいた。
その、無意味にフォーカスされた視界に——コロンコロンと割り込む二つの見覚えある兜。おそらくケットシーを追っていったヤツらのモノで、べっとりと血がついている。
「安心していい。キミの友達は無事だよ」
残酷演出とは裏腹に、かけられた声音は優しげ。
そちらを向くと、両手を挙げて警戒させない距離に立つ知らない顔が三つ。だが、かつてを思い起こさせる懐かしい顔つきが並んでいた。




