ボスウェーブ②
「また監視をMPKしたのか?」
「いや、今回は……」
倉久手メグルには常に複数の帝国兵が監視につく。召喚勇者が勝てないほどではないにしても、それなりに腕の立つヤツが。
だからドサクサに紛れて一気にカタをつけないと振り切れないのだ。それは本人らも危険に晒す行為に等しい。
なのでオレは労いのつもりで言ったのだが、なぜか返ってきた口ぶりは重かった。
その理由は——
「ほんっとサイアク!」
「そうよ! 泥酔して倉久手くんに絡んだ挙句、」
「マジ『貸せ』とかあり得ないから!」
「ワタシたちをモノ扱いするのなら、気持ち悪い目を向けないでもらいたいわ!」
ああわかった。女子二人のプリプリ加減からだいたい想像ついた。もう聞かなくってもいいや。
「オマエらの色仕掛けでも利くんだな……なっはは。な、なんでもない……です。はい、すみませんでした」
ちょっと軽口で場をほぐそうとしただけなのに。その殺気でもって実行に移したのか。おっかないなぁ。
「そういうわけで、しばらくはボクらはここに来れないと思う」
「まさか街中で?」
「いや、野営してたときに。だからまた『死んでもコンテニュー』をして誤魔化さないと」
たしかに監視が行方不明ですって報告に戻るのも、おかしな話だ。自分たちも全滅するほど危機にあったから『他の詳しいことはわかりません』こう答えるのが怪しまれない方法なのはわかる。
「ここのところ頻繁だったから、ほとぼりを冷ます時間も置きたい」
でも、こないだ見せた暗く沈んだ表情を思い出してしまうと、なんともな気分にさせられる。
だとしてもオレに躊躇は許されない。
「その前に、一つ頼めるか?」
と、オレはついさっき閃いたばかりのプランを話していった。
◇
「それって『青信号、みんなで渡れば怖くない』みたいな感じじゃない」
千来寺ミナ、いまのはツッコミ待ちか。
本当になんとなくで言ったのがよくわかる口ぶりではあったが、言い得て妙だ。
「一人で行動を起こすのは怖くても、周りを巻き込んでしまえば気も大きくなるものよね」
御三尾チイ、オマエは言い方っ。
そういう責めるような口調はやめてもらいたい。
「べつにオレは暴動も反政府デモも嗾けていないぞ。ただ、救いの地を用意しただけだ」
この悪どさがわかるか? 倉久手メグル。
「ここまでキミは、スゴイ兵器を持っていると妖精の森の脅威を伝え、聖女の噂を広げて困窮した人を集めた」
「そうだな」
「ボクには、これ以上はわからないよ。御三尾さんはわかる?」
「なーんでミナには聞いてくれないのーっ」
ムダだと悟ってるからだろ。
そんな声を無視して、御三尾チイは答えた。それはそれは嬉しそうに、チラチラと千来寺ミナへ優越感たっぷりの視線を織り交ぜながら。
「まず国王は、面子のために首謀者を聖女とするでしょうね。なぜなら妖精討伐に派兵するマネなどしては、王国の沽券に関わるからよ」
よくわかってらっしゃる。
「幼気な少女を隠れ蓑にするなんて悪辣な思考は、不快以外のなにものでもないけれど」
オマエの感想はいらん。
「チイ。どうしてカレックス国王が軍を起こしたのか、その説明が抜けているが」
「結果として起きたことなので省いたのよ。それに、理由は一つではないでしょう。さきほど倉久手くんがまとめてくれたように」
と、カレシに対して阿る文脈を挟み、
「民の流出による経済的な損失。聖女という指導者の登場による政治的危機。なにより、それらを裏で糸引く邪悪な妖精の存在という軍事的脅威。これらをチカラで解決する条件としては、充分でしょう」
ホントにJKかと疑いたくなるレベルのまとめを。
「邪悪とか言ってくれるな。ただ、概ねチイのいったとおり。しかもコイルガンを見せたことで、半端な戦力を向けてくることはなくなったはずだ」
「ねーねー、メグル。どうしてぇ?」
と、千来寺ミナは小首を傾げた。ちゃーんと、あたし可愛いアピールを忘れずに。
それに解説で得意になっていた御三尾チイは、ムッとする。
「もし聖女討伐に軍を挙げて負けてしまうと立場がないから、じゃないかな」
「そうなれば生活に不満を持つヤツらがここに殺到するだろうな。村ごと、なぁんてパターンも考えられる」
そうなったらそうなったで、愉快だけど、こちらも面倒見てやれるほどの余裕はない。
「そういうわけで、必勝を期せる戦力を揃えてくると睨んでいるわけだが」
どうなんだ? と、王国軍の規模を尋ねた答えは——
「砂金取りはすべて中止していた」
「となると、あのときの川を覆い尽く労働者たちが、丸っと槍を持った兵隊になるのか」
「うん。あと、かなり有名な冒険者が依頼を受けたとも聞いた」
「なんとか級冒険者みたいなやつか?」
「そういう制度はないみたいだけど、こないだキミが追い返した冒険者たちの師匠みたいな人だよ」
連中そこそこ油の乗った歳だったと思うが、それより上って……。
「この世界では爺さんになっても元気なのか」
「お爺さんではなくて、お婆さんだけどね」
「なるほど」
言われてみれば。魔力が戦闘能力に及ぼす影響が大な前提で考えたら、男女や年齢の差なんか関係ないな。強いヤツが強い、となる。
なんとなくの規模はわかった。知らないよりマシ程度の、本当になんとなくだけど。
とにかく、こちらは到着に間に合うようオモテナシの支度を進めておく。として——
「メグル。できそうか?」
「もちろん。あと、王国が楽園を滅ぼそうとしているという新しい噂を広めたらいいんだよね」
「ああ。もう一度言っておくが、タイミングがシビアだ」
「わかってる。王都に動きがあってから行動に移すよ。その後すぐに死んでもコンテニューだから、ここへ報せにはやってこれないけど」
これはザックリまとめると、王国軍の背後を突く計画。
いったいどこの誰に頼むのかと言えば、魔王だ。正確にはお願いではなく、ターゲットに少々誇張した告げ口をしてやるんだ。
「ねぇメグル……、ホントにやるの?」
「米田堀さん。あなた、倉久手くんにとんでもないことをさせるという自覚はあるの?」
女子二人はそれぞれ向ける方向は違うが、倉久手メグルの身を案じている。それも当然か。
「ボクが捕まったら、すぐに二人は帝国に報告に行くんだよ。大丈夫。これが上手くいけば、フトシさんが美味しい物をたくさん振る舞ってくれるから。みんなで食べにこよう」
捕虜になることが前提。そして生きて帰るつもはない。
つまり、倉久手メグルは王国近郊を支配下におく魔王に捕えられ、
『王国が軍を起こしたぞ。妖精の森を平らげたその足で、オマエらを潰す計画だ』
と吠えてみせるのだ。
どこまで相手が口車に乗るかは微妙だけど、王都の兵力が空っぽになるのを確認したら、これ幸いと攻めいるだろう。
物品の収奪などが目的ではなく、件の魔王にとって屍の山は宝の山と同義、とのこと。
「言っておくが、これは元々オレの思いつきじゃないぞ。メグルがカレックス国王の周りを手薄する方法として提案したことだ」
オレならもう少し確度の高い方法をとる。というか、捕まることを前提とした策なんて選ばない。
とはいえ倉久手メグルとの相性はいいのかな。なんたって、その魔王は——
「元人間のアンデッド。わざわざ周囲に知れ渡るよう『冥王リクドーラ』と名乗っているくらいだから、話はできると思う。それに彼女は、ボクら召喚勇者に興味深々なはずだから」
死んでもコンテニューできる召喚勇者とアンデッド化した元人間の魔王による化かし合い。この目で拝めないことが残念なくらいの対戦カードだ。




