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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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ボスウェーブ①


 思っていた以上に捗ってしまった……。


「もうこっちに移り住んだ方がいいんじゃないかねぇ」

「土の質もいいし、」

「なにより村の荒屋とは大違いだよ」


 などというご婦人たちの声もチラホラ。


 エルラーレを聖女に仕立ててから、まだひと月も経っていない。

 はじめは隠し畑を提供するだけのつもりだったんだが、箱庭づくりのゲームをしている気分になってしまい、あれもこれもとやってるうちに新しい村の出来上がりとなったのだ。


 開墾は、以前のフキ畑でやったことと同様。

 家屋などの木材はフェアリーがフーフー乾かし、農作業の道具はコロポックルが提供。

 そしてなにより大事な食料は、試していたフェモリスな果皮。あれがイイ感じに渋味が抜けて、まるで干し柿みたいに。それでも足りないぶんは森の幸に頼ったが、充分に村人すべての腹を満たせた。


「もっとお家を増やさないと、みんなで住めないよ」


 エルラーレの言うとおり。まだまだ小さい規模。


 ちなみに、普段から『告解の瞳』を持ち歩かせてはいない。常にポロッと本音が漏れてしまうのを気にしていては、疲れるからな。

 ついでに効果範囲にも触れておくと、所持者の視界に収まるところまで。つまり、持たせていなければ『嘘をつけない』という権能は発動せず。

 ただ、レガリアの所有者として畏敬を集めるチカラは変わらず及ぶ。


 レガリアに物理的な盗難防止機能はあっても雑に扱うことできなくて、置き場に困った。だからいまは倉久手メグルのレガリア『闇の石板』と一緒に、穴牢に隠してある。

 で、そこの住人はといえば、もうスッカリ元住人になっていた。


「アーマイロさん、ちょっとお願いしてもいいかねぇ?」

「手伝ってあげて」

「はっ」


 といった具合で常に聖女エルラーレの側につき、必要あらば村の手伝いも。その際いちいち主の指示を仰ぐという役割の徹底ぶり。やっぱりアーはマジメだ。


「ベーはもう慣れたか?」

「慣れたって、エルラーレ様のことですか? そりゃあ可愛いし、素直で可憐で、ずっと僕が支えなきゃってなりますよ」


 そういやコイツ、いつから一人称が『僕』になったんだ? 少し前からだった気もするし、はじめからだったっけ? こっちが素なのか?

 いかんいかん。名前なんか覚えるから、こんな些細なことを気にしてしまう。大魔王の治世に情など無用。コイツらは使い捨ての駒。これを忘れてはならない。


「あれっ、僕なんかおかしなこと言いました?」

「ああ言ったな。ヤバい趣味を持っているオジサンだと自白した。どうやらオマエはロリコンらしい」

「——ちょ! なんもなくとんでもない誤解されてたのはわかりますよっ。僕はそういうつもりで言ったんじゃないですからね」

「怪しいもんだ。必死になるところが余計にな。いまやこの村にとってエルラーレは大事な存在だ、妙なマネだけはしないでくれよ」

「しませんって!」


 可能な限り、コイツらのあいだで信頼関係を築いてもらいたい。そういう一つ一つ積み重ねが、いつかオレが裏から支配するディストピアへと繋がるのだから。この村作りだってそうだ。


「ぽっちゃりピクシー様の——」

「様はいらない。ぽっちゃりピクシー、もしくは大魔王様と呼べ」

「大魔王には『様』がいるんですか」

「当たり前だ」

「よくわからないこだわりですが、大魔王様」

「なんだ」

「いつ、植えた芋は食えるんですか?」


 いま植えた種芋が芽吹き、収穫まで、何事もなければいいんだが……。


「だいたい五ヶ月くらい先だと聞いたぞ」


 となると展開次第では、ここも荒らされてしまう可能性がある。

 蒸し芋にコボルトが掘ってきた岩塩をまぶしてハフハフ頬張ったり、バニートの実とキノコから取った出汁で煮た芋鍋を囲んだり、締めのデザートに干したフェモリスの果皮を齧る……。

 おそらく、そんな光景は王国によって踏み躙られてしまうだろう。


 そういう前提で事を進めているんだから、良心の呵責など気にしてられない。

 いわば、聖女プロデュースは二通目の招待状。

 多くの流民を集め、楽園の完成を夢見たところを王国に襲わせる。そこで初めて住民たちは覚醒するんだ。


 ……。最低の筋書きだな。


 我ら妖精が、誘き寄せたカレックス国王を討つ。

 この計画に変わりはない。だが、その軍勢を追い返すのは、エルラーレに鼓舞されて蜂起した楽園の民というのが理想。

 ただ、あともう一つくらい聖女爆誕のシナリオが欲しいところだが……。


「ぽっちゃりピクシーさん!」


 元気な呼び声に、邪な思考は遮られた。


「畑に大っきな岩があったの」

「ああわかった。コボルトに取り除くよう頼んでおく」

「ありがと!」


 このように、オレとの窓口はエルラーレだけに限っている。他の妖精とも深い交流は控えるという一線を引くのも忘れていない。

 これは、少しでも聖女の特別感を演出できればと考えてのことだ。


 月日が経つと共に、流れてくる民がちらほらと。

 倉久手メグルたちは順調に噂を広めてくれているらしい。生真面目なタイプだから必ず遂行するとは思っていたが、想定以上のペースだ。話を盛っていないか心配になるほど。

 

 流民の同化も順調で、このままいけば村は大きくなり、やがては街になっていく。

 そんな未来を願っていないと言ったら、嘘になる。

 しかしだ、オレがやってることは完全なマッチポンプ。——んん。マッチポンプ、マッチポンプぅ、マッチポンプかぁ……。なんともイヤな手口を閃いてしまった。


「ん? すっごく、変な顔⁇」

「失礼な」

「あははっ。ごめんごめん。ぽっちゃりピクシーさんは可愛いよ」

「そこはカッコイイと言え」


 いま、エルラーレが『告解の瞳』を持っていなくてよかった。

 もちろん誤魔化すことはできるが、それでも自責の念から余計なことを喋っていたかもしれない。そのくらい悪辣な仕掛けを思いついてしまったんだ。

 きっとそれは、かつて倉久手メグルが触りだけ口にした——


『実は、すでに冒険者や王国の兵士を手薄にする方法も考えてある』


 これとも通ずるはず。

 申し訳ないなぁと思っていたら、もっと酷いことを考えつく。

 こういうオレの思考回路は妖精ピクシーという魔物になったゆえか、それとも元から性格が悪いからか。


 できることなら犠牲は少なくしたい。かといって中途半端をしては本末転倒なる。少なくとも、エルラーレに絶対の支持が集まるような危機的事態の演出は必須か。


「また悪いことを考えているのかい?」

「ご挨拶だな。だが、ちょうどいいときに来てくれた」


 本当に狙い澄ましたようなタイミングで、倉久手メグルたちの登場。


「王国が軍を編成しているよ」


 実はコイツがラスボスなんじゃないかと疑いたくなるほど、ドンピシャで、タイムリーな話題を携えて。


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