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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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レガリア『告解の瞳』③


 さてさて。やってきたのはご存知、森の外へ出てすぐの村。

 今回は『聖女プロデュース』の要となる可憐な少女を勧誘する、スカウトマンとしてのオレの暗躍をお届けしよう。


 ちなみに、倉久手メグルたちは妖精の森に置いてきた。

 一度は共にいるところを見られてしまったけど、どこに誰の目があるかわからないので、なるべくなら控えた方がいい。

 そういう建前もあり、森でゆっくりしてもらっている。大したモテナシはできないが、だとしても少しは骨休めになるだろう。

 アイツらと、その程度の信頼はできたとも言い換えられるか。


 というわけでオレのお供はピクシー四天王。

 念のため、葉っぱ一枚の通常スタイルではなく、竹馬とフード付きローブを使った変装もしてきた。

 ノコノコと出向いた先で、冒険者や国の兵士とバッタリ鉢合わせなんてことがあったら困るからな。

 

「アイツどこだろ……」


 そういや、どの家か聞いてなかったな。

 でも畑の場所は覚えているので、そちらへ行くと、いた。母ちゃんといっしょに野菜の世話をしていた。


「よう、エルラーレ」

「——っ⁉︎」

「ど、どなたです!」


 えっ、なにその驚きっぷり。

 母ちゃんが娘を背中で庇うまでして。 


「ォ、オレだよ、オレ」


 うわ。なんでかこの一言でなんか余計に怪しさが増した気がする。

 こういう態度をとられる心当たりは、いっぱいあるな。どれもオレらのせいじゃないけど。


「ぴー」


 結局、すみれが袖からひょっこり顔を覗かせて、誤解はすぐに解けたのだが。


「なんだぁ、ぽっちゃりピクシーさんかー」

「すまん。驚かせた」


 しまったな。変装が裏目に出たか。

 たったいま緊張させたばかりなのに提案をしては、唐突感を覚えられてしまう。言わずもがな、そうなっては交渉に不利に働く。

 まずは世間話から……——って、オイつつじ。すみれも。


「オマエら人様の花から勝手に蜜を吸うなよな」

「「ぴっひ〜」」

「おいしいのに〜? じゃないよ。せめて一声かけてかけてからにしろ」


 ったく。そのうち害獣扱いされるぞ。野菜か蜜かの違いだけで、やってることはゴブリンの畑泥棒と大差ないじゃないか。


「あっはは。ぜんぜんいいよ。ねっ。お母ちゃん」

「ぇ、ええ」


 ん? いま微妙に、ご遠慮願いたいというニュアンスが混じった? あまり話した記憶はないけど、もっと感情を面に出さないタイプだったような……。


「妖精さんたちは花の様子を見にきたの?」


 待って待って。このタイミングでは切り出しづらい。


「一度……、村長と話しておきたくてな」


 こうオレが本題を避けたら、エルラーレは「ふぅん」と母親の方を向いた。

 ん? どゆこと⁇


「どのようなご用件でしょうか」


 取り次ぐという口調でもないような……あっ、ということは——


「エルラーレの母ちゃんが、村長?」

「んーん。お父ちゃんが村長だよ」


 つまり村長夫人。で現在、村の男はすべて労役にいってるから、村長の代行をしているってわけか。

 話が繋がったぞ。こないだ冒険者に殴られたのも、このご婦人が村の長として対応したからだ。


「はじめまして、村長夫人。いや、代行殿とお呼びした方が?」

「こんな貧しい村ですので、そのようなお気遣いは過分ですよ」


 服装から想像されるものとは不釣り合いなくらい、教養がありそうな言葉使い。だが正直、圧倒されるほどではないのに……。

 なんだろうか? 村に来てからのオレの歯切れの悪さは……。

 ハハッ。こんなの心当たりを探るまでもないな。オレは、エルラーレを欺こうとしている。これが罪の意識を生んでいるんだ。そして、その母親に怪しまれたことにより、より罪悪感を覚えたと。

 自覚してしまえば、どうということはない。


「気遣いは無用、か。果たしてそうだろうか?」


 魔王らしく振る舞えばイイだけのこと。せっかく悪い魔道士風の変装をしているのだ、そのままの悪キャラで喋ってしまえ。


「オレの話を聞いたら、オレが誰に対して気を遣ったのか自ずと答えは出ると思うぞ」

「——娘に! エルラーレになにをさせるつもりです‼︎」


 おお、母親の勘というのは侮れないものだな。多少のヒントは与えたつもりだが、途中の経緯をスッ飛ばして答えを導いてしまったぞ。


「世間に善意を振り撒いてもらいたい」

「な、なにを言って……」

「……んん⁇ さっきからお母ちゃんも、ぽっちゃり妖精さんも、どうしたの?」


 エルラーレは朗らかに取り繕う。正体不明の不安は、自分の奥へとしまい込んで。

 こういう娘だからこそ、オレの計画に、聖女役に相応しい。


「村の男たちを取り戻したくはないか?」

「——ッ。ですから、なにを……」

「ここにもかつてはあったのだろう? 賑わう村の光景が、オマエの隣には愛する夫が、幼いエルラーレを慈しむ父親の姿が」


 淡々と告げたこれは、ぜんぶオレの想像。

 であっても、ずっと寝かしつけたままでおいたご婦人の幸せな記憶たち、それらを呼び覚ます鐘の音にはなったはず。


「お母ちゃん……、泣いてるの?」

「エルラーレっっ」


 彼女は膝をつき、娘を抱き竦めた。

 そして、いまさらながらオレは理解した。ここまでの会話に『告解の瞳』が影響を及ぼしていたのだと。嘘のない涙を見て、ようやく悟った。


 嗚咽を漏らす村長夫人と、急かさず宥めるエルラーレ。

 母娘を黙って眺めていたら、娘の方からメッと睨まれてしまった。性悪なピクシーでごめんね。


 しかし、我ながら最低のスカウトマンぶりに呆れてしまう。

 アコギで、ペテンで、詐欺で、悪辣で……だが、それでいいと割り切って。なぜならオレは大魔王だからな、と。妖精の森を守るためならなんだってやってやる、と。


 他の畑からこちらの様子を窺う視線に、居心地の悪さを覚えつつ、オレはエルラーレとその母親が落ち着くのを待った。


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