レガリア『告解の瞳』②
レガリア『告解の瞳』の実験を終えて、最初にオレが呟いたのは、
「題して『聖女プロデュース』」
これだ。
耳にした途端、さっきまでオレを「サイテーサイテー」と連呼していた女子二人は、ピクリと反応。
べつに癇に障ったのではなく、まるで自分を呼ばれたときみたいなピクリだ。なんて図太い神経、というか図々しい。
「レガリアの精神支配ではない方の、個別の権能ならば種族関係なく効果を及ぼすものね。そこでワタシを、と。ふふっ。ええ、ええ、米田堀さんはよくわかっているわ」
違うが。
「はじめっからミナ思ってたもん。実は米田堀ピクシー、見る目あるって」
だから違うっつうの。あと混ぜるな。オレは、米田堀フトシという前世の名を持つぽっちゃりピクシーだ。
「……あのなぁオマエら、よく聞け。オレは聖女って言ったんだぞ」
字面から考えても清くない身はお呼びじゃないぞ。というかだ、オマエらは勇者活動してないと帝国に目をつけられちゃうだろうが。
「ええ。聖女と言ったのでしょう」
「ならミナしか適任いないじゃん」
「——は?」
「ぁあん?」
ほら倉久手メグル、オマエの出番だ。
「まぁまぁ二人とも。ボクらが表立って国を統治なんてできないよ」
「それってつまり『御三尾さんはボクだけの聖女』と倉久手くんは言いたいのね?」
「——ないないない、なにそれないわっ! てか、うぅ〜わ、またビッチーが盛りはじめたよ。ありえなくなーい。どぉぉお考えてもメグルの聖女ポジはミナっしょ!」
さっきの実験で怒らせたせいか、導火線が短い。あとなかなか鎮火しない。
召喚勇者JK二人の怒気に触れて、兵士AとBなんか竦みあがってるぞ。
「あ! そうそう、ボクが疑問に思ったことを聞いていいかな? ね、いいよね?」
「お、おう」
こっちに飛び火させないでくれ。女子二人から『さっさと答えろや』みたいな目を向けられるの、怖いって。
ちなみに、ついさっきまでうむうむ腕をくんでは頷き、わかってるのかわかってないのかどうせわかってないんだろうなって聞き手役を楽しんでいたピクシーたちだが、不穏な気配を感じた途端オレを置き去りに。忙しぶってどこへやらだ。
「レガリアの共通する権能に、精神支配がある。これを統治に利用しようとは考えなかったの?」
……おい待て。兵士AとBが聞いてるぞ。
ん? 構わないのか。オレと倉久手メグルの繋がりを目にした時点で、コイツらを自由にはできないんだ。
それにレガリアの存在を公にしたくないのは、帝国の都合。なんなら言いふらしてやるのも、打てる手の一つになるかも。
「ボクの話、聞いてる?」
そんなに急かさなくても聞こえてるし、答えるって。
いちおうオマエは女子二人のカレシなんだろ。だったらキャットファイトくらいスパッと宥めてみろよ。
まぁ、二股状態だからこそ強く出られないという立場の弱さもあるのかもしれないけど……、チッ、羨ましけしからん。もっと困ってしまえ。
「もし兵士Aを傀儡王にしたとする」
「——え、私のことですか? 私にはアーマイロという名がありまして」
「……アーマイロを、王にしたとする」
「どうしてそんなイヤそうに人の名を呼ぶんですかぁ」
そんなもん決まってるだろ。
「情が湧くから、でしょう? 甘いのね」
わざわざ言うなよな。御三尾チイめ、さっきの意趣返しのつもりか。
「やかましい。オマエもだぞ、アーマイロ。いちいち話のコシを折らないでくれ」
釘を刺したうえ、念押しに「でっ」と接続詞未満で区切り、オレはつづけた。なぜ、レガリアによる精神支配の統治ではダメなのかを。
「一人が掌握できる人数には限りがあるんだ。蜜な関係なら十人未満、管理者を置く間接的な関係なら多くて五〇、ギリギリ顔と名前が一致するかしないかレベルの掌握は一五〇限界。よく知らんけど、一〇〇を超えたら統治者の才能がある方なんじゃないか」
「それだけが理由?」
「他にもあるぞ。階層支配の構造を嫌っただけじゃなく、強い意志で命令、これがレガリアによる精神支配のトリガーだというのなら、そんなことをできるヤツはオレの手に余る」
つまり、傀儡には野心も支配欲もあってはならない。
「こういうワケで、はじめはポンコツかと思ったレガリアだったけど、この『告解の瞳』は抜け落ちたピースをしっかり埋めてくれるアイテムになり得るんだ」
「ということは、当初は傀儡王を、彼を介してコントロールするつもりだったのかい?」
倉久手メグルは兵士Aに目を向ける。
たぶん兵士AもBも、ここまでオレらがなにを話しているのかチンプンカンプンだろう。もしこれでコイツらが文脈とキーワードから答えに辿り着くようなら、機密保持以外の理由で余計に手放せなくなるな。
リアクションを見る限り、その心配はしなくても良さそうだが。
「……ああ。でも、よりオレらにとって都合のいい統治ができそうだ。改めて、レガリア『告解の瞳』を持ってきてくれた礼を言わせてもらう」
「なにそれぇ。ふつうに、ありがとうって言えばいいのに」
ちょっと気取りたい気分だったんだよ。千来寺ミナ、いちいちツッコミ入れてくれるな。
ただ少々ややこしい話をしたおかげで、聖女ポジションを巡る第三次キャットファイトは回避できたらしい。
「それで、米田堀さんの言う聖女役は誰に任せるの? たしかフェアリーだったかしら、少女の妖精?」
「いいや。人間の支配は人間がやるべきだろ」
「もう。米田堀ピクシーさーあ、そういうふうに勿体ぶるのよくないって」
せっつく女子二人の声を聞き流し、オレは『オマエならわかるか?』と倉久手メグルに目をやる。
「……あっ、村の女の子」
正解だ。だが、かかったな。
「おお、そうかそうか! やはり倉久手メグルもっ、エルラーレこそ聖女役に相応しいと思うか」
「——ッ⁉︎ ……こ、答えたくない」
ククッ。それは肯定したのと同義だぞ。
「ねぇメグルぅ。ミナちょっと聞きたいことあるんだけどー」
「どういうことか説明してもらえるのよね? ワタシ、信じてもいいのよね?」
「ちょ、待っ、フトシさん! ボクを嵌めたなぁああー‼︎」
ようやく倉久手メグルを陥れられたので、これにて実験終了。いつかの意趣返しも完了。
それにしてもこのレガリア、使うにしてもそれなりの舞台装置が必要になるな。今回のイタズラでよくわかった。




