レガリア『告解の瞳』①
これがレガリア『告解の瞳』か。
……瞳というだけあり、半濁した水晶チックな玉の内部に角膜や瞳孔、虹彩まで模されている。
だが問題は形状などではなくて、
「使い方は?」
こっち。あと具体的な効果も。オレは嘘発見機みたいなレガリアとしか聞いていない。
「所有してみたらわかるよ」
オーナーになると同時に取説が頭にインストールされるとは……。至れり尽せりだな。
実際の運用をオレがするつもりはない。しかし一度は使ってみないと、その指示も出しづらいというもの。
というわけで——
「〝こいつはオレのモノだ〟」
とレガリア『告解の瞳』を所持して所有。
多少身構えていたのに、以前ほどの気持ち悪さはなかった。
「ああ〜……。なるほどな、たしかにこれは告解だ」
「ねっ」
ねっ、じゃないよ。話が違う。これ、嘘発見機とは似て非なるモノだろ。
まったく使い物にならないわけではないが、誘導尋問でもしないと役に立ちそうにない。
倉久手メグルめ、こっちの様子をニコニコ眺めやがってぇ……。お手並み拝見とでも言いたげだな、このヤロウ。
さて、ようやく手元にやってきた『告解の瞳』なのだが、端的にどういうアイテムかというと、対象は所有者からの問いに素直に答える。以上だ。
ここはわかりやすく、実際になにがダメなのか使用例をご覧に入れよう。
「メグル、隠し事はあるか?」
まずは手っ取り早い質問をしてみるだろ。そしたら、
「あるよ」
と答えられる。つづけて「それを具体的に」と聞いてみれば、
「言いたくない」
……素直な回答。
要するに嘘はつけない。けど、回答拒否や曖昧な返事はできてしまうんだ。
「あまりガッカリした顔をしてほしくないな。これでもボクら、命懸けでそれを手に入れたんだよ」
「ほぉう。タイプの違う美少女JKを二人も連れてのお泊まり旅でか? しかも肉食系ときた。メグル、オマエ乾く暇なかったろ? ぇえ?」
「それをキミに話したらボクは怒られてしまう」
チッ、引っかからないか。ニッコリ笑顔で答えやがって。
「これ、身構えられたらどうにもならないな」
「告解の瞳を所持しているとバレなければ、どうにかなると思うけど」
まぁ、服のなかに忍ばせておくとか、やりようはあるか。いや、ムリっぽいな。回答を避けよう誤魔化そうと気を張られた時点で……んん⁉︎
——そもそも警戒させなければいいのでは?
「なにか思いついたのかい」
「ククッ、まぁな。予定していた傀儡王の候補とは変わってしまうが、適任はいる」
それをコイツに話す前にもう少し遊んで……もとい、試してみたい。
さっそくとばかりにオレは、告解の瞳を——手にしたままだと怪しまれそうなので——なんとなくサイズが合いそうだったドーナツ盤状の『鑑定の皿』の穴へスッポリはめ込む。そしたら、メープルシロップコーヒー擬きに表情が蕩けきった女子二人のところへ。
「なぁなぁチイ、ミナ」
「「…………なに」」
声をかけるなり、怪しんだ目を向けられた。
「そんな怖い顔しないでくれ。オマエらに完成したばかりの『お吸い物』を試してもらおうと思っただけだ。それともあれか、お吸い物なんてJKの口には合わないか?」
「「飲みたい!」」
まずは必ずイエスと答える問いから。
「キノコで出汁をとったの? ねっねっ、出汁はちゃんと取ったものよね?」
「お、おう」
御三尾チイの食いつきがスゴイな。
では、もう一つオマケに肯定をもらおうか。
「キノコからも出汁をとったけど、メインは鰹節。と言っても鰹節に似た木の実があって——」
「ミナ、お魚大好き! エビのハンバーガーよく頼んでたもん!」
海老は魚じゃないだろ。魚介全般って言いたかったのか?
まぁいい。乗り気なお前らには、たっぷりのイノシン酸とグアニル酸のハーモニーをくれてやろう。
倉久手メグルはオレがなにかしらのイタズラを仕掛けていると察しているようだが、余計な口を挟めばせっかくの旨味が遠ざかってしまうと黙ったまま。ククッ、好ましいまでの薄情者ぶり。
オレはパチン、とは鳴らなかったがフィンガースナップでピクシー四天王たちにオーダーを通す。
すると、待つことしばしで、あっつ熱なお吸い物入りの鍋とお椀が運ばれてきた。よそって手渡してやると、
「さぁどうぞ」
ゴクリ。三人揃ってフーフーフー……。
ののちズズッ——
「「「んまっ!」」」
ゴックンと同時に目を見開き、声をあげ、すぐに表情筋は働かなくなる。
あとはフーフー冷ますのも焦ったいと、舌の火傷も気にせずにお吸い物を啜るのだ。
魔王を倒してすぐに直行したコイツらの身体は、かなりの疲労に蝕まれている。
そこへ優しい旨味が、慣れ親しんだ美味さが、さらには魂に刻まれた懐かしい味わいが押し寄せれば、こうもなるというもの。かくいうオレだって、かつてを思い出して涙しそうになったくらいだ。
そして、すぐに空となったお椀の底を見つめるハメに陥るのもわかりきっていたこと。
「まだあるぞ」
ここでもう一杯いかが? と聞かないのがミソ。お吸い物だけど、ミソ。
倉久手メグルは完全にオレの悪巧みに気づいたようだが、どうする? 知らぬ存ぜぬで乗るか? 積極的な共犯者になるなら、爽やかな香りと刺激をプラスする山の芽もサービスしちゃうぞ。ほれほれほれぇ。
「……も、もう一杯、おかわりをもらえないかな?」
堕ちた。クックックッ、勇者を堕としてやったぞ。
「ミナも!」
「わ、ワタシも……」
そうだそうだ。そちらからオレにお願いをするんだ。もちろん喜んで、鍋が空になるまでおかわり自由さ。
玉杓子はすでにアイツらの手にあり、おかわりをよそっては腹へ収めていく……。ククッ。山の芽で味変するのもよかろう。
第一段階である『イエス・セット』からの『フット・イン・ザ・ドア』へ。そこから第二段階の『返報性の原理』までコンボは繋がった。
イタズラ——ではなく実験は、最終段階に。
オレは兵士AとBを呼ぶ。正しくは、ピクシー四天王によって穴牢から運ばれてきたんだが。
締めくくりには『理由の提示効果』ってやつを使うぞ。
「苦労して手に入れてもらったレガリア『告解の瞳』を使うに当たって、聞きたいんだけど、」
と動機を明示。でも実際のところ、要求の理由なんてなんでもいい。
「どっちが適任か知りたいから、チイとミナの意見を聞かせてくれよ。女子ウケが良い方にしたいんだ。どっちが好みかでもいいぞ」
二人ともやや渋い顔。先に、面と向かって、という良心が痛む状況を提示したんだ。当然の反応だな。
「ああそうか。こっそりオレだけに耳打ちしてくれたらいいから。あくまで参考に」
と心理ハードルを下げてやれば、簡単に答えるわけだ。
どうでもいいが兵士Aは……、そうかモテないのか。コイツとは仲良くできそうだ。
さてさて、これはサビの前のリフ、前段階。やっておくと次のハードルが下がるというもの。
というより、オレは御三尾チイと千来寺ミナをおちょくるつもりだが、真のターゲットはコイツらじゃない。
「というわけで、オマエらも言われっぱなしはあれだろ。だから、オレにこの二人のどっちが好みかを教えてくれよ。それでおあいこだろ」
「「——ッ」」
女子二人はピクリと反応。
だろうだろう、どうでもいい相手でも選ばれなかったら悔しいもんな。それが、たとえ好みじゃないと答えた方だったとしても。
だが残念、先に選んでしまったのはオマエらだ。いまさら意義を申し立てるなんてマネできないよな。
グギギと睨む二人に、
「ふーん」
オレは耳打ちされた回答に対する感想を、あっさりな感嘆符で表したのだ。
あぁ楽しかった〜。でも正直、あとは怖い。
だがきっと、女子二人については倉久手メグルがなんとかフォローしてくれるだろう。というか先にオレを試したのはコイツで、少なくとも実験を黙認したんだから、それくらいやってくれ。
レガリア『告解の瞳』についての結論——
感情、嗜好、本心、どれも嘘なく引き出せる。
となると、こいつを使って傀儡の王とするのは、簡単に騙せそうな、人として侮られるヤツが適任だろう。
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あとがき
以下に、レガリア『告解の瞳』の効果についての簡単なまとめを。
・所有者からの問いに対し、対象は嘘をつけない。
・回答拒否・曖昧な返答は可能。
・強制的に白状させる能力ではない。
・尋問と同じく、警戒されると実質的に機能しなくなる。
・感情や嗜好や本心を、嘘なく引き出せる。




