第二ウェーブ⑦
穴牢の次にオレが向かったのは、コロポックルの集落だ。
陶器製四二ミリメートル電磁加速砲——通称コイルガンの、とくに砲身状態を確かめるのが主な目的。
「レペゼン・コロポックル、どうだ?」
「こりゃダメだねぇ」
「やっぱりそうなるよなぁ……」
昨晩は、予定していた以上に威嚇射撃を連発した。
その発射回数は、あらかじめ試験していた耐久回数をやや上回る。結果、砲身がひび割れたのだ。いや、今回は事故などなくこの程度で済んでよかった。
さて、ここでどのように強度を試したのかを語る前に、コイルガンの製造ラインから触れておこう。
まずは砲身——
「型にする木材の乾燥は、増産に間に合いそうか?」
「ああ。フェアリーたちがガンバってくれてるのと、あんたの閃きが利いたさぁ」
作り方は単純、かつ規格化できるように知恵を絞った。
最初に直径およそ五センチの木製型を作るわけだが、いちいち生木から乾くまでを待っていては時間がかかりすぎてしまうので、真ん中に穴を通し、そこへフェアリーが風を送り込み乾燥させるという時短をしたのだ。
水分が抜けた木製型の外径を規格どおりに揃え、こんどはグルグルと粘土を巻きつける。さらに整形して継ぎ目を消し、日陰で干す。
数日後、指で弾いてキーンと小気味いい音が鳴るまでになったら、木灰と粘土を混ぜて水で薄めた混合液を塗りつけ——焼く。はじめは低音から、じわじわ高温へ。
このような工程を経て焼きあがった陶器製砲身のうち、ひび割れがない完成品は半分よりずっと少なかったそうだ。
問題は窯か、燃料か、温度調整か、それとも素材か……。
だが使用に適うものは作れる。それに失敗作だって、
「ひび割れたのも残しておいてくれ」
「ああ。あっちに積んでおいたから、好きに持ってってねぇ。っていうか、あんなにたくさん。銅線が足りないんでないかい?」
見てくれだけで充分。別の用途がある。
そして肝心要の巻きつける銅線。作り方は銅貨を熱して潰し、鉄の穴を引っ張り抜くだけ。だんだんと穴を小さくしていけば、出来上がりだ。
オレの記憶にあるモノより遥かに太いけど、これで充分。というかコロポックルたちは、うろ覚えの思いつきを聞いた程度で、すごくよくやってくれていると思う。
フキ畑用地を先払いした甲斐もあったというものだ。
「弾の方は、どうだ?」
「溶かして型に流すだけだから、簡単さぁ」
四二ミリメートルなぁんて言っているが『だいたいこれくらいで』で決めたサイズ。しかも球体。
本来なら、もっと硬度を高めたり形状を工夫して威力を向上させたいところだが、早い段階で諦めた。
コイルガンは鉄砲のように火薬ではなく、ピクシーの発電能力を活かせる磁力。オレの微妙な知識で磁気による弾の引っぱり等を考えると、丸くするのがベストだと判断したという経緯だ。
「しっかし潰れた弾を見たけども、ありゃスンゴイねぇ。鉄の玉ころがベシャって……」
「ん。ああなるほどぉ。そういう見方もあるのか」
これは良いことを聞いた。
つい弾丸ばかりに目がいきがち。しかし、それを飛ばすコイルガンへ視点を変えれば、まったく違った考え方もできるわけだ。
たとえば、鋭い穂先の槍を鉄球が潰れるほどの速度で放つ、とかな。
もちろんオレは仕組みを知っているから、そんなのムリだとわかる。発射できないとは言わないまでも、真球ほどの加速は得られない、はず。
だがしかし、制作者であるレペゼン・コロポックルでさえこういう思い違いをするのなら、的にされただけの冒険者らはより恐ろしい想像をするかもしれない。
とすると、ククッ、そこに付け入るブラフを用意しておくのもありだな。
「まぁた。ぽっちゃりピクシーは悪い顔してぇ」
「すまんすまん」
そんなに顔に出ていたか。でもリアクションを想像したら、めちゃくちゃ面白そうなんだもん。
顔をムニムニしてムニっと膨れた頬を緩め、それから一つ咳払いを挟みオレは話をつづけた。
「今回使ってみて気になったんだけど、やっぱり射手のピクシーたちが丸見えなのは良くないな。端材で構わないから、台車に身を隠せる盾をつけてくれないか?」
「お安いご用さ」
その他、フェアリーズが使うことになるだろう新兵器やコボルト専用の装備品など諸々の進捗を確認したのち、オレはコロポックルの集落をあとにした。
◇
花の群生地につくと、
「やあ」
倉久手メグルが待っていた。現実ではあまり耳にしない類の挨拶でもってオレをお出迎え。いつもどおり御三尾チイと千来寺ミナを連れて。
「……ずいぶんとボロボロだな」
「急いだんだよ。キミがメチャクチャしてるって耳にしたから」
「ほぉう」
と、聞かせてもらった妖精の森の噂話は、かなりの脚色に塗れていた。
「アイツらフカシすぎだろ」
オレのこぼした愚痴に、倉久手メグルは「そう的外れでもないよ」と興味深い話を返してきた。
「ボクらが召喚されるよりずっと前のことだけど、帝国に対する勇者たちの叛乱があったんだ。そのとき——」
「火薬か」
「正解。原理はともかく鉄砲の製造は難しかったみたい。だから大砲と樽爆弾を使って、帝国に無差別攻撃を仕掛けたと……。ボクはそう聞かされた」
不自然な間と伝聞口調が、叛乱者を悪役に仕立てるノイズ混じりな情報だと暗に伝えてきた。少なくとも倉久手メグルは、その手のプロパガンダはあったと考えているのだろう。
きっと叛乱以降、召喚勇者に対する教育も酷いものになったに違いない。そういう複雑な心境も表情から読み取れた。
「デタラメ並べたてた挙句が『妖精の森に現れた新たな魔王の手に、魔力もなく破壊をもたらす殺戮兵器が渡った』と」
「キミに痛い目に遭わされた冒険者たちは、そう言っていたね。一刻も早く討伐しないと大変なことになるって。叛乱ときの生き残りが協力しているぞ、とも言っていたよ」
まさに嘘から出たまこと。実際に、召喚勇者と裏で手を握っているんだからな。
要するにオレらは、王国の敵から宗主国である帝国の敵にまで格上げされ、おまけに背後には現在も記録に残る叛逆者の存在まで捏ちあげられてしまったのだ。ハハッ、大出世じゃないか。
「火薬はぜんぜん普及してないんだよな?」
「うん。帝国に叛旗を翻したときの使われたから、誰も持ちたがらないんだよ」
「まるで禁忌の品だな。というか、そもそも必要に迫られていないか」
「うん。この世界には魔法もあるし、重機並みに働ける人間もいるからね」
たしかに、弾込めやら湿気に弱いなどのデメリットを考えたら、製造が困難で数を揃えるために多大な資金のかかる鉄砲を欲しがる権力者はいないか。
普通に考えて、メシ食って寝れば何度も使える魔法の方が便利だもんな。
その威力はこないだ思い知ったばかり。草っ原を一瞬で焦がすほど高温な火の玉がビューンと宙を飛んでくるって、いったいどういう原理だよ。しかも着弾点への誘導までできていた……。
冷静になって考えてみると、あれはかなりヤバかったと思うが、それはさておき。
「でもさ『レガリア持ちの声の届かないところから狙撃できるよ』って教えてやったら、鉄砲を持ちたがる為政者はいるんじゃないか」
「ねぇ、キミは戦争をさせたいの?」
「必要があればな」
コイツはこの世界そのものを憎んでいるスタンスを見せる割に、害意を皇帝にしか向けない。監視の帝国兵とカレックス国王という例外はあるが。
とにかく、オレの噂や火薬についてはいったんここまで。
「で、また今回も見張りを撒いてきたのか?」
「かなり苦労したけどね」
倉久手メグルはチラリと後ろへ目だけを向け、連れの様子を見た。
視線の先にいる千来寺ミナと御三尾チイは、面識をもったピクシー四天王たちに接待されている。
コロポックルの集落までメープルシロップとお茶を取りに行くほどの、おもてなしぶりで。
「慎重に魔王の配下を排除してからなら、あんなに大変な思いをしなくて済んだんだけど……」
「それをしてしまうと監視の目を除けないもんな」
「おかげで二人を無謀な特攻に付き合わせちゃったよ」
だからこそ、
「「あっまぁ〜〜〜い!」」
シロップを入れただけのコーヒー擬きに歓喜する連れの二人を気にしたんだろう。もしくは自分の甲斐性を恥じたのか。まぁここは気づかないフリが一番の思いやりだな。
ややあって向き直った倉久手メグルは、多大な労力を払うことで得た最重要アイテムを——
「これが『告解の瞳』だよ」
オレに手渡した。例の嘘発見機レガリアだ。




