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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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第二ウェーブ⑥


「よしよし。全員逃げ終えたな」


 冒険者たちの去った獣道に残るのは、深々と鉄球の穿たれた木々。それが至るところに。あとは行動不能と置き去りにされた盾役冒険者が一名。


「ソイツは連れていくぞ。大事な情報源だ」

「ぴぴ〜?」

「え、まだ生きてのるかって」


 ……大丈夫ぅ、だよな? わざわざ盾に当ててやったんだぞ。


「ぴー」

「おお、やっぱり息はあるか」


 ということで、コイツの他すべては逃亡済み。おおよそ計画どおりだ。


「では、すみれとあやめ。コイツを穴牢へ頼む」

「「ぴっ」」


 ちなみに、このタンクから得たい情報は『陶器製四二ミリメートル電磁加速砲——通称コイルガン——が、どれほどのダメージを与えたのか』という実際に敵に対して使用した威力を調べるため。

 だから本当は盾役ぜんぶ捕虜にしたかったのだが、まさか他の連中が徴税官を見捨てていくとは……。大誤算だった。

 おかげで直撃しなかったタンクどもが復帰するまでズンドコと延々脅しつづけるハメになり、その結果が、ここらの木々の有様というわけだ。


「あとでコロポックルたちに診てもらおう」


 枯れでもして意図しない場所が拓けてしまうのは困るからな。あと可能なら弾の回収も。


「ぴひ〜」

「ぴ!」

「はあ? つつじもれんげもなにを言ってる。いっぱいメープルシロップが湧くからイイだと。言っておくがこれはたぶん違う木だぞ」

「「ぴぃぃぃ」」

「ほらほら。ブー垂れてないで、オマエらは冒険者の落とし物を回収しておいてくれ。金属はいくらあっても足りないくらいなんだ。あと、コイルガンもコロポックルの集落に運んでおかなきゃだぞ」

「「ぴぇええ〜」」


 いまできる後処理を済ませたら、今夜のところはおやすみなさいだ。ハァ、疲れたぁ。

 こんな愚痴も、妖精たちに犠牲がでなかったからこそ溢せるんだよな。みんな『よくがんばりました』だ。



 翌朝——

 オレは真っ先に穴牢に向かった。気を失ったままのタンクの容態を気にしてではなく、即席プランがどれほど上手くいくものか、その不安を吐き出したかったんだ。

 聞き手に指名したのは兵士A。というか、この穴牢にいて話せるのはコイツと兵士Bのみ。ならばやはり兵士Aを選ぶのが妥当だろう。


「……疑問なのですが、なぜ、あなた方の武器を見せたのですか?」


 ザックリと昨夜の流れを伝えたら、真っ先にこれを聞かれた。


「見せびらかしたのはマズかったと?」

「ええ。対処方法を模索されてしまいますから」


 たしかに相手にとって未知の攻撃手段は隠しておくべきだ。攻め手には有利に働くからな。しかし、それは侵略側の考え方だと言わざるを得ない。


「つまりはクソ雑魚ナメクジと舐め腐っていた妖精が、備えなしには攻められない凶悪な魔物へと昇格したわけだ」

「……森に篭り防衛する立場からすると悪いことばかりではないと?」

「ああ。こちらの力量を、せめてコイルガンについては過大評価してもらいたいくらいだ」

「対応し切れない戦力を向けられることになりかねませんよ」


 そこだよそこ。過大な戦力イコール余計な出費。行方不明だった徴税官が戻った今、多大な戦費を払ってまで妖精の森を攻める理由がない。少なくとも、


「見合うほど得るものはない」


 利で考えたらこうなるはず。


「それは、そうかもしれませんが……」


 抑止と挑発。コイツには、オレのやってることが矛盾と聞こえているのかもしれない。


 やられて一番イヤなのは、半端な戦力を小出しにされること。ハラスメント的なちょっかいが行き着く先は、泥沼の消耗戦と相場で決まってる。だから是非とも、こちらの戦力を誤解させたかったんだ。

 もっと言えば、来るならドドンと二度も三度もできない規模で来てほしい。理想は王自らが軍を率いて。


「まぁいい。オレがオマエに聞きたいのは、王様というのはどのくらいプライドが高いのかってあたりだ。で、どうなんだ?」


 妖精にコケにされたとブチ切れられてしまう。この可能性は充分にある。それとも、利己ばかりで家臣が痛い目に遭おうとも気にしないタイプなのか。


「直接お会いしたことはないので」

「もちろん想像で構わないぞ」


 外回りする徴税官のお供をしていたコイツだ。端から高位の者と関わってるなんて期待はしていない。


「金銭欲のとても強い方だと耳にしたことがあります。ですから、今回の撃退劇を聞き及んだ際、未知の武器の方に興味を持たれるのではないかと」

「ほぉう」


 そいつは願ってもない展開。といっても売ってやるつもりなんてないぞ。

 死の商人なんてゴメンだ。動かす額は大きいのに貯まっていくのは恨みばかりで、まったくもって割に合わない。

 そもそもの大前提として、あれはレガリアを所有したピクシーだからこそ扱える兵器。だから人間にとっては、陶器製の筒に銅線を巻いただけのオブジェクト止まり。


「人の心の機微を読み、交渉が可能であり、冒険者パーティーを四組も追い払える武力さえ備えている。あなたが伝えたことを並べてみても、私には意図などわかりませんよ」

「そうか? たとえばだな……」


 と、オレは冒険者を落とし穴に封じ込めたあとに思いついた筋書きを話していく。


 まず冒険者たち、おそらくアイツらは保身に走るだろう。

 以前、森の妖精にひん剥かれた連中が立場を失ったと聞いた。こういう経緯があるならば、冒険者ギルドへの報告も実態以上に誇張するはず。

 しかしどこまで脅威と広めようとも所詮、相手は妖精。ヤツらを嘲笑する声が止むとは思えない。するとどうなるか?

 我らへの逆恨みを募らせ、復讐のために危険度を喧宣——


「と言った具合になると予想している。どこまで狙いどおりになるかは知らんけど」

「……はぁ」


 なんだよ、その生返事と目つき。


「いえ、よく人間のことをご存知だと思いまして。私はとんでもない方に囚われてしまったのですね」


 オレみたいな可愛い妖精を前に、なんてこと言うんだ。


「つづけるぞ」


 と、お次は徴税官の行動予測を。

 これは正直わからない。いや、敵愾心たっぷりの報告をあげるところまでは、こちらの思惑に沿った動きをするだろう。

 しかしだ、それをアイツの上役がさらに上へあげるのか、そのへんが不明確なんだ。

 だいたいオレは王国がどういう組織図なのかも知らないんだし、何度も断りを入れてるとおり、これは即席プラン。


「そいつを忘れてもらっちゃあ困る。自己弁護だけどな」


 などと言い訳を挟みつつ、カレックス国王の目に止まりやすいようお土産を持たせた意図——コイルガンを披露したもう一つのワケも伝えた。


「効き目がありすぎなければいいですね」

「……なんか心配になってきた」


 せっかく安心しようと話相手になってもらったのに。不安にさせるようなこと言うなよな。


「で、ここからが完全完璧な希望的観測のうえにご都合主義的な展開になるんだが——」


 なかなか煮え切らない周囲や上役に、当事者である徴税官と冒険者らが騒ぎを起こす。といっても、しつこく上進する程度だろうけど。

 しかしそれがつづけば、イヤでもカレックス国王の耳に届く。そうなるよう、繰り返すたび国王の興味を惹きそうな話に変わっていくに違いない。

 一方の冒険者ギルドも、二度に渡る依頼失敗の責を問われ、かといって再び冒険者を派遣するにも手を挙げる者は現れず。これは大きく外していないと思う。

 さらに想像を広げれば、次に王国から妖精の森の調査依頼があった際には報酬額の大幅な吊り上げをしてもおかしくない。そうなったら、ククッ、あちこち拗れるだろうな。


「そうしてとうとう国王自らのお出まし、となれば万々歳という算段だ」

「間がスッポリ抜けているように聞こえましたが」


 コイツ、言うに事欠いて間抜けな計画と遠回しに。まぁ自覚はある。


「言ったろ、即席プランだって」


 それにトントン描写に進んでもらっては困る。倉久手メグルが持ってくる予定の嘘発見機レガリアがまだだ。それだと、もし仮に王の首を取れたとしてもオレの傀儡がスッポリそこへ収まれない。


「なんにせよ、オレらの噂にどんな尾鰭背鰭がつくのか楽しみだ」

「ハァ……。とんでもない火遊びですね」


 こっちに遊んでいるつもりはないんだが……。こんなふうに強がりでも言ってないとやってられないのが、本音だ。


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