第二ウェーブ⑤
抵抗する冒険者どもを拘束しろと縄を持たせ、兵士ABを除く、徴税官らの捕虜らを草むらの穴へと放り込んだ。
これで準備は万端。残すは夜を待つだけ……。
もう空腹と疲労で指一本動かせない。そう訴えるみたいに穴の中は静かになっていた。きっといまは耳を澄ませ、脱出の機会を狙って少しでもこちらの情報を抜こうとしているに違いない。
「見張りは交代で。あと二日ほど弱らせてから引きずり出すぞ」
そろそろ頃合いかとオレは解散を宣言した。もちろん嘘。
冒険者どもを欺くため、つづきを穴の中へも聞こえるように話す。
「今夜はケットシーたちに頼んでいいか?」
「「「ええーッ。ニャんでオイラたちが〜」」」
あからさまな不満の声は重なったが、
「オマエらが一番夜目が利くだろ」
「まぁニャ」
ブチが安請け合いしてくれたので、ここを任せた。
ではオレらは本当にそれぞれの寝ぐらへ帰るのかと言えば、違う。我らピクシーは、お見送りの支度をしなければならないのだ。
草原から森の外へとつづく獣道の傍で待機。しっかりと茂みに隠れ、ククッ、お土産も隠してあるぞ。
夜も更けて、虫の音のさえもおやすみモード。それくらいの静寂さだからか、
「見張りニャんてカッ怠ぅぅ」
「ニャあ」
「ニャあニャあミケ、もうコイツら動かニャいし、見張ってニャくてもいいんじゃねぇか?」
「ブチさんの言うとおり!」
「そうはいってもニャぁ……」
「なんスかミケさん、実はぽっちゃりピクシーにビビってるんスか?」
ブチが怠けようと提案して、咎めたミケを、他のケットシーたちが煽るという画。
この流れのオチは、
「フシャー! んニャわけねぇだろがい。あんなデブっちょ、ワンパンだワンパン。つうかテメェ、さっきからオイラにケンカ売ってんのか? ぁあ?」
「おおよ。先輩かニャんか知らねぇけど、いつまでもデカいツラされてたら堪んニャいぜ」
「上等でい。ついてこいや、こんニャろうめ」
となる。
当然これは一芝居うったわけだが……。おいミケ、まさかマジになってるんじゃないだろうな。
ズンズン持ち場を離れていくまでが段取りなんだぞ。わかるよにゃ。いまは猫パンチボクシングをやってる場合じゃないからにゃ。
……って、ダメか〜。
「オラオラオラぁあああーッ! もっとこいや、テメェは口ばっかだニャ!」
「ニャっにぉおおおーッ!」
あーあ。始まっちゃったぁ。
草原では草が邪魔になるからか、ケットシーたちはだいぶ離れたところまで行ってしまった。
まっ、このあとの展開にアイツらの出番はないので、よしとしておこう。
少なくとも、これを耳にした冒険者どもにとっては『見張りがどこかへ行った』というリアリティは増したはず。
「「「…………」」」
穴の中からヒソヒソと。
「「「…………」」」
耳を澄ませても土と草に掻き消されてハッキリとは聞こえない。だが、だいたいの想像はつく。
「イケるぜ。見張りの猫妖精どもはいない」
きたきた、冒険者が這い出てきた。
そしてまた一人と。連中は残す体力を振り絞り、降って湧いたような好機にかけているのだろう。
「徴税官殿、手を」
「す、すまない」
足手纏いなれど大事な金蔓。連れていくに決まってるよな。
さて、ひい、ふう、みい、よつ……。うむ、二〇名全員が落とし穴から脱出できたようだ。武器の類も持っている、か。
では我々も。
「ピクシー四天王よ。例の準備に滞りないか」
「「「ぴっ」」」
準備もクソも、コロポックルに作ってもらったデカブツを運んだだけ。あとは息を潜め、獣道の茂みに隠れるオレらの前を通りすぎるまで待てばいい。
「徴税官殿、足元に気をつけて」
「あ、ああ。すまぬ」
へえ。一番ゴツい盾役の冒険者が肩を貸しているな。たしかにアイツは身体を張って味方を守る役割、他人を気遣うこともあるんだろう。
「あんな雑魚どもに……、クソッ‼︎」
「おいオマエ、あまり声を出すな」
「獣耳は敏感だ。察知されるぞ」
剣士と斥候らがヒソヒソ怒鳴るなんて器用なマネで、怒りが収まらない魔法使いの一人を嗜める。
ようやく行ったか。よし、それでは——
「おーえす、おーえす!」
「「「ぴーぴっ、ぴーぴっ!」」」
ハァハァ息を切らして必死に歩んでいるだろうから、このくらいの音は気にしないだろう。というか、もういつバレても構わない。
ちょうどデカブツを運び終えたところで——
「見つかったぞ!」
ククッ。それはこっちのセリフだ。ようやくこちらに気づいたか。
「振り返るな!」
「で、でもなんか変な物が⁉︎」
では、妖精を代表してオレからお見送りの言葉を一つ。
「おーいオマエらーっ、忘れものだぞー‼︎」
ここでハンドサイン。直ちに、同胞たちは配置につく。
ガラス質な表面をした砲身に沿って並ぶピクシー四天王。その背後には、班分けされたピクシーたちが前習えで一列に。
そうこうしているあいだに、
「ななななんだあれは⁉︎」
「太っとい杖? じゃないよな……」
「こ、こっちになにか向けられてるぞ!」
「——タンク、防御を‼︎」
「「「おう!」」」
盾役らが鉄壁の陣形を組み、冒険者どもは攻撃に備えた。
だがな、止まった的に当てるほど楽なことはないぞ。得体の知れない物は怖いだろう? さっさと逃げてしまえばケガしないで済むものを……。
同情心は傍に置き。さぁて、いったいどれほどのダメージになるやらだ。頼むからアッサリと逝かないでくれよ。
「陶器製四二ミリメートル電磁加速砲、発射よーい」
いい加減タネ明かしといこうか。
今回用意したのはコイルガン。陶器製の砲身に銅線を巻いただけの、だいぶ擬きだけど、ちゃんと撃てるのは確認済み。
的確なスイッチング——制御の要となるのはレガリアだ。オレは首から下げたそれに触れ、その権能をもって同胞らの意思を掌握、したのち、
「撃ぇええええいッ‼︎」
発射命令!
イメージどおり、砲身に巻かれたコイルをピクシー四天王が突っつく。それはほぼ同時、ほぼだ。しかし実際は、手前から発射口へとコンマ以下ずつ遅らせていく。
タイミングのズレにより初速を得た弾丸は、加速につぐ加速を与えられ——音もなく砲身の中を過ぎ去った。
————ガゴッッッ‼︎
命中を報せる硬質な響き。
その直後、折り重なり防御姿勢をとっていたタンク役らがまとめてノックバック。いいや、一拍おいてガクリと膝をつくなり倒れ伏した。
遠目に見た限りでもわかるほど弾はひしゃげて盾表面にめり込み、クレーター状の跡を残した。
そして注目すべきは盾の裏側。タンクが取り落としたそれを見てはじめてわかったことだが、弾は突き抜けていなかった。なのに耐え切れず。衝撃だけが貫通、結果、盾背面の金属板はギザギザに爆ぜていたのだ。
この一瞬をまとめると、こうなる。
コイルガンから放たれた弾丸は盾を貫けず終い。しかし与えた衝撃は貫いた。身を寄せ合いキッチリと盾を保持していたぶんだけ、伝わるダメージによって体内が蝕まれたわけだ。
「次弾装填!」
オレがこう告げるなり、
「「「——ひッ」」」
正体不明の攻撃を目の当たりにした冒険者たちは、我先にと武器をかなぐり捨てて逃げていく。
大砲みたいな発射の派手さはない。しかし連中に、音もなく鉄塊が飛んでくる恐怖は刷り込めたのではないだろうか。
「ま、待てっ。見捨てな!」
「テメェの命が大事だろが!」
「ままま、ま待ぁああ〜っ。ぅ置いてかぬぁいでぇえー‼︎」
盾になってくれたタンク役の仲間たちも、依頼の大本命である徴税官さえも置き去りにして。
それを掠めるよう、
「撃て」
オレは命じた。
これで、カレックス国王への招待状はちゃんと届くことだろう。




