森の妖精たち④
基本的にピクシーには性別がない。
手のひらサイズの三頭身マスコット的な存在で、愛くるしい顔をしてるが、男の子でも女の子でもないのだ。
あと、どういうわけか最初からオシャレな貫頭衣を着てる。
かたやオレはといえば、特異な個体らしく性別がある。
で、初期装備はなし。だから葉っぱを腰に巻いてたんだけど、その紐が切れてしまったので、再びスッポンポンに。
だがセーフなのだ。我が男児たる象徴を、いまこの瞬間も同胞たちが隠してくれているのだからな。
ピクシーたちはちんちん周りをあっちいってこっちいってして、匠の技でセルフレーティング。
つまり、オレはフルチンだけどフルチンにあらず。安心安心。
ちょっとした解放感にハイになってしまったが、歩みはいつもどおりノシノシゆっくり。
だって宙を舞うには、オレの体型に対して羽が小さすぎる。こないだは腕もバダバタさせて浮いたけど、あれは疲れるからあまりやりたくない。
「ぴー、ぴぴー」
「おお鋭いね」
さすがは我が同胞、先日のゴブリン退治における疑問点を挙げてくるとは。
同じイタズラ好きな妖精でも本能に忠実なフェアリーたちと違って、実に思慮深い。
「ゴブリンたちに遠くへ逃げろと言った理由だよな」
「ぴー」
「ここのところ森に人間の出入りが増えてるだろ」
そのほとんどは近郊の村の住人だ。
「頻繁に野草や山菜を摘みにくるってことは、村の食べ物が足りないんだ」
「ぴ、ぴー」
「だよな。オレらみたいに蜜だけじゃ生きていけないのが人間の不便なところさ。でだ、そもそもどうして食べ物が足りなくなってるのかと言えば、」
これはあくまで予想だけど、あながちハズレじゃないと睨んでいる。
「おそらくゴブリンどもに畑を荒らされたからだと思う」
「ぴー」
「うん。で、ゴブリンどもは村を襲って転々とするうちに数が増えていって、寝床を確保するためにコボルトの洞窟を奪った。これが事の顛末だ。たぶんな」
「「「ぴっぴぃ」」」
「だろうだろう。もっと褒めてくれてもいいだぞ」
コイツらはホントにフラッシュモブが上手い。なんて統率のとれた動きなんだ。
喋っていてイイ感じに煽ててくれるもんだから、こっちもついつい気持ちよく喋ってしまう。
そうこうしてるうちに、コロポックルたちの集落に到着。
半地下のデッカい藁葺き屋根集合住宅がコイツらの住まい。同じ妖精でも、オレらピクシーやコボルトとは文明水準がまるで違う。
ちなみに容姿は、なまらめんこい小人さん。いちおう男女差はある。
「おお、ぽっちゃりピクシー」
「こないだの礼を言おうと思って。水瓶を運んでもくれたんだろ。手間とらせたな」
「なんもなんも。あんたに教えてもらったあれが活躍したわ」
あれとは、再焼成煉瓦の窯のことだ。
作り方は壊れた土窯を粉にして粘土に混ぜるだけ。他にも黒い土の混ぜ物を少々。
オレはベストな配合量なんか知らない。だからこれは、コロポックルたちがいろいろ試した結果。
要するに、銅貨を焼いて叩いてして銅板を作るときに使った。そういう話だ。
これを増やしていけば、コボルトの鉱石掘りと合わせて立派な製錬所も開けそうだけど、富と同時に厄介事も招きかねない。だからそういうのはやめやめ。
「おいおいあんた、めんこいの丸出しで——」
「めんこいって言うなぁあああーッ!」
またしてもノリのいいピクシーたちによる静電気怒髪天。完璧なタイミングだ。
「あっはっはっ、なんど見ても面白いわ」
「じゃあお代ってことで、新しいパンツくれ」
「したっけ、家でお茶でも飲んで待っててねぇ」
というお言葉に甘えて、コロポックル宅へ。
「お邪魔しまーす」
「「「ぴー」」」
中は柱があちこちに立っている広い広い一間。
「いらっしゃい」
なかには他のコロポックルたちがいた。
それぞれに干し草で編み物したり、革を舐めしていたり、寛いでたり。
もちろん我らピクシーはお茶してる集団へ一直線。
出してもらった茶は、植物の根を乾かして煎ったモノのようだ。コーヒーに似ているかも。
フッフッフッ、オレは違いのわかる妖精さん……。
しかしお茶を啜るのはオレだけで、他のピクシーたちはメープルシロップに群がるや否や、茎ストローをズブズブとブッ刺し、ぢゅーぢゅー濃密な甘味を吸い上げる。
「オマエら少しは遠慮ってもんを——」
と注意も虚しく、シロップの壺は空っぽ。
「まったく。コイツらときたら……」
「あっはっは。ピクシーらしいねぇ」
「ごめんな、せっかく集めたシロップなのに」
「なんもなんも」
こういう温厚さは生活の豊かさがあってこそ。ぜひ今後も、コロポックルたちはこのままでいてほしいものだ。
「ほれ、パンツできたよ」
オレが紐つき葉っぱを『パンツ』と教えたせいで、コイツらのなかではこれがパンツってことになってしまった。
だが、ちんちん隠せりゃみんなパンツ。問題はない。
さっそく腰で括って……、よし。
「世話になったな」
「なんもなんも」
またそれか。コイツらはホントに欲がない。だいたいこれで済ますんだ。応急処置用にと、余った銅で作った太めの縫い針と糸束まで持たせてくれるほどのお人好し。
「なにかオレにできることがあったら言ってくれ。借りっぱなしは良くない」
「したっけ、そんときは」
こうして新しいパンツ(葉っぱ)をゲットしたので、我らの棲家である花の群生地へ。
戻るなり——
「てーへんでいてーへんでい、てーへんニャんでーい‼︎」
さもオレの帰りを待ち構えていたかのようなタイミングで、猫っぽい妖精のケットシーが駆け込んできた。




