第二ウェーブ④
目も口も封じた。これで連中はコミュニケーションのほとんどを取れなくなった。
即ち、四つのパーティーという集団から冒険者十六名という個人へ。まとまった場所にいても個別バラバラな状態にしてやったわけだ。
まだ残る可能性としては『厳ついニイサン方が手を触れ合ってサインを送る』なぁんてものがあるが、事前の準備がなければムリ。オレらを見縊っていたアイツらにそんな備え、あるわけがない。
山椒パウダーのデバフが落ち着いたら、本格的に落とし穴から這い出ようとしてくるだろう。それを阻止しつづけて心を圧し折る作業が、最終工程。
森の奥へ合図を送るなり、コボルト、ケットシー、ピクシーがぞろぞろと集合。みんなして落とし穴を取り囲む。
ボーボーに草が生い茂っているから中の様子は覗き込んでも詳しくわからない。ただ草がわさわさと、冒険者らの足掻くさま伝えくれるだけ。
「よじ登ってきたヤツは叩き落としてやれ」
「ヤっちまわニャくていいのか?」
「ブチ、オマエは自分で木を植えたいのか?」
「ニャはっ。ニャるほどニャ〜」
「そういうことだ。ミケは理解が早くて助かる」
「オ、オイラもわかってて聞いたんでい!」
悪い顔をするミケと、プンスカするブチ。良いコンビだよ。
次に倉久手メグルがレガリアを持ってきたら、アイテムとの相性にもよるけど、コイツらのどちらかが所有者候補となるだろう。仲良さげだからのこそ悩みどころだ。
「ねーねー。アタシらいつまでびゅーびゅーしてればいいのー?」
「もう充分だ。お疲れさん」
「もーう。早く言ってよねー」
「「「ねー」」」
今回のことで、フェアリーたちの浮遊Cと風魔法Dは、やりようによってはかなり有用だとわかった。というか粉物との相性がかなりいい。
しかし、余ったスキル『魅了F』は使い道なく死蔵させるのだろうか。できれば伸ばしてもらい、大魔王ぽっちゃりピクシーの覇道におけるヒロイン枠やお色気枠を担ってもらいところ……、ってお色気はムリか。
「なにさー」
「「「なーんか目つき、やらしーい」」」
この性悪妖精にはサブヒロインでさえ、過分な役割だったか。
などと、もう勝った気でいると——
「グワォオオオオーン!」
コボルトの咆哮が。
這いあがろうとした冒険者の鼻っ面に一発食らわせ、穴底へと追い落としたのだ。
ちなみにコボルト魔王の縄文は、未だ魔力切れで白目を剥いたまま。まだまだレガリアを制御するのに困難しているのか。
実は相性が悪い? もしくはアイテムによって引き上げられたチカラに振り回されている、とか……。ここらへんは追い追いだな。
つらつら思考が浮かんで注意が逸れていく。
そこでふと『我ながら甘っちょろいことをしているな』と思った。
さっきミケとブチにああは言ったが、労働力として捕虜にするなんて、殺さないための詭弁だ。
従属させる手間を考えたら非効率もいいところで、その合理性のなさは生存競争においてマイナスに働く。こんなことわかりきってるのに。
「ぴ〜」
「なんでもない」
こういう悩みは見せるべきじゃないな。すみれには、すぐ気づかれて、気を遣われてしまった。
「「ぴっぴー」」
「はあ〜? 弱い者イジメしてるみたいで気分悪いだと?」
……人聞き悪い。
いや、そう抗議したい気持ちはわからなくもないんだ。オレだって好き好んでこうさせているわけじゃない。
だがな、つつじとれんげは不満げに言うけどさ、いまのを耳にした冒険者たちは顔真っ赤だと思うぞ。
よりにもよって最弱と侮っていたピクシーに『弱い者』呼ばわりされたんだ。この世界の強者であるところの冒険者らが抱く屈辱感は、想像を絶するレベルだろう。
その証拠に、穴の淵にかけられた手の反対側には得物が握られている。
「気を抜くな。コイツらまだまだヤル気だぞ」
「ニャあ、いっそのこと登れニャいよう手ぇ切っちまうか?」
「おいおいブチ、ニャに言ってるんでい」
「ミケの言うとおりだ。このまま弱らせてから武装解除。それから拘束。でないと労働力にできないぞ」
「わかってらぁ。でも面倒くせぇニャ〜と思ってニャ」
このときオレは、こちらの会話を聞こえるようにと心がけていた。でないと目を封じた以上、同士討ちの危険もある。ちゃんと敵意を向ける方向は示しておかなければ。
まぁ、それだけが理由じゃなくて、さっきのやり取りから思いついたことがあるんだ。たぶん、即席にしてはなかなかイイ手口ではないだろうか。
仕掛けるのは明日の夜。それまでに、細かいところを練っておかねば。
◇
交代で見張りと追い落としをしつつ、迎えた翌朝——
穴の中は昨日より大人しくなったが、驚くべきスタミナ、未だ冒険者らは這いあがろうと足掻いている。
飲まず食わすだって言うのに……、やはりオレが知ってる人間とは違うんだな。
今朝はそこへゲストを連れてきた。兵士AとBに加えて、他の捕虜たちもだ。もちろん後ろ手に縛ってあり、コイツらに自由など与えてはいない。
なんとも悪趣味なマネを……。と、自分で自分が嫌になる。が、これは今後のためにもやっておくべきこと。
「オマエらもどうだ?」
「「「——っと……え⁉︎ ええ⁇」」」
どちらの立場かを伝えなければこういう反応になるよな。
言われた瞬間は返答に困る問いかけ。しかし身の安全を考えたら、答えは一つ。
穴に追い返す側か、穴へ落とされる側か、そのどちらかをあえて言わないところにオレのいやらしさがある。
「冗談だ。ただ単に、これはオレらを皆殺しにしようとした悪党にお仕置きをしているだけ。オマエらも、そうは思わないか?」
「「「……は、はぁ」」」
戸惑う徴税官や前回襲撃した冒険者たち。
そこに、
「あの、このようなことは……」
一石投じたのは兵士Aだ。
「ああ。サクッと始末しろって言いたいのか」
「ち、違います。その、これではあまりに無体かと思いまして」
「ではどうすればいい? 咎めないから好きに答えていいぞ」
但し、オレが呑める回答に限る。これを言外に滲ませて。
「正面から叩き伏せればよいかと。そのうえで捕虜になされば——」
「バカか。真正面から取っ組み合ったらオレらなんて瞬殺される。これはな、やむを得ない自衛なんだぞ。か弱い妖精さんたちが知恵を絞り、邪悪な侵略者から身を守っている画であって、ちまちま削っているように見えるのはオレらが弱いからだ」
「そのようなこと……。私にしたように雷の魔法をお使いになれば」
「ムリだろ。冒険者はオマエら王国の兵士より腕が立つ。近寄ることさえ危険極まりない。それともあれか、オレらに無謀なマネを嗾けているのか?」
「——め、滅相もない!」
そろそろ充分かな。
他の捕虜には伝わらないよう、パチリと兵士Aにウインク。おそらくコイツには、オレの意図の半分以上は伝わったはず。
これで穴の中へ、聞かせるべき情報は届いただろう。
さて、コイツらを逃すのは今夜あたりとして……、そろそろお土産の準備をしないと。




