第二ウェーブ③
負傷で足止めされた冒険者どもを置いて、オレらは森の奥へと引いたわけだが……。さて、
「段取りを違えるなよ」
「わかってるってー」
「「「ねー」」」
つづいてはフェアリーたちの出番。コイツらが次の一手を打つには閉じられた空間が望ましい。
しかしだ、妖精の森に小屋を建てて『どうぞいらっしゃい』などやってもムダだろう。まず警戒されて終わる。
だとしたらどうするべきか?
「くひひっ。引っかかるかな〜」
「地面に目を向けてると、バレるぞ」
地上がダメなら地下。つまり落とし穴だ。
蓋のうえに偽装を施すが一般的。だが、それだと再利用のたびに手間がかかってしまう。なのでひと工夫してみた。
「パッと見だと、ぜんぜんわかんなーい」
「「「ねー」」」
そりゃそうだ。天然の落とし穴に近くしてあるんだからな。
造りは単純。穴を掘ったら雑草も底へ放り込む。あとは伸びて草と周りの草の先を切り揃えてやれば、完成だ。
ちなみにこの作業を担ったのは、もちろんコボルトたちだ。穴掘りといえばコイツらを頼るのがベスト。期待どおりみるみる掘ってくれたので、カモフラージュの方に時間を割けた。
「油断はするなよ。くれぐれも、斥候の目を欺くための小細工を怠らないでくれ」
「もっちろーん」
「くひっ。ゼッタイ見逃したくなーい」
「わかるー」
「怖がってるフリ、ガンバらなくっちゃー」
「「「ね〜っ」」」
フェアリーたちはわいきゃわいきゃと。
そこへ、
「来たよー」
偵察に出ていたフェアリーによる『冒険者たちが追いついた』との知らせ。
待ってましたとばかりに、総勢十二体の少女妖精らは配置につく。
斜め掛けにされたメッセンジャーバックのようなカバンには、少々の小石と……ククッ、陶器に詰めた例の粉。
それぞれが幹の枝に潜んだところで、
「——いたぞ! デブピクシーだ」
冒険者ご一行のお出まし。
オレは連中を、草原で、正面から待ち受けた。
妖精が立てば埋もれてしまうほど、冒険者たちの腰の辺りまで生い茂った高密度な草緑。
その切り揃えられた草の先に足がつくかつかないかの高度を、ゆうゆうと羽をはためかせ浮いているのだ。
「失礼なヤツめ。ぽっちゃりと言い直せ、ぽっちゃりと」
「——舐めやがって!」
魔法使いの一人が怒鳴った。
しかし意外だ。後衛の役回りからして、もっと冷静な性格であるべきだろうに。これも決めつけかな。個性は人それぞれ。適材適所でないのは確かだけど。
などと冷めた目で観察していたのが気に食わなかったのか、他の魔法使いたちも熱り立つ。
「落ち着け」
静かにそう言ったのは、斥候の一人。もう弓はこちらで強奪済みなのでアーチャーというのは省く。
で、ソイツの発言に別の斥候らも頷きで返して、露骨なまでの待ち伏せに警戒を示した。
そうだ。迷え迷え、迷うがいい。
オレだけが姿を表していて、コボルトもケットシーも見当たらず。
草むらの中に潜んでいるのか、それとも樹上か。ククッ、ほらほら空にも注意を払わないとだぞ、ピクシーもフェアリーも飛ぶんだからな。
ちゃんと嘲笑えるよう心のなかを黒く染め上げて、立ち止まった冒険者たちを見下す。ニタリと、さも怯えて足が竦んでいるさまをバカにするように、ツンと顎先をあげ、たっぷりと口角も吊り上げて。
「「「クッ……ギギッ」」」
歯軋りの音が返ってきた。
さぁフェアリー、充分あっためてやったぞ。
「隙ありー」
「「「やーあ!」」」
姿を現すや否や、鬨の声に届かない呑気な掛け声とともに小石を一斉投擲。
コツンと当たり痛がってくれたら可愛げもあるんだが、冒険者どもは当然あっさりと躱す。
「ハンッ。まるでガキの遊びじゃないか」
「だからって手加減はなしだぞ」
「当たり前だ! へへッ、楽に殺しはしないさ」
「いいや、始末に手間をかけるな。うざったいのは他にもいる」
「チッ。わかったよ」
へえ。パーティー四つから冒険者十六名の集いに進化とはな。やはり団結には共通の敵の存在が一番の薬となるか。
「に、逃っげろーう」
「「「わーわーうわ〜ん」」」
……。もう少し、なんとかならないものか。大根芝居すぎてバレないか心配になるぞ。
「アタシら可愛いから、捕まったらイタズラされちゃーう!」
「「「きゃー、ヘンタイヘンターイ!」」」
だが、さすがは性悪妖精筆頭。煽りは達者なようで、
「「「ギぬぬッ!」」
見事に釣れた。ついさっきやり込められたばかりだというのに、冒険者らは短気を起こして逃げる相手を追う。
この無防備さも我ら妖精への侮りゆえだろう。一度でも弱者と決めつけてしまえば、そう簡単に意識は覆らないものだ。
フェアリーたちは真上へは向かわず、こっちを目指して草の先スレスレを飛行。
「ぽっちゃりピクシ〜、助けて〜!」
「「「ヘンタイが追ってくるよ〜う」」」
さらに挑発を繰り返す。
アイツら……。よほど決定的なシーンを見逃したくないのか、フェアリーズは逃げつつも後ろを振り向いたまま。その視線が、より追っ手の注意を引きつける。
次第にオレとの距離は縮まっていく。それに伴い僅かずつ高度を上げていく。
結果、冒険者らの視野から草むらはなくなり、
——ドズッッッ‼︎
突如として草原に現れた暗がりの底へ。まるで足元がスッと消えたかのように、揃って仲良く十六名全員が嵌ったのだ。
草むらに隠れる程度とはいえ、窪みと言うには些か深すぎる穴。手を伸ばせば穴の縁に届く程度で、現代人なら落ちれば骨折必至の高さ。
「「「きゃっはっ! 落ちた落ちた〜落っこちた〜。ぷっひゃっははははははは〜っ!」」」
そしてフェアリーたち、指をさしての大爆笑。
さてさて肝心の冒険者どもの損害具合はといえば……、
「クッソ」
「ちくしょうめ、嵌めやがった!」
「こんなものよじ登ればいい!」
ほぼ無し。頑丈だな、アイツらまだピンピンしているぞ。
だがしかし穴底へのご案内はオードブル未満。ではこれより、フェアリーの風魔法によるメインディッシュをどうぞお楽しみください。ククッ、なぁんてな。
覆い尽くす草緑の視界を掻き分けて、冒険者どもは壁を探っている。
そこへ、良い子は真似しちゃダメなやつ——
「美味しくなーれ」
「「「風魔法で、びびゅ〜ん!」」」
落とし穴へ山椒の粉末を振りかけ、撹拌。
するとどうなるのか?
「「「グギャァアア——ッグホッ! ゴホゲホ、グェホッ、カハカハ、カホッ……」」」
目が痛み、つづけて咳とクシャミと涙と鼻水、加えて喉が焼けるみたいな、粘膜すべてへの刺激となるのだ。
さぁて、まだまだコースは始まったばかり。お次のメニューは『見えない恐怖をご堪能』と洒落込んでもらおうか。




