公共事業④
「ふぁ〜あ……。オレ、先いくから」
陽が沈んだら床につく。こんな生活を送っている妖精の森だから、昨日はケットシーのところで長居してしまいタイムアップ。結局、鰹節っぽい木の実の調理は試せず終いだった。
なので、今朝は早くからコロポックルの集落へ出向くのだ。
開墾作業がはじまる前に仕込み、できたら昼メシとして出せたらと考えている。
到着して、さっそく調理場へ。
しかし、いざヤル気を出してみてもオレの短い手足では包丁ひとつ満足に扱えない。なのでレペゼン・コロポックルに助手を頼んだ。
「キノコも入れたらいいんでないかい」
「うむ。旨味かける旨味、ありよりのありだな。あと木の芽——山椒の葉っぱも少々入れてみようか」
「実でなくて?」
「ああ。ほんのりなピリ辛さと香りのアクセントに」
「ほえー。面白いこと考えるねぇ」
そう手間も時間もかかる料理ではない。キノコを割いてから中火で出汁をとり、つづけて鰹節みたいな木の実を削って粉末に……ん、そういやこれ、なんていうんだろ。
「この木の実って名前とかあるの?」
「バニートの木に成るから『バニートの実』って呼んでるさぁ」
「ほぉう。なら、コボルトたちが食べてる骨みたいな木の実は?」
「あっちはフェモリスの木に成るから、」
「フェモリスの実と呼べばいいか」
「あいさ」
つくづく呼称は便利だなと思った。当たり前のことだけど。
「出汁はとれた。肝心のお味の方は……」
「どれどれ」
オレとレペゼン・コロポックル、ふたりしてズズズッと味見。すると——
「「んまい!」」
えっ、えっ、えっ、なにこれなにこれホントかよ。あと少し塩で味を整えたら完璧だろ。これに山の芽で香りづけなんかしたら、めちゃくちゃ美味しいお吸い物の出来上がりじゃないか。
と、テンション爆上がりで試食していたら、
じとー……。
と調理場を覗き込む、いくつもの咎めるような視線に気づく。
「「「ぴぴー」」」
「ごめんって。つうか甘くないけどいいのかよ」
ピクシー四天王の他にも、
「オマエらもか」
「「「ワウ」」」
縄文を筆頭にコボルトの一団も。
「お椀の数たりるかねぇ」
「コップも使ったらいいんでない」
コロポックルたちはすでにみんなに振る舞う支度を。
そして、ミケとブチに連れられた、
「ニャはぁ〜。めちゃくちゃイイ匂いニャんだがぁ……」
うっとり顔した子ケットシーの姿も。
こうなったら作業どころではない。香りに釣られてっていうのは予定どおりだが、本当は昼に出すつもりだったのに。まぁいいや。
「仕事の前に、これで身体をあっためてくれ。鰹節——もとい、バニートの実の新しい食べ方の提案だ。こいつは高タンパク、かつ旨味満点。粉々にしたから残さず摂取できるという寸法で」
……って、誰も聞いちゃいない。
「オイラたち、お代わり分の木の実とってくるニャ!」
「うちらはキノコを!」
「山椒を探してくるワン!」
おいオマエら、開墾作業を放っぽりだしてお吸い物づくりに本気だしてどうするんだよ。まったく。
でもまぁ、こんな日があってもいい。
このぶんだと当初の目的であるバニートの実を植えてみるって話も、ケットシーは快諾するだろう。
やれやれ全員が出払ったかと思いきや、コボルトの魔王——縄文だけが戻ってきた。ハッハと息が弾んでいる。
「これも使ってほしいワン」
その手には、フェモリスの木から捥いだばかりの木の実。桃色の果皮を被した大腿骨っぽいそれを差し出すようにして。
「どれ」
興味本意で果皮からカプッと一口。すると飛び出した汁が舌上を走り、
「——ぐうえっ、にっぐぅえええ」
強烈な苦味。
これってタンニンってやつじゃないか。いつまでも渋苦さが抜けない。ずっと舌にイガイガした不快感がまとわりついて、ぬうぇえええ……。
「な、なかの実は美味しいワン」
「と言われてもな、もう味なんかわからないぞ」
クゥーンとしょげられては叶わないので、味見はした。だが味覚が逝ったままだからか『味のないナッツ』そういう感想しかもてなかった。
「煮るか、塩水に漬けるか、干すか。いろいろ試してみないとだな」
これまで捨ててきた果皮まで食べられるようになったら、コボルトが増える要因になるかもしれないからな。
しかしそうなると、ますます加工の手間などでコロポックルの手が足りなくなってしまう。やはり、フキ畑を広げるという一手は間違いではなかったようだ。
あくまで結果論。されど、クックックッ、さすがはオレといったところ。
開墾が一段楽したら、次はメープルシロップの増産もありかも。ピクシーとフェアリーの増員に繋がるかもしれないし。
「ぽっちゃりピクシー。出汁はこんなもんでいいかい?」
「オレ、いま舌が痺れてて味わからない」
「あいさ。なら、うちの好みで」
いつのまにか第二弾のお吸い物を作りはじめたレペゼン・コロポックル。
だが調子に乗ったらしく、あろうことか山椒の実の方を投入しようと——
「おい待て!」
「え?」
時すでに遅し。
せっかくのお吸い物の水面には、粉状の山椒が見てわかるほどプカプカと。
お残しは許しまへんで、という精神から、コロポックルたち総動員で飲みきった。みんなして辛い辛いとホロホロの涙目になりながら……。
本来なら山椒の粉は調味料。だけどオレはもっと別の用途を考えてるんだ。それは——
「ねー。アタシらの分はー?」
「「「ホントそれー」」」
遅れてきたフェアリーたちの武器。
これではもう明かしたも同然だが、いまは『コイツらの風魔法と掛け合わせる』とだけ。




