公共事業③
予想どおりと言えばそのとおりなのだが、日に日に開墾の作業ペースは上がっていった。
原因はもちろん、スキルの熟練度が上がったからだ。
その成長ぶりは目覚ましく、ピクシー四天王のすみれ&あやめペアは一日中切りっぱなしでも疲れ知らずに。つつじ&れんげペアは残像でも表れかねない素早さでワイヤーをギコギコと。
縄文は魔王としての統率力をみせ、コボルトたちの穴掘り効率は良くなる一方。
これは防衛陣地を造るときにも期待できそうだ。
ケットシーのミケとブチも、木の根を切断するまでに猫爪を当てる回数が明らかに減った。
やはり、鍛えるべきは猫パンチじゃなくこっちだったな。
コロポックルは、全員が開墾に参加しているわけではない。
切った木を炭焼きしたり加工したり、依頼したピクシー用の武器製造に取り掛かってもらったり。
ちなみにフェアリーたちには、こっちの手伝いを頼んだ。フーフー送風する吹子の代わりをしてもらっている。
この機会に少しでも熟練度を稼いでおいてもらいたい。
これらを毎日毎日、日が暮れるまで。
フキ畑の土地を拓き終えたあとのステータス鑑定が、いまから楽しみだ。
◇
帰り際、オレはケットシーたちの住まいを訪れた。
そこは樹洞を猫爪で削って拡張したんだろう、なかなかに趣きのある居住空間。ひょっとしたら順序は逆で、爪研ぎをしたから広がったからかもしれないが。
やや不躾に室内の様子を入り口のところから眺めていると、
「ニャんかようか?」
ミケでもブチでもない直立二足歩行の子猫がお出迎え。
これは興味深い。ケットシーは増えてすぐ成人してるわけじゃないのか。ぜんぜん知らなかった。
ミケかブチを呼んでくれと告げる前に、その後ろから、
「おいテメェ。先輩に対してそういう生意気は許さニャいぞ」
ミケがシャーッと。
「ふニャぁ……」
叱りつけられた子ケットシーはショボンと。
「よくきたニャ。ほら、ぽっちゃりピクシーも食えよ」
ブチは鰹節——もとい、よく似た木の実を放ってよこしてきた。
さらに部屋の奥へと目をやれば、うず高く同じモノが山積み。
見るからに保存が利きそうだからムダにしなくて済むんだろうけどさ、こんな量があっても食いきれないだろ。
「こんな硬そうなモノどうやって食えばいいんだよ」
「あぁん? ペロペロ舐めるか、爪でカリカリ削ってゴックンしろ」
ブチのやつ、それをぷにぷにピクシーのオレができると思っているのか。まったく。
でも薄くスライスして出汁をとったら美味いかもしれないな。せっかくなので、これはコロポックルのところへ行くときのお土産にしよう。
おっと、食料事情も大事だが、そんなことより本題本題。
「なぁ。木の実なんだけどさ、食いきれない分は植えてみたらどうだ」
「ニャんか意味あるのか、それ」
「そんニャ勿体ないマネできるかってんでい」
若干だけどミケの方が話をしやすいかもしれない。なんというかブチは、いちいち脊髄反射だ。
「そもそも種っていうのは増えるためにあるんだぞ」
「へー。つぅことは、埋めたら木の実の木が増えるってぇ寸法か」
「ああ、ミケの言うとおりだ。いつになるかはわからにゃいがな」
「おいコラ、オイラたちのマネすんニャや」
おっといかんいかん。ニャーニャー喋るもんだから移ってしまった。
ミケはともかく、ブチの方があまり理解を示さず、この後も補足の説明を加えた。しかし結果は、
「そのうち食う。それに面倒ニャことはしたくニャい」
素気無く断られてしまった。
まぁ、妖精の感覚からしたらオレが言ってる事の方が不自然なのかも。
だからって引いてたまるか。人口はチカラだ。今後ケットシーの生息数が回復したら、そのときにはもう、木の実を植える食料の余裕なんてなくなってしまっているだろう。
よって、やるなら今しかない。というわけでオレは本気を出すことにした。
「クックックッ。どうもオマエらは、その木の実の本当に美味い食い方を知らないようだな。いいだろう。明日、コロポックルの集落に来てくれ。そこでこいつの本当の旨さってやつを教えてやる」
「は? ニャにヤル気になってるんでい」
「いや、明日も作業あるからいくけどニャ」
やれやれと呆れ顔を向けるミケとブチ。そして子ケットシー。なにげにコイツら、血の気は多いくせに食い気はそうでもないらしい。
贅沢を覚えさせることにはなるが、この機会に、火を通した食べ物を試してみるのもありか。
人類も『消化に使う時間を減らしたおかげで発展した』みたいな説を聞いたことがある。だとしたら、実は妖精にも有効だったりするかもしれない。
「おう、ぽっちゃりピクシー」
「なに」
「帰る前に」
ああ、ステータス鑑定の催促か。そういやしばらくやってなかったな。
ちなみに『鑑定の皿』は持ち歩くのに不便だったので、いまは首から下げている。
「どれ」
と、まずはミケから鑑定——
個体名称 :ミケ
種族分類 :妖精種 ケットシー
魔力値 :49
理力値 :0
アビリティ:猫打C +98
猫爪C +324
威嚇E +217
——という結果に。やはり猫爪の成長が目立つ。
伸び率はブチの方も大差なかった。しかし、好奇心から子ケットシーもステータスチェックしてみるたら——
個体名称 :なし
種族分類 :妖精種 ケットシー
魔力値 :19
理力値 :0
アビリティ:猫打C +74
猫爪C +62
威嚇E +138
——と、かなり興味深い示唆を含んでいた。
どのスキルの熟練度も初期値にしては育っているのがわかるだろうか。もちろん、チケやブチほどではないが、生まれたばかりのケットシーというには高すぎるステータス。
このことから導き出される推論は……、
「ぜんぶ一からではないのか」
育成した結果は次世代にも反映されていくということ。
これが妖精に限った話なのか、この世界のすべての生き物に適応されるのか。それらを確かめるには膨大な時間が必要となる。
だがオレは仮の結論として、世代間においての熟練度の蓄積は、妖精だけ、もしくは似たような増え方をする種に限った特徴だと考えた。
他の種にも適応されるとなると様々な不具合がでる。正直かなりの部分に希望というバイアスがかかった推察であることは否めないが、そこまで間違った予想ではないはず。
死したあとは骨も残さず消えてしまう妖精の、生きてきた時間はムダではなかった。どうしても、こう思いたかったんだ。
「おいおいニャんでい」
「ぽっちゃりピクシー、泣いてるのかぁ?」
「……いいや」
つい、感極まってしまった。
潤っときた目元をゴシゴシして、子ケットシーに向き直る。
「明日はオマエも来いよ。美味いものを食わせてやるからさ」
すでにオレよりも高い背丈。それでも羽をバタつかせて浮き、新たな妖精の頭を撫でた。




