公共事業②
フキ畑の拡張。その開拓を担うのはピクシーのみならず、ケットシーらにもコボルトらにも協力を仰ぐ。つまりこれは、妖精の森はじめての公共事業となるのだ。
ちなみにフェアリーたちには別の仕事を頼む予定。
そのあたりの話をつけにいく前に、
「ザックリした説明ばかりで悪いが、よろしく頼む」
「なんもなんも。したっけ、いったんぽっちゃりピクシーに言われたとおりに作ってみるさ」
まずはオレらでも使える伐採道具を製作してもらう。いいや、これは謂わばオレらピクシー専用というべき仕様。クックックッ、詳しくはのちほど。
あと忘れずに、当初の目的であるジョウロ代わりの道具も依頼した。
「にしても、いくつも小さな穴を空けた水瓶なんて役に立つのかい?」
「串を差したくらいの穴でいいから。それを持ったまま飛び回れば、花の群生地に雨みたいに水を撒けるだろ」
「ほえー。よく考えるもんだねぇ」
レペゼン・コロポックルによると、どちらも一両日中には試作できるとのこと。となると、余裕をもって三日後にまた来ればいいか。
この間に関係各所へご説明してまわるわけだが、こういう利害調整って魔王というよりは役人とか仲介職のお仕事では……などと、妖精に転生した今生においてもセカセカ働くハメになったことに嘆息してしまった。
まっ、いまはまだ忙しぶってみせてるだけ。本格的にてんやわんやになるのは、もう少し先になるだろう。
◇
本日は晴天なり。絶好の作業日和。
開墾第一段、伐採の人員は——
「うおっほん。では作業開始にあたり、まずは安全確認からはじめます」
「「「ぴ!」」」
「周囲確認、よし」
「「「ぴっ」」」
ピクシー四天王と、
「倒木方向」
「「「よしさっ」」」
「退避線確保」
「「「よしさっ」」」
コロポックルたちだ。
安全ヘルメットなど形から入るようなことはしていないが、万が一に備えた心構えはしておく。こちらの方が重要であり、けっしてノリで言ってみたわけではない。
切り倒した木が間違っても予期せぬ方向へ倒れぬよう、コロポックルたちによって幹には何本か縄がかけられ、それらは杭で固定されている。
我らピクシーの作業はここから。四天王には、すみれ&あやめペア、つつじ&れんげペアの二組に分かれてもらう。
で、なにをどうするのかと言うと——
「見事な仕上がりだな。作るの大変だったろ」
「なんもなんも。教えてもらった端を引っぱって穴を通すやり方で、いい具合の線にできたさぁ」
製作を頼んでおいた伐採道具の出番。これまでに引っ剥がした剣や鎧を鋳潰して、鉄のワイヤーを撚ってもらった。
ここに発電スキルが加われば、木の接触部は脆くも炭化され、糸ヤスリで削るが如くゴリゴリと切断されていく。
さてこれ、ホットワイヤーカッター的な発想だが少し違う点もあるのだ。
樹木の接触部分を乾燥炭化させて焼き切るのはそのとおり。しかし同時に、擦りつけることで摩擦による熱を稼いでもいるのだ。その切断面に木目は見当たらず、粉っぽい炭色となる。
この際、電気を流して『雷魔法』のスキル熟練度を稼ぐだけでなく、素早く前後に移動をして『浮遊』の馬力とコントロールも鍛えられるようにした。
遊び要素を入れないとピクシーらが飽きかねないので、競争にしたわけだ。賞品はコロポックル提供のメープルシロップ。
繰り返しになるが、伐採した木に押しつぶされないよう倒れる方向を整えたり、切り口に気を配ったりするのはコロポックルたちにお任せ。
なのでピクシー四天王には事故の心配などせず、思いっきり励んでもらいたい。
すみれ&あやめペアは「ぴっぴ、ぴっぴ」と息を合わせてリズミカルに、つつじ&れんげペアは「ぴぇえええーい!」と後先を考えないハイペースで。
そして朝からはじめて休憩を挟みつつ、陽が真上を通りすぎたころ——とうとう最初の一本目が切り倒された。
勝者は意外にも、つつじ&れんげペア。
「「ぴぃい〜ん」」
もうムリぃとヘナヘナ地面へ伏せるバテバテっぷり。
しかし賞品のメープルシロップの香りを嗅ぎつけるなり、茎ストローをブッ刺してズズズーッと頬っぺをへこませる元気は残していたようだ。
切り倒した幹に木材として利用する予定ではないので、切り口は粗くても構わない。なので半ば過ぎまで焼き切ったら引っぱりを強くし、傾けた木の自重で折り倒す。
以上の段取りで伐採は進められていった。
だが本日これより後の作業、つつじ&れんげペアは不参加。満腹で寝てしまったからだ。逆に、すみれ&あやめペアはピクシーらしからぬ実直さで働く。
これは明日以降に差がつくんじゃないかとオレは予想。もしくは、瞬発タイプと持久力タイプみたいな個性の違いが表れるかもしれない。
「そろそろオイラたちの出番かニャ」
「待ちきれニャいぜい」
ケットシーの両名はウズウズした様子。
ちなみに、コイツらにも請われたので名前をつけたのだ。
「まぁまぁミケ、ブチも待てって」
見た目のまんま安直な名だけど。
「先に、コボルトたちに根を剥き出しにしてもらわないとだ」
「ワウ! やるワン」
コボルトの魔王——改め、オオカミっぽい顔つきから今後は『縄文』と呼ぶ——の号令の元、
「「「ワォン!」」」
切り株の周りを掘りはじめた。
みるみる深さはオレが埋まるくらいまで。
さらに倍まで掘り返したところで、作業はケットシーたちに交代。シャキーンと伸ばした爪で、細い根をプツンプツン、太い根もカリカリ切断していく。
オレらの非力さで切り株を取り除くのは効率が悪いので、根を切ったら森の土をかけてそのまま放置。そのうち朽ちてフキの養分となるだろう。
こんな具合に、魔王ぽっちゃりピクシーによる初の公共事業『フキ畑用地の開墾』は、習得スキルの強化も兼ねて進められたのだ。




