大魔王ぽっちゃりピクシー③
解散したあと、オレはゴロリと寝転がり茎ストローをスースーしながら考えにふけった。
妖精の森に侵入した冒険者は四人パーティーが二組、合わせて八名だった。
その内の五名は始末済み。残る三名は武装解除させ、手当てもせずに穴牢に放り込んであるそうなので、落ち着いてから情報を引き出すこととした。
これからの事ばかりで、どれから手をつけたものか……。
取っ掛かりとして一番はじめにやるべきは、勢力の掌握からだろう。
とはいっても他の妖精たちをオレの配下するわけじゃない。共通の目的のため、これまでの関係を共同体らしく発展させる。そういう方針だ。
それに先立ち、今現在の種族ごとの個体数を改めて把握——
ピクシーは、オレと四天王で五体。
フェアリーは、襲撃の被害はなかったが元から少数で十二体。
コボルトは、魔王を含めて八体。
ケットシーは、二体。
コロポックルは、四二体。
——この森にいる妖精は以上だ。
他の地域も探したら同種がいるのかもしれないけど、仲間だと認識できる妖精に限れば、これだけ。
もし番となり繁殖する種族だったら、絶滅確定種だな。
しかし我ら妖精は、生息環境が整えば勝手に増えるのだ。いったいどういう摂理なのか、そのあたりの推察は生物学者に任せるとして、
「とりあえず花の種でも植えるか」
「「「ぴっ」」」
まずは手っ取り早いところから。荒れ果てた花の群生地に、ピクシー四天王と種を蒔くことからはじめた。
作業の合間、ふと思う。
そういう生き物だと言ってしまえばそこまでなのだが、オレらはまるで『畑で獲れた兵士』みたいだな、と。タワーディフェンスゲームさながら、ここを守りつづける限り無限湧きして……。
さておきだ。
オレらはこれでいいとして、他の妖精はどのような場で生きているのか。
コボルトに関しては以前にも触れたとおり、洞窟で暮らし、そこで専ら鉱石集めをしている。
では鉱石があれば増えるのかというと、そうじゃない。アイツらは棲家付近の幹に成る木の実を主に食す。
これがちょっと変わっていて、柔らかい桃色の果皮を剥くと表れる大腿骨みたいな形の種子。乳白色で長細い。それをガシガシ齧るのだ。
一方のケットシーはといえば、アイツらも木の実を食う。
だがコボルトの好むものと違い、半月型で茶色の、なんとなく鰹節にも見えなくもない形状をした実だ。ちなみに香りもそれっぽい。
で、連中が普段からなにしてるかは不明。あまり執着しない性質のようで、それこそ兵隊ごっこをしたり、猫パンチでボクシング大会をしたり、かなり自由だ。
どちらにも共通しているのは、栄養価バッチリな食べ物が身近にあり、食うに困っていないこと。なので、しばらくしたら元通りの数に戻るだろう。
でも逆を言えば、すぐには生息数の大元になる食料自体を増やすのは難しい。たしか、木の実がつく幹は継木が難しかったはずだからな。
オレの知識の曖昧さに加えて、そもそもここはファンタジー世界なんだから常識それ自体が違う。だったらやるだけやってみるのもいいか。いや、やっぱり素直に木の種から植えた方が早い気もする……。
「なんにせよ、弱いのに数の暴力にも訴えられない縛りは、なかなかに厳しいよなぁ」
「ぴ?」
ピクシー四天王のひとりが、オレのボヤキに首を傾げた。
他は、マジメに種を植えていたり、種でキャッチボールしてたり。
やはり、同じピクシーでもそれぞれ個性はあるもんだ。……こんなの当たり前の話か。
「なぁ」
「ぴ?」
「オマエらの名前、オレがつけてもいいか?」
これでイヤだと言われたら、せっかくの覚悟が無駄になるけど、それでもいいやと心に予防線を張っておく。
「ぴ〜いい〜」
「どーしよっかなー、じゃないよ。まったく」
想定外の方法で気分を台無しにされたぞ。
「そういう気づかい上手なオマエは『すみれ』だ」
ああ。こうやって個体として認知すると同じ黒目がちな顔つきも違って見えてくるもので、すみれの瞳には優しげな潤みがあり、仕草にも可憐な雰囲気があるような気がした。
いまも種を植えつづけるマジメなピクシー四天王には『あやめ』と、嬉々としてキャッチャーボールのピッチャーをしている天真爛漫な方は『つつじ』と、ナイスキャッチを繰り返すこだわり派は『れんげ』と、それぞれ名付けた。
「すみれ、あやめ、つつじ、れんげ。これからオマエらにはピクシー四天王として我が軍団の中核を担ってもらう。励むように」
「「「ぴっ」」」
ビシッと敬礼とは、やはりノリがいい。ただ、それだけで突っ走ってほしくないのも本音。
「でも頼むからムチャなマネはしないでくれよ。名前まで付けたオマエらになにかあったら、ヘコむ」
「ぴー」
すみれはオレの葛藤に寄り添い、
「ぴっ」
なぜか、あやめは気合いの入った顔つきに。
「ぴっぴー」
「ぴーい」
つつじとれんげは、なにを言われたのかよくわからないといった様子だ。
なんにせよ、これでオレはもう引けなくなった。絶対にコイツらを失わないよう立ち回らなければ。
その手始めに——
「コロポックルのところへ行くぞ」
「ぴー?」
「種を植えただけじゃ花は咲かないからな。水を撒く道具を作ってもらう。クックックッ、実は他にもアイディアがある」
「ぴっ」
「ああ。あやめの言うとおり、今後の連携についても話をしないとだ。——って、つつじ。れんげも、茎ストローは置いていけ」
「「ぴ〜」」
「べつにシロップをご馳走になりにいくわけじゃないんだぞ。催促するみたいにするなよ」
こんな他愛もないやり取りにも各々の個性は表れる。
どれも失う怖さから見ないフリしてきたもので、一度でも知ってしまえば、こんなにも尊く感じてしまうもので……。
でもオレらの関係性はなに一つ変わっていない。なのに、こういうのも悪くない、そう思った。




